ドラゴン・ドッグファイト

木古おうみ

 竜が長きに渡って最も凶暴な魔物とされていたのは、生存戦略の範疇を大きく逸脱した攻撃手段を持つことに由来する。


 ドラゴンの咆弾ブレスは炎を始め、絶対零度の冷気や空気中の塵を摩擦する音波など多様ながら、同種族又は他種族との戦闘にのみ使われ、他の活用方法は確認されていない。


 中でも長らく伝説の中の架空の存在とされていた、勇者が騎乗した腐竜アジ・ダカーハ“錆の爪”ナグルファリの咆弾ブレスは、メタンガスを主とした毒ガスで、その有害性は最たるものだ。


 竜は現在、兵器として運用され、人類は認識を改めることになった。


 戦闘にしか使えない咆弾を持つドラゴンと、数多の伝説を作りながらも終戦後の世界から姿を消した勇者。


 戦場でしか生きる術を持たず、しかし、確かにひとびとの安寧のために戦ったものとして同列に語る叙情詩は枚挙にいとまがない。


 現在、ドラゴンは人類最後の希望である。



 パーヴェル・コレスタフ『竜種論考』より抜粋

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