71話 龍たちの戦い

 リュウガたちがアステラに向かったその頃ウェンはリュウガたちが修行の場所として使った遺跡のある森へと来ていた。


「お久しぶりです」

「久しぶり! ウェン姉!」

「久しぶりじゃの」


 龍皇となった翠緑龍のスイと翁龍に神との戦争についての話をする。


「成程のう。とてつもない神の気配がしていたがそういう事であったか」

「面倒ですね。神界にいるからこちらから攻め込む事も出来ない」

「まだ受肉が完璧じゃない内なら主様と龍帝なら勝てるでしょうが私たちでも厳しい相手が多いですね」


 状況は中々厳しいものである事を改めて実感する。


「カンムルの奴は何をしておる?」

「個の力が重要だと言ってどこかに飛び立ちました」

「まぁ、あの人ならそれでいいんじゃないですか? 勝手に強くなるでしょ。問題は私たちでしょ」

「それもそうですが他の名持ちとも協力はしたいですね」

「それは厳しいじゃろ。数が少ない上に我が強い奴しかいない」


 翁が言うように現存する残りの名持ちの龍は2体。風翔龍と金剛龍だ。


「協力は無理だろうけどあいつら勝手に神と戦うんじゃない?」

「風翔龍はそうかもしれんが金剛龍は自分からは動かんじゃろうな。ただ金属を喰らい続けてより強固になる事にしか興味がないからのう」


 2体の龍について話していると、


「森に何か来た」


 スイが侵入者を探知した。ウェンと翁も気づく。


「この気配は神ですね」

「神はまだ攻めて来ないんじゃ?」

「独断先行かのう」


 気を引き締めて戦闘になった時のために全力を出すために集中する。そこから現れたのは、


「龍共がたむろしているのは助かるな。来たる殲滅戦においてお前らが一番面倒だからな。纏めて殺せる機会を作ってくれて感謝する」


 そんな言葉を述べると同時に赤髪の男は右手に炎を集めて一気に放出する。


「おっ! 龍だけあって簡単には始末出来ないか」


 森がウェンたちを覆い隠して炎から守って攻撃が届かない。


「新しい龍皇が自然を司るらしいな。だが無駄だ。炎の神・アグニールの前ではな!」


 より高温の炎の青い炎でウェンたちを守る森を焼き尽くす。それでもまだ攻撃が届いてないのは、


「ありがとう。ウェン姉」

「気にしないでください」


 ウェンが結界を張り、さらにはスイの操る木々を活性させているからだ。しかし、問題がある。


「ジリ貧ですね。いずれは確実に破られる上に私たちは龍の中では戦闘に向いてませんからね」


 ウェンたちは龍だ。その存在は圧倒的であり適当に魔力を纏って攻撃するだけでそこらの人間、モンスターを即死出来る存在ではあるが神には通用しない。神と戦うなら戦闘向きな性格、力を持つ龍帝、先代龍皇といった存在が必要なのだ。


「ごめんなさい」

「何故謝るのです?」

「龍皇を受け継いだのにも関わらず何も出来ない」


 泣きながら謝るスイ。そんなスイに、


「気にする必要はありません。貴女はまだ成長の途中でありいずれは私や翁を超えるだけの才能を持っている。だからアブソリュートも後継者に指名したんですよ」

「でも、この状況を何とかしないと」

「そうですね。翁? 貴方はどう考えてますか?」

「全盛期なら良い勝負だが今はキツイのう。カンムルを呼ぶのが最善じゃろうかのう?」


 龍帝を呼ぶ事を提案するが、


「来ますかね?」

「来てくれるの?」


 ウェンもスイも龍帝が来てくれると思っていないようだ。


「神を殺す経験になるし儂らのピンチを見捨てるほど薄情ではないじゃろ(何よりウェンもいるしのう)」


 翁は確実に龍帝が来るのを確信していた。


(カンムルや。襲撃を受けておる。このままでは殺される。早く来ておくれ)


 念話を送る翁であるが、


(・・・・・・)


 全く反応がない。


「う〜む?」

「その反応ではカンムルは来なそうですね」


 翁の反応から来ない事を察するウェン。


「無視とも違うのう。寝てるわけでもあるまいしのう」

「反応がない以上は来ないでしょ」


 諦めて戦う事を決意する3龍。


「籠ってばかりでつまらんな」


 そう言ってアグニールは一旦炎を消す。そして今度は上空に炎の塊を作り出す。


「あれは不味いですね。最高硬度、耐熱耐性を最大にしても5秒保つかどうかですね」

「ウェン姉の結界でその結果なら私の森は瞬溶けだね」

「スイよ。全魔力を森に集めて結界の上部分だけを集中的に守れ」

「それでも3秒しか保たないよ」

「構わんよ。その隙に準備をするからの」


 翁は魔力を解放する。その意図を察したウェンは、


「翁の言うとおりにしますよ」


 スイに優しく語りかける。スイは2人を信じる事にして言われた通りにする。


「何だ? そんな森で俺の攻撃を止めるつもりか? 無駄だぞ」


 圧倒的な熱量と質量を誇る炎の塊はスイの森を瞬時に焼き尽くしウェンの結界をも粉々に粉砕しようとする。


「龍3体を殺せば他の連中よりも活躍したも同然だな」


 既に勝ったと思って油断するアグニール。そんなアグニールに、


「若いが故に油断するのは人も龍も神も変わらんのう」


 にた〜と笑う翁。


衛星砲サテライトキャノン


 雲よりも遥か上空の宇宙からこの世界には似つかわしくない衛星からのレーザーがアグニールを襲う。


「ぐぅおーーーー!!!!」


 炎の神であるアグニールを焼き尽くそうとする。


「な、何故この世界にこんな兵器があぁぁぁ!!!!」


 驚くアグニール。そんなアグニールに、


「儂は最も古く生きた龍として様々な世界線を視てその世界にあるあらゆる兵器を魔力で構築、使用する事が出来るのじゃよ。まぁ、歳を取った今は構築に時間がかかるのが難点じゃな。昔は1秒もかからんのじゃが今は最低でも5秒はかかるのう」

「クソがーーーー!!!!」


 絶叫と共に爆発するアグニールに、


「やった!」


 喜ぶスイであるが、


「油断するな! 今の爆発は儂の攻撃ではない!」


 焦った表情をする翁。


「えっ?」


 と驚くスイ。そんなスイを殺そうと炎の剣を持ったアグニールが爆炎から飛び出す。


(こやつ! 爆発でレーザーを吹き飛ばしおったな!)


 全盛期の翁の攻撃であれば苦し紛れの策ごとアグニールを殺せたが今ではそこまでの攻撃力を持っていないのだ。


「確かに良いモノをもらったがそれでもお前らを殺すのに支障はねぇんだよ!!」


 1番実力がないスイを殺そうとするアグニール。狙われたスイの前にウェンが立ち塞がる。


(無駄だ!! そのまま纏めて殺してやる!!)


 2龍の胴体を両断されようとした次の瞬間に、


「あばよ」


 ピシャアーーーーン!!!! という雷鳴と共に龍帝が現れると同時にアグニールの頭を殴り潰すのであった。


「全く返事くらいせんかい」


 現れた龍帝に苦言を呈する翁。


「来てやっただけありがたく思えよ。こっちは大神を殺す準備してたんだからよ」


 実際龍帝は雷雲の中で力を貯めていたので翁の念話を無視したのだ。


「確かに前よりも力が洗練されていますね(龍神様に最も近いのは主様ではないですね)」


 ウェンがそう思うほどに龍帝は力を増していた。


「それにしても神もピンキリだな。ザコもいいとこだな。こいつは」


 充分な力を持っていたアグニールをザコ扱いする龍帝。


「それでも儂等を殺すには充分な力じゃろう」

「そうだとしてもオレ様はともかく残りの龍ならさっきレベルの神なら殺せるな」

「しかし、手を貸すでしょうかね」

「神どもはこの世界を滅ぼすようだし自衛のために戦うだろうよ」


 残りの名持ちの2龍は前龍皇や氷魔龍と同等の力を有する実力者だ。その一角であるが、


 ウオーーーーン!!!!


 金剛龍、ゴルギアス。最も硬い鱗を持つ最硬龍は原初のフェンリルとしての力を得たハクによって殺害されるのであった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る