バレた
「ぜったいゆるさない!!」
派手な反撃で先生に捕まったせいか、いやがらせの話が広まったしまった。
そして当然のごとく、どこからか情報が漏れたのか家に帰るなりスフィにバレた。
今までは貴族らしいお上品さと言うべきか。最初の汚水以外は言葉での嫌味が主体だったからバレていなかったんだけどね。今回の騒動までは流石に隠しきれなかった。
「お姉ちゃんがひとこと言ってくる!」
「やめて」
スフィまで目をつけられてしまう。せっかくいい感じに学校生活を送れているのに、そんな理由でスフィが悲しい思いをすることになったら……。
「ぼくは学院をぶっ壊してしまう……」
「また変なこと言い出したにゃ」
ソファに座ってクッキーをかじっていたノーチェが呆れたように言い放つ。
一応騒動のあと、錬金術師ギルドからは『後で直せる範囲ならいいが、修復不可能な破壊はしないように』と怒られてしまったのでやるつもりはないけれども。
「私たちルークくんに聞くまで、全然気付かなかったよ……アリスちゃんも言ってくれないと」
「この程度なら大丈夫かなって」
正直なところ、子どもがやってくる嫌がらせ程度なら危機感は全く無かったりする。
常にシラタマが側に居るし、Dクラスの子たちもなんだかんだで味方になってくれているし。
「話に決着がつくと思ったら、こんなことになるなんてにゃ」
「どうにも複雑な事情がある模様でね」
現状でわかっていることと言えば、あの忘れもしない女騎士の……名前なんだっけ。まぁいいや。
この前の告発によって女騎士の婚約がおじゃんになりかけていて、しかもそれが以前から進めていた大きな契約ごとだったみたいだ。
処罰して終わりという簡単な話じゃなくなり、フィルマ家は孤児を切り捨てる方向を選んだようだった。
「そんなこんなで上級貴族ムーブをぶちかましてきた、というわけ」
「ギルドマスターを通すからいけるんじゃなかったのにゃ?」
「そこらへんはまぁ、なんというか」
ここで余計に話をややこしくしたのがぼくの立場だ。
ぼくは独立した野良錬金術師である。階梯という上下関係はあれど師弟関係はない。
関係性を厳密に言うなら同盟や協力であって庇護とは違うのだ。そこが悪い方向に働いた。
「ギルドマスターがただの野良錬金術師の子どもを強くかばう訳がないと踏んだみたいで」
「……詳しくにゃーけど、その年で錬金術師って凄いことなんじゃにゃいのか?」
「ぼくは極端だそうだけど、子どもの錬金術師なら居ないこともない」
伝聞になってしまうけど、第1階梯の錬金術師の子どもはありえないってほどじゃないらしい。
なので相手側の認識は「8歳で錬金術師になった天才児」止まりの可能性が高いそうだ。
第4階梯に上がったばかりっていうのは眉唾どころか誤情報だと思われてるんじゃないかな。
「ギルドマスターに届いた書状見せてもらったんだけどさ、マレーンに聞いたら"何とかフィルマ家を立てて和解に持っていかせてほしい"って意味らしくて」
ぼくは勿論のことハリード錬師も叩き上げの平民である。こういう貴族構文はよくわからん。
本気で処罰したいなら引き渡しを要求しているし、何なら司法に訴えている。それをせず糾弾と抗議を伝えてきているのなら、どうにか自分たち有利での和解を考えているのだろうとマレーンは言っていた。
ちなみにあの狸爺はバリバリ貴族出身なので意味がわかっててとぼけた可能性もある。
ギルドマスターに関しては何が狙いかまったくわからないけど、愉快犯の可能性もあるのが面倒くさい。学院でぼくを暴れさせようとでもしてるんだろうか。
「れこ……れけ?」
「リコンシリエイション、仲直りしようってこと」
首をかしげるスフィたちに伝えて、ぼくはふて寝するようにソファに寝転んだ。404アパートの窓から見える東京の景色は冬らしいくもり空だ。
「ただしお互いの勘違いによる不幸な事故で、女騎士の正当防衛だったって結末で」
「ハァァ!?」
怒り混じりの声に振り返ると、若干キレ気味のノーチェとほっぺたが膨らんだスフィが並んで眉を吊り上げていた。
ぼくに怒っても仕方ないんだが。
「冗談きつすぎにゃ! 殺されかけて! あっちが悪くなかったことにしろってにゃ!?」
「さいてーだよ!!」
「貴族的には譲歩してるんだとおもうよ?」
何しろ相手は伯爵様。ぼくたちみたいな平民の孤児なんて吹けば飛ぶ。正義も真実も歪めてしまう社会的な権力というものは実に理不尽なものだ。
「うー……権力って理不尽にゃ!」
「むぅー……」
「うん、唯一高貴な生まれのフィリアがちょっと困ってるからここまでにしよう」
「あうぅ」
この中で唯一の貴族出身者であるフィリアがなんとも居心地悪そうにしていたので話を切り上げる。生まれを嘆いても仕方ないし、持ってる手札で何とかしていこう。
「のじゃ? ……唯一?」
もうひとりがお茶を啜ってるの忘れてたわ。
■
そんな話をした翌日、通学路を越えて学院にたどり着いたぼくは……。
「……別にいいのに」
「ダメ!!」
近づく人全てをぐるると威嚇するスフィに張り付かれていた。
「よお! アリス! だいじょぶだったか!」
「ぐるるる!」
「おお!? やるのか!!」
「おはようブラッド、さがって」
何故かDクラスの教室までついてきたスフィが、朝一番で挨拶をしてきたブラッドを威嚇する。
そしてスフィの威嚇にブラッドが応じそうになるのを阻止した。
「おはようアリスちゃん、とうとうバレちゃったのね?」
そのやり取りを見たゴンザが苦笑しながら近づいてきて。
「ぐるるるる!」
見事にスフィに威嚇された。スフィ、それぼくの友達。
「もう、アタシは味方よ」
「スフィ落ち着いて」
「……うぅ」
「お姉さんが教室までついてくるなんて初めてね?」
「心配させちゃったから」
知らないところでぼくが嫌がらせを受けていたというのがショックだったみたいで、昨日から離してくれないのだ。
ぼくに引っ付くスフィを見て、ゴンザが微笑ましいものを見るように目を細めた。
「早めに相談した方がいいって言ったでしょう?」
「ぼくは平気だったから」
「たぶん強がりじゃないんでしょうけど、見ている方はそうでもないのよ?」
「……現在進行系で思い知ってる」
スフィに強く握りしめられた手がちょっと痛い。というかなんか力が強くなってない?
「……ねぇアリス、なんでみんな知ってる感じなの? スフィだけ知らなかったの?」
「クラス内に目撃者が居た、そこから伝わった。自分から伝えた訳じゃない」
何故だろう、ノーチェたちと旅に出るきっかけになった化け物鼬以来の寒気が背中に走った。
返答を間違えたらぼくは死ぬかもしれない。
「えーっと、今日はお姉さんの方は授業はいいの?」
「アリスのほうが心配!」
「そうなの、妹さん想いなのね。観念して守られていた方がいいんじゃない?」
「うん!」
「仕方ない」
巻き込まれたくないのかゴンザは話をあっさり切り上げて席に戻っていく。
結局その日はずっとスフィが引っ付いていた。先生は一瞬ぎょっとしていたけど事情は察したのかスルーされてしまった。
教師としても思うところがあるみたいだけど、相手が貴族集団なのもあって中々やりづらいみたいだ。
それにしても……スフィの授業がそっちのけになってしまうのは如何ともし難いし巻き込みかねない。解決するには……どうしたものか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます