第1章 「伝説のアイドルの伝説」8
*
放課後、俺はアイドル部の生徒たちに瀧口の件をどう切り出そうか迷っていた。
瀧口のプロデュースするアイドルたちと対決なんて、こちらの勝手な都合に巻き込んでしまうんだ。流石に報告しないわけにはいかないだろう。
ストレッチ中の部員たちを見ながら、その機会を窺う。
涙歌とあゆむがペアになって、背筋の曲げ伸ばしをしている。二人、背中合わせで互いの腕を掴み自らの方へ引き寄せる。しかし、モデル並みに身長がある涙歌と、小柄なあゆむとでは全くのアンバランスだ。あゆむが涙歌につり合う存在になるという夢を叶えるには随分と時間がかかりそうだな。
「こっちをチラチラ見て、どうかしましたか?」
「え?」
気が付くと、二人がこちらを見ていた。あゆむの方はともかく、涙歌からは冷たい視線が突き刺さっている。
「やっぱり、先輩はJK好きなんですかぁ~?」
あゆむが、涙歌の腕を引くと、形の良い双丘が天を突く。
「なっ、なんでそうなるんだよ。ちょっとお前たちに話しがあって、見てただけだよ」
今度は、涙歌の方があゆむの手を引く。と、なだらか地平線が広がる。
「ほらぁ~、やっぱり見てたんじゃないですかぁ~」
「見てないよ……」
その前に、いい加減、逆さまになったまま人と話をするのは止めて欲しい……。という心の声が聞こえたのか、あゆむはストレッチを止めて俺へと向き直った。
咲月も、両足を伸ばしてお尻を地面につけたままではあるが、動きを止めてこちらの話を聴く姿勢を示している。涙歌は、相変わらず斜に構えたままだが。
「それで、お話ってなんですか?」
そう言って促すあゆむに俺は瀧口とのことを話した。商店街のイベントの件、瀧口亮輔がプロデュースするアイドルユニットも合同で参加することになったこと。どちらが商店街の売り上げに貢献したかを勝負することになったことを。
「勝負、ですか?」
あゆむの言葉に、涙歌の眉がピクリと反応する。
「あ、いやっ。それは別に意識しなくてもいいって言うか、みんなはいつも通りやってくれればいいと思うよ。勝負うんぬんは、瀧口さんが勝手に言っていることだからさ」
目線を宙に泳がせていたら、あゆむと目があった。
「瀧口さんって、あの! 瀧口亮輔さんですよね!? 木村先輩と共にSKB、影のツートップと言われたあの、瀧口さんですよねっ!」
目を輝かせたと思ったら、3メートル先から一足飛びでこちらへと間合いを詰めてきたので、俺はのけぞる形になる。
「ああ。そうだけど……。って、影のツートップなんて言われてないだろ」
「そうでしたっけ? アタシの中ではそうですけどね。でも、凄いですよ。あのお二人がお互いの教え子同士で対決なんて!」
ずずいっと紅潮した顔を近づけてくる。熱い吐息が鼻にかかってくすぐったい。
「やりましょう! ぜひ、ぜひ!」
ねっ、ねっ。と、言うと、あゆむは涙歌の手を掴んで強引にうなずかせた。
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