82話 龍帝vs冥府の王

 対峙してる龍帝はギールスから感じる圧に、


(ゼーリオクラスだな。叛逆するだけはあるな)


 龍帝は以前現れたゼーリオと比べて遜色ない魔力と神の気配を感じていた。かつて、ゼーリオに挑むだけはあるようだ。


『モード:雷神龍』


 様子見する必要はない。初手から本気で戦うために神の気配を纏う。神を相手にするなら神の気配を纏っていなければ勝負にならないからだ。


「死ね」


 骸龍を一撃で灰にする雷撃。神であっても致命傷になりかねない一撃であるが、


「まぁ流石にこれで終わる訳がねぇよな」


 全くの無傷であった。そんなギールスに驚く事なく雷撃を放ち続ける龍帝。


(どんな仕組みで無傷で済ませてるかを解明しない事には話にならないからな)


 既に国すらも滅ぼし尽くせるだけの雷撃を放っているにも関わらずギールスは微動だにしない様子で立っていた。


(魔力による障壁ではないな。魔力量は確かに多いがそれだけで防がれるような雷撃を放ってねぇ。だが覚えはあるな。これはおそらく・・・・)


 自分の雷撃をギールスが防げるのには心当たりがあった。そして龍帝が自分がしている事に気づかれたのにギールスは気づく。


「どうやって俺がお前の雷撃を防いでいるかに気づいたようだな」

「まぁな。リュウガと戦った経験がここで活きるとは思わなかったが。お前は自分に向けられる攻撃を殺してるんだろ?」

「正解だ」


 リュウガは龍帝の攻撃に対して死の気配を殺して死を与える事により無効化していた。それをギールスもやっているのだろう。


「だが俺は龍神の末裔のように、視る・破壊する・死を与えるというような段階を踏まない! 俺が常に纏う死の気配に触れるだけで死を与える! お前じゃ俺は殺せない!!」


 そう言ってギールスは龍帝に対して攻撃を放つ。それは死の気配そのものの塊であり触れれば一瞬で死ぬというのは説明されるまでもなく分かるものであったが雷速を誇る龍帝に当たるような攻撃ではなかった。


(余裕で躱せるな。しかし、厄介だな。攻撃の無効化。魔力みたいに切れるなら良かったが死の気配は奴の特性であって切っても切れないものである以上オレ様の攻撃は絶対に届かない)


 龍帝の攻撃はギールスに届かないがギールスの攻撃は龍帝に当たる事はないので戦局は硬直してしまっていた。


(どうにかしてオレ様の攻撃をなんとしても当てるしかないな。初めて骸龍と戦った時みたいに直接殴るか? いや、無理だな。骸龍と違って死の気配の濃さが違うからどんなに神の気配を纏っていてもギールスを殴ろうもんならオレ様の腕は確実に死んで一生使い物にならなくなるな)


 骸龍と戦った時は死の気配を上回る魔力を纏う事で死の気配を突破して攻撃していたが今回はそれが出来ない。“死”そのものみたいな存在であるギールスが纏う死の気配は骸龍とは比べるまでもなく膨大であり今では神の気配を纏いそこらの神よりも強大な力を持つ龍帝であっても死を避けることは出来ないレベルなのだ。


(そうなってくると他のやり方を考えて実行するしかないな。しかもオレ様の魔力が切れる前にという制限付きで)


 厳しい条件であるが神との戦いはそういうもんだろうと割り切る。それに、


「これくらいじゃねぇとつまらねぇよな」


 笑みをこぼす。龍帝はこの世に産まれ落ちた時から既に最強となり得る素質を持って産まれた怪物だ。覇龍、リュウガ、風魔龍は彼に手傷を与える事は出来ても死を覚悟させるほどではなかった。リュウガとの死闘も真っ向勝負に拘らずにいれば虫ケラのように殺す事が出来た。それだけ圧倒的な存在なのだ。そんな彼にとって今の制限付きの戦いは心地よいのだ。生きてると実感が湧く。


「テメェを殺せばオレ様は龍神もゼーリオにも届く。テメェはオレ様の糧にしてやるよ!!」


 バチバチィ!! と雷が龍帝から迸る。


「お前如きに俺は超えられんよ」


 龍帝と冥府の王が激突している頃。リュウガたちは未だにギールスの手下たちを相手にしていた。


「キリがねぇ!! あの野郎!! ほとんど残していくんじゃねぇよ!!」


 斬っても斬っても終わりの見えないギールスの手下たちにうんざりしていた。それでも瞬殺出来る相手であるので徐々に数は減らしていっている。


「この調子じゃあの野郎がギールス殺しちまうだろうが!! 引っ込んでろよザコ供が!!」


 死閃で一気に直線上の敵をぶった斬る。


「流石ですね」


 感心するフルールドリスに、


「感心してねぇでどうにかしろや!!」


 キレるリュウガ。


「温存しないとギールスとの戦いに勝てませんからね」

「それはこっちも同じだ!!」


 そんな2人の会話にグレーストは口を挟む。


「でしたら自分が捨て石になりますよ」

「それではギールス戦が厳しくなってしまいます」

「ここを抜けない事にはそのギールスとも戦えないんですから」


 そうしてグレーストは地面に手をつく。


『大地崩壊』


 地面が割れて空を飛べない骸兵はそのまま落下していくそしてそのまま地面を閉じる。更には地面が極太の槍となり骸龍を殲滅する。


「ふぅ〜、死神はお任せします」


 そう言ったグレーストはほぼ全ての魔力を使い切ってしまって息切れして汗だくになっていた。


「お疲れ様です。これで大分楽になりましたよ」


 フルールドリスの言葉通り残ったのは空を飛べて小回りが効いて槍を回避していた死神のみであった。


「突っ切る!! お先に失礼させて貰うぞ!!」


 そう言ってリュウガは手薄になった戦線を抜け出した。


「まったく。少しは協力しようとしてくれてもいいのではないでしょうかね?」


 自分たちを置いて行ったリュウガに届くはずはない言葉を投げかけるのであった。


「粘るな」


 ギールスから放たれる攻撃を全て回避している龍帝。


「こうか!?」


 雷撃をギールス目掛けて放つ。すると今まで効かなかった攻撃が、


「チィ!!」


 かすり傷ではあるがギールスの纏う死の気配ごと攻撃を通すことに成功するのであった。


「通ったな。だがまだ足りねぇな。調整が必要だな」


 グッパッと手を開いたり閉じたりする。


「次は顔面に攻撃を喰らわせてやるよ」


 意気込む龍帝に対して、


「仕方ないな」


 ため息を吐いたギールスはいきなり龍帝の前に現れて右腕を掴む。


「何!!」


 ギールスに掴まれた右腕から死の気配が龍帝を覆い尽くしてそのまま死へと誘おうとする。


「クソが!!」


 瞬時に腕を切り落として離れる龍帝。


「どういう事だ。今のは高速移動じゃねぇ」

「空間転移だ。冥府は俺の庭なんだ。自由に移動出来るのは普通だろ」

「最初から使いやがれよ。うざってぇ舐めプしやがって」

「当たり前だろ? 龍神に近いだけで龍神じゃないお前に最初から手の内を晒すはずがないだろ?」


 その言葉に歯軋りする龍帝であるが、


(落ち着け。空間転移は厄介だが対処不可能じゃねぇ。次は掴もうとされる瞬間に雷撃をぶつけられる)


 呼吸を整えると右腕を再生させる。臓器は難しいが手足程度ならトカゲの尻尾のように瞬時再生させる事は龍ならば余裕である。


「いいのか? 再生に魔力を使っても。そのモードの持続時間を短くするだけなんじゃないか?」

「はっ! 問題ねぇよ」


 そう言って右腕を雷刀に変えて構える。


「神の心配を無碍にするとは不敬だな」


 2人が激突する瞬間、


『死双閃』


 雷速の2連撃がギールスを襲い攻撃のために突き出した右腕を斬り落とす。


「遅れて来ておいて人の邪魔するとは礼儀がねぇな」

「仕留め切れてないお前が悪い」


 そう言ってリュウガは龍帝の隣に立つ。


「足引っ張んなよ」

「テメェがな」


 人間と龍の本格的に始まる。

 

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