クラスメイトに出会った

「お、お願いします……俺が男だってことは、クラスのみんなには」


 戦闘が終わり状況が落ち着くと、友人らしき男の子を離したあたりでミリーがすがりついてきた。


 なんでこんなに必死なんだ。


「異性装が禁止されてるわけじゃないし、そんなに必死にならなくてもいいんじゃない? 女のふりして着替えや水浴びを覗き見したわけでもないでしょ?」

「…………」


 唯一問題になりそうなことを冗談めかして口にすると、ミリーが青ざめた顔で俯いてしまった。


 ……え、まじで。もう少し年齢帯が上がると刑罰の対象になるんだけど。


「引くわ」

「ちがっ! 違う! 事故だったし、すぐ顔をそらしたから見てない!」

「本当に見てないなら謝れば許してくれるんじゃない? ……そんなヤバい相手なの?」

「バレたら殺されちゃうよ! 派手に!」


 マリークレアかぁ……よりによって貴族のお嬢様が相手とは。


「……安らかに眠ってあーるあいぴー

「死にたくないし! クラスメイトに変態だって思われたくない!」


 それは手遅れじゃないかなぁ。少なくとも獣人の子たちは気付いていると思う。鼻が効かないぼくでも匂いで男だってわかるし。


「まぁそれはいいや」

「よくないけど!?」


 彼は女装してる時は物静かでモジモジしてるのに、男の格好してる時はツッコミ系男子らしい。


「敢えて言いふらすことはしないよ。それで森の中で何があったの?」


 話の方向を修正して、エルナから解体を習うための練習台になっているフォレストボアを見る。


 クラスメイトとして見る限りミリーの性格はどちらかといえば慎重堅実。基礎知識が無いわけでもなければ、クラスのわんこ系男子みたいに突撃するタイプでもない。


 わざわざ生息域まで入り込んで引っ張ってくるとは思えなかった。


「うぅ……俺もわからない。採集の練習も兼ねて森の中を歩いてたら突然襲ってきたんだ、死ぬかと思った」

「むしろよく生きて逃げられたなって」


 見習いチームなら戦おうとすれば1頭でも全滅しかねない。逃げるだけならそこまで難しくないらしいけど、流石に4頭はなぁ。


「どう考えても狙われた結果だね」

「……そっか、そういえばアリスちゃんたちも知ってたんだっけ」

「詳細は知らないけど、前に狙われた理由だけは」


 ミリーはどこぞの領地貴族の御落胤とやらで精霊の愛し子。後継者問題で狙われていた過去がある。


 前回はフィリアの父親の命を奪ったのと同じ暗殺者に狙われていたけど、今回は……ん?


「手段が雑な上に乱暴になりすぎじゃない?」

「え? いや、わからないけど……」


 暗殺者は狙ってはいたけど、命じゃなくて国から追い払おうとしていた。精霊の怒りを回避しながら目的を達成するためだ。


 今回はずいぶんと乱暴というか、選択された手段から死んでも構わないという意思を感じる。


「学院の寮に戻ったほうがいいよ」

「それは俺も思った……クレイも巻き込みたくないし」


 一緒に行動していた男の子は友人らしい。自分の事情に巻き込んでしまったらという懸念はわかる。


「久々の気分転換だったのになぁ」

「自分の事情に巻き込んで、友だちに被害がでたら一生引きずるよ」

「なんか、実感がこもってるね」

「まあね」


 残念だけどぼくたちも早めに引き上げたほうがいいかもしれない。実質巻き込まれているようなものだし。


「とりあえず……ノーチェ、撤退をていあん!」

「……やっぱなんかあったにゃ?」


 エルナに教えてもらってナイフ片手に皮を剥いでいたノーチェが、ぼくの呼びかけに反応してこっちにきた。


「きな臭い」

「ん、そいつってたしか、前にフィリアの父ちゃんの仇にさらわれてた女装の変態だったにゃ?」

「そう」

「違うよ!? いや変態の方は違うよ! 俺はノーマルの男だよ!」


 ややこしいな。


「新たなる敵の出現、彼は狙われてる」

「シャアー!?」

「なるほどにゃ」


 足元の影から顔だけ覗かせたフカヒレは何に反応したのか謎だけど、ノーチェに大体の事情が伝わったようだ。


「いまのところ直にやってくる感じじゃなさそうだけど、巻き込まれる前に退散しよ」

「うん……君たちが強いのは知ってるけど、俺の事情にこれ以上誰かを巻き込みたくない……」

「仕方ないにゃ、あれの解体が終わったら戻るかにゃ」

「そうしてほしい、俺はクレイとできるだけ早く戻るから」


 ノーチェの言葉を聞き、少しソワソワしていたミリーがもうひとりの男の子に声をかけた。


 そして何かを話して立ち去ろうとする寸前にぼくたちを振り返る。


「そうだ……遅くなっちゃったけど、助けてありがとう。今回も、前の時も!」

「ありがとな!」

「ん」

「どういたしましてにゃ!」


 立ち去っていくミリーたちを見送ってから、ぼくは解体作業の見守りを再開する。


 それにしても、どこへいってもトラブルの耐えない環境だ。ここまでいくと流石に何かを引き寄せてるんじゃないかと心配になってくる。


 まぁ流石に今回ばかりは巻き込まれることはないだろう。人目が多いところで無茶はしないだろうし。学院までたどり着けばガードは固い。


 彼らも無事安全なところまで帰れるといいんだけど。

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