第百十四話 破滅の在り処【中】
(なにがどうしてこうなったんだ)
三十四になる
ぱちりとぶつかった飛龍の濃い緋色の瞳が、目配せをして向かいの席を示す。座れ、ということらしい。
一礼した暗珠が卓につくころ、飛龍は茶杯に口をつける。
「手慣れているな」
「じぶんで淹れたものが、口に合いますので」
「金木犀の香りのする茶か。銘柄はなんという」
「
「香りのわりには、さほど甘くはない。悪くはないな」
「お気に召されましたなら、幸いでございます」
皇子のくせに茶汲みをするのか、と揶揄されているのかとも思ったが、そのわりには会話が続く。
飛龍の物言いにも含みはない。どうやら勘ぐりすぎたらしい。
(それはともかく、なんでいきなりこの人が来るんだよ!)
暗珠は内心荒ぶるも、表面上はつとめて平静に口火を切った。
「ご多忙の折に恐縮でございます。お呼びくだされば、うかがいましたのに」
「食思不振だと聞きおよんだ」
「……それは」
「幸い、茶を淹れる元気はあるようだ」
息子の体調が優れぬようであるから、駆けつけた。飛龍はそう言いたいらしい。
(『息子想いの皇帝』……か)
喘息をこじらせたとき。高熱でうなされていたとき。
暗珠のからだに刻まれた記憶でも、飛龍は多忙な合間を縫って、様子を見に来てくれていたように思う。
亡き皇妃を偲び、たったひとりの皇子を見守る父親。なるほど、人としても君主としても、賞賛される人格者だろう。
そんな飛龍を前にして、どこかぎこちなさをおぼえるのは、じぶんが本当の息子ではないからなのか、と
いま一度茶杯へ口づけた飛龍は、黙り込む暗珠へ、鮮烈な色彩のまなざしをよこす。
「暗珠よ。十五にもなれば、そなたも皇族としての自覚が芽生えよう」
「もちろんにございます」
「では問おう。そなたは玉座がほしいか、暗珠」
血のように
「座るだけの椅子なら、この紅木でも事足りるではありませんか」
「ほう?」
「しかしながら、臣民を導く者の座す椅子が皇帝という地位ならば、私にとって必要なものです」
正解などわからない。そんなもの、はじめからないのかもしれない。ならば暗珠も、思うがままの本心を口にするだけ。
「私は私のたいせつなものを守るため、その
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