10話 ステゴロ最強決定戦 開幕!!

  

「ステゴロ最強決定戦?」


 ある日、運命の宿木にリュウガから疑問の声があがる。


「そう、これに出て結果を残せばメンバーが増えるかもしれないよ!」


 マイが興奮しながらリュウガにチラシを見せる。内容は、3日後の正午から武器なし、老若男女ろうにゃくなんにょ、冒険者、騎士、腕に覚えのある者誰でも歓迎! というもので優勝者には賞金100万という大会だ。


「ふ〜ん、良い機会だからソウとルイ出ろよ。2人がどこまでやれるか見てみたい」


 リュウガは2人に声をかけるが、


「嫌よ!」

「すみません、遠慮させて下さい」


 断られた。ソウはともかくルイなら、

 

「任せなさい!」


 なんて言って二つ返事で答えると思ったので、


「何でだよ?」


 と、疑問をぶつけると、


「「」」

 

 2人からの返答は、その1言だけ。


「実はね、8年前から剣聖がチャンピオンとして君臨し続けてるんだよ」


 と、マイが続けて答えてくれた。第10回大会からずっと剣聖がチャンピオンを取り続けているのだ。しかも初出場した第10回大会の時剣聖は10歳という若さで並いる強敵達を倒していったのだ。つまり2人は剣聖に勝てる気がないからビビっているという事だ。

 

「じゃあ、2位と3位なら獲れるか?」


 リュウガの問いに、


「剣聖と途中で戦わないなら、いけるわ!」

「自分はまだ不安です」


 マイは自信満々でやる気になってくれたが、ソウは自信なさげだ。そんなソウにリュウガは、


「今のお前ならBランクまでならいける」


 とハッキリと告げた。実際、ソウはDランクだが実力はBランクの下位にはなっている。流石にそれ以上の実力者には負けるが良いところまで行くとの判断だ。

 

「そもそも、サブマスは出ないの?」


 ソウを納得させたら今度はマイがリュウガに大会に出ないのか聞いてくる。


「今回は2人の成長を見たいから俺は応援」


 と言ったら、マイは、


「サブマスの強さなら剣聖にも勝てるんじゃないの?」


 リュウガにも大会に出場を促すが、


「俺が出たら優勝確定の上2人の邪魔になるだろ」


 この男、自分の優勝を疑ってないのである。まだ、剣聖に会ってすらないのにだ。これには全員呆れてしまう。


「剣聖見たらアンタ絶対その考え変わるわよ」


 ルイの発言に、


「それよりも剣聖に勝てるようにお前ら鍛えまくるからな」


 大会までの間ソウとルイはを見る事が確定した。ただ実力は確実に上がる事は保証されているのが救いだが。


「それじゃ、大会当日はメンバー全員で2人の事を応援するから頑張って!」


 今依頼に出ているハンザとゴウの予定も決められてしまったが2人は快く了解してくれた。



 来たるステゴロ最強決定戦のためのリュウガによる地獄の特訓が始まろうとしていた。メンバーはソウとルイそして何故かマイも含まれている。


「それじゃまずは街中10kmランニングして来い」


 パンッ!


 というリュウガからの手拍子で3人はスタートする。そんな様子を見てハンザはリュウガに質問する。


「ソウとルイは分かりますが何故ギルドマスターにも?」


「トップがBランクってのは正直物足りない。Aランクにはいってほしいからある程度は鍛える事にした。本人に言ったらあっさり了解してくれた」


 と言った。それに対して、成程と思う。それと同時に、


「それならあなたがトップになれば良いのでは?」


 運命の宿木のサブマスターにしてSランク冒険者、リュウガは謎に包まれている。その正体を知るためにも色々知りたいのだ。総本部のスパイとしては。何故この男がトップではないのか聞いてみたが、


「ガラじゃねぇし、あいつがトップじゃなきゃ冒険者にも興味ねぇ」


 それ以上の答えは得られなかった。深く聞こうにもこれ以上聞けば龍の逆鱗に触れると思い言葉を飲み込んだ。

 暫くして3人がランニングから帰ってきた。疲れた3人にゴウが冷えた水を飲ませる。息を整えてる3人に、


「マイは同じ後方支援としてハンザから指導して貰え」

「えっ? サブマスが鍛えるんじゃないのですか?」


 さっきの話的に3人面倒見るものと思っていたのだがまさかの不意打ちにハンザは驚く。


「本当はそのつもりだったがいきなり俺の指導だとイジメにしかならないのがランニングを見て感じた」


 最初のスタート時に見た走り方で普段どれだけ魔法に頼りきっているかが分かり考えを改めたのだ。魔法使いなのだから当たり前なのだが、


「本人もモンスター討伐に積極的になってんだ。鍛えてやってくれ、嫌なら俺がやるが」


 ハンザはマイを見ると頼むからOKを出してくれて言わんばかりに見つめてくる。本人はやる気満々だったが思ったよりも厳しいモノになると感じたらしい。はぁ、とため息をついたものの、


「分かりました。ギルドマスター、上司ではありますが厳しくいきますからね」

「うん、よろしくお願いします」


 2人は別の場所に移動した。2人が移動したのを見届けてからリュウガは、


「それじゃ、いつもの手合わせを素手でやってもらう、槍抜きの実力を見せろ。勿論手は抜くな、始めっ!」


 ◇


「まぁこんなもんか」


 勝ったのはルイ、これは槍ありでもいつもの結果ではある。普段はモンスター相手で人相手に戦いはしなくても経験が死ぬ訳ではない。それでも、


「2人共無駄が多い。モンスター相手なら大振りでも構わないが人間相手に大振りはいらねぇ。急所を狙って一撃で仕留めろ」


(簡単に言ってるが冒険者には厳しいぞ)


 密かに見守っていたゴウはそう思う。冒険者にとって戦う相手は基本的にモンスターであり対人戦は本職ではないのだから。


「まぁ、モンスター相手にしてるお前らには厳しいだろうから1番簡単な手段を授ける」

「何です/よ?」

「カウンターだ」


 リュウガによると相手が攻撃しようとするという事はそれだけ無防備を晒す事だから一撃で倒せるらしい。勿論カウンターを当てる箇所にもよるが。


「だから2人にはひたすらそれの練習をしてもらう。相手は俺だ。安心しろ、手は抜く」


 そう言って、2人に襲いかかった。反応出来ずにソウは腹に一撃貰いルイは必死に喰らいつくが失敗。


(これで手を抜いてるのか)


 ゴウはそれを見て身震いした。一応自分は対応出来るがそれでもこのレベルの相手はそうそういない。

 

(これを乗り越えれば2人は強くなれるがその間ボロボロだろうな)


 その考えどおり2人はボロボロになるまで特訓をした。なにせ大会まで時間がないためギルドに住み込みで特訓した。2人共、あれ、自分達って武道家だっけ? となるほど特訓をして遂に、


「よし! 合格!」


 2人共リュウガにカウンターを合わせる事に成功した。


(俺の3についてこれるならAランク相当の実力者にも余裕だろ)


 リュウガは思う。本当に頑張ったと思っているが、3割でAランク冒険者相当の実力を持つ事は流石に言わない事にした。せいぜい半分くらいに思われてるだろうが折角頑張ったのだ余計な事を言うのは無粋だろう。


「大会でのお前らの活躍楽しみにしているからな」


 笑顔でそう言った。



         

       〜大会当日〜


 大会となる会場はカルダ街にある、元の世界でいうところのコロッセオみたいな所で開かれる。 


「へ〜、中々観客が多いな」


 リュウガの言う通り会場には見渡す限りの人、人、人。その数は1万はいるのでは? と思う程だ。なんせ席が足りず立ち見してる者もいる程だ。


「そりゃあ、滅多に見れないからね〜。剣聖が戦う所なんて」


 マイが答えてくれる。


「騎士なんだし犯罪者の取り締まりなんかで目撃したりする奴がいるんじゃねぇの?」

「騎士ではあるけど強すぎるから全然やる気になれる相手がいなくて全然働いてないんだよね〜」

「そんなんで怒られねぇの?」

「それは簡単だよ。ドラゴンを単独で討伐したんだから。それも2回も」


 成程と、リュウガは思う。それだけの戦力なら多少のサボりに目を瞑るのも納得だ。しばらく談笑していると、


「お集まりの皆様、お待たせいたしました。これより第18回ステゴロ最強決定戦を開催します」


 主催者だと思われる男が開催を宣言する。それと同時に凄まじい歓声が上がる。リュウガは耳の良さから思わず耳を塞いだ。


(凄え歓声だな。つーかマイの奴うるさくねぇのか?)


 目を向けると、 


(こいつ! の魔法かけてやがるな!)


 涼しい顔をしていた。しかも、ちゃんとハンザとゴウにも魔法をかけている。


「それでは、1回戦第1試合を始めます! 騎士団所属ザンvs運命の宿木から冒険者ルイ! 試合開始〜!」


 観客からはどよめきが出た。なんせSランク冒険者にして聖槍の使い手が出るのだから。そんなルイに対してザンは、


「女性相手でも手加減はしま」


 喋り終わる前にルイは鳩尾に拳を叩き込んだ。


「試合始まってんのに何油断してんの?」


 と小馬鹿にする。ザンは起きない。どうやら完璧に決まったらしい。


 ウオォ〜〜〜!!!!


 と、歓声が響く中、リュウガは、


「まぁ、当然だな」


 当たり前のように呟く。リュウガはルイに対して厳しく当たってるがギルドに来てからの努力を見ている。それに前日までの特訓もあるので相手にSランク冒険者相当の実力者でもいない限り負けはないと踏んでいる。


(まぁ、今のは相手がバカだったが)


 なんて思っているがザンは騎士団でも有数の実力者ではある。ただ今のは騎士として女性に対する紳士な姿勢が出てしまっただけだと彼のために記しておく。


「やった〜〜!」

「よっしゃ〜!」


 マイだけでなくゴウもはしゃいでいる。ハンザは声に出さないもののガッツポーズを決めてる。


(まぁ、ハンザは総本部の人間だし声を出すのは躊躇うよな)


 と、ハンザの反応の若干の低さに納得する。


 1回戦は4回ありソウはラストの第4試合なのだが、


「盛り上がって参りました! 1回戦ラスト第4試合を開始します! 運命の宿木冒険者ソウvs剣聖カゲトラ!」


 ワァ〜〜〜!!

 ウオォ〜〜!!


 今日1の歓声だ。それだけの人気が剣聖の実力を窺わせる剣聖は白のロングコートを着た金髪の好青年だった。いかにも女性が好きそうなルックスだ。何せ会場の女性の殆どが剣聖見たさに来ているのだから。そんな剣聖を見てリュウガは、


(あ〜、こりゃ駄目だな)


 リュウガはソウの負けを確信した。


(こっちの世界で強い奴は見たがこいつは別格だな。そりゃあやる気も無くすはな、こんだけ強けりゃ)


 リュウガがこの世界に来て強いと思った人間は全くいなかった訳ではないのだが剣聖はモノが違った。歩き方1つ重心1つでその強さを理解した。ドラゴンを2回討伐した実績は伊達ではない。

 

 試合は一瞬だった。ソウは特訓し身につけたカウンターをしようとしたがそれ以前に剣聖は速すぎた。ソウは集中していた。構えに隙はなく油断なんて剣聖相手にする筈もない。大会に出場者する前にビビっていた時とは違う。それでも剣聖の強さに迫れるモノではなかった。一瞬で後ろに回り込まれ首に一撃貰い気絶した。


「「「あ〜」」」


 と、隣の3人から声が漏れる。リュウガは、


「粘って欲しい気持ちはあったが流石に無理だな、あれ相手には」


 と、ソウに目を向けた。そんなリュウガの視線に剣聖が気づきこちらを見て笑顔を見せた。



 2回戦はルイ、剣聖共に楽々と突破した。それでも一応休憩のために10分のインターバルを入れる事となった。


「ルイは勝てるかな? どう思う? サブマス?」


 心配そうにマイがリュウガに聞く、


「まぁ、無理だな。ここまで両者共に本気を出してないのは一緒だが抜き加減が違い過ぎる」


 ルイは7割程度で戦っている。しかし剣聖は5割程と推定する。剣聖の本気を見たことないが今までの立ち回り的には合っている筈だ。


「う〜ん。どうにか何ない?」

「無茶言うな。まぁ、助言位はしてくるわ」


 そう言って席を空けて置くように言い残して控え室にいるルイのもとへと向かった。


 

「勝てる、わたしなら勝てる」


 うわ言のように呟き続けているルイ。緊張しているようだ。無理もない相手は無敗のチャンピオン剣聖カゲトラなのだから。そんなルイに、


「緊張し過ぎだ。バカ」


 デコピンをお見舞いするリュウガ。


「イッターイ!」


 赤くなったおでこを抑えて涙目な顔で相手の顔を睨み、そして驚いた。いつの間に入っていたのだと。


「ノックはちゃんとしたぞ。気づかない位集中してると思えばバカみたいに緊張してたからデコピンした」

「まったく! 他にやり方なかったの」


 それでもさっきよりは緊張がほぐれたか表情が柔らかくなった。


「ねぇ、わたしは剣聖に勝てる?」


 不安そうに聞いてくる。普段は強気な彼女であるがこんな場面では仕方ないだろう。


「断言する。。剣聖が全力を出せば100%お前は負ける」


 冷静にそして残酷な現実を突きつける。その言葉に俯くが、


「だが、剣聖は5割しか出してないうえ今までの無敗で油断している事に賭けろ。そんでもって2試合とも必ず背後を取ってる。それにカウンターをかませば一撃で決めれる可能性がある。だからお前の勝率は2割ある。それを引け。それで駄目なら手数で攻めて隙を作れ。それが最善だ」


 頑張れよ、と控え室から出ようとするリュウガにルイは、


「あんたと剣聖ならどっちが強い?」


 聞いてみる。



 その言葉を聞き覚悟を決めた。


  

「決勝戦!絶対王者カゲトラvs最近活躍の運命の宿木より聖槍の使い手ルイ!」


 選手2人が入場し会場は多いに盛り上がる。


「戻ったぞ」


 リュウガは空けて貰った先に座る。


「どう? ルイの様子は?」

「やる気は充分。後は知らん」


 投げやりな言葉に文句ありげなマイだが実際に戦うのはルイなのだから結局のところ自分には応援しかないと声を出す。

 

 ルイと剣聖カゲトラがコロッセオ中央にて向き合う。


「あんたの無敗記録破らせて貰うわよ!」

 「それは楽しみだね」


 ルイの挑発を受けても和やかに微笑む。そして、


「試合〜開始!」


 その合図と共にカゲトラはルイの背後を取る。しかしその動きは事前にリュウガから聞かされていたためカウンターを鳩尾に叩き込んだ。それを受けてカゲトラが吹っ飛んだ。誰もがルイが勝利し剣聖カゲトラの初敗北を期待したが、ルイとリュウガだけは違った。


(上手いな。拳が入る直前に後方に跳んで威力を流したな)


 カゲトラは会場の殆どの人間が反応出来ないようなスピードの攻撃をしていたにも関わらずカウンターが来た瞬間後方に跳んだのだ。普通は無理なのだがそれが出来るから彼は無敗なのだろう。吹き飛ばされて壁に激突するかに思われたカゲトラは身体を捻り両足でしっかり壁を蹴りその勢いのまま殴りかかる。ルイは紙一重でしゃがんで避けたが視線を下にしてしまい一瞬が出来てしまう。


「格上にそれは駄目だが良く避けた」


 駄目出しと褒める言葉が同時にリュウガから出たがそこまでだった。顔を上げるその前に首に一撃貰いルイは気絶した。


「良くやった」


 そう言って拍手する。マイもゴウもハンザも拍手している。周りもあの剣聖に一撃を与えた事に対して、素晴らしい、などと声をかける。その言葉は気絶したルイには聞こえてないがどこか嬉しそうな顔をして治療室に運ばれていった。



 出場者全員の治療が終わり、最後はチャンピオンとなったカゲトラに主催者がインタビューを行おうとしたところで、

 

「皆様! 誠に勝手ではございますがエキシビションマッチを行います。客席の君! り合おうよ」


 カゲトラは客席に指を指す。その方向を全員が見るとそこには、


「マジかよ」


 驚いた様子ではあるが久しぶりにマシな相手と戦える事に対して嬉しそうにしているリュウガがいた。 



 コロッセオにリュウガが降りる。そんなリュウガに主催者は、


「名前と所属は?」

 

「リュウガ・レン。運命の宿木サブマスターだ」


 リュウガとカゲトラが向かい合う。


「それでは、剣聖様により提案されました。エキシビションマッチ、剣聖カゲトラvs運命の宿木サブマスターリュウガ!」


 その声を聞き先にリュウガが仕掛ける。


『無刀 ‘神凪かんなぎ’』


 左手を鋭く振る。カゲトラは跳んで避ける。


 ズバアーン!


 後ろを見るとコロッセオの壁が斬れていた。という現象がある。風が生む真空により皮膚などが裂けるというモノだが練式剣術を雲耀うんよう(0.00005秒)まで極めた者はそれを可能とする。それは素手であっても例外ではない。


「跳んだのはだろ」


 もう1度無刀による神凪を放つ。カゲトラは宙にいるため回避出来ない。そう思われたが、


「こうか?」


 右手を鋭く振る。紛れもなくそれは無刀の神凪である。


 パァーン!


 かまいたち同士がぶつかり合い鋭い音がコロッセオに響き渡る。カゲトラはたった1度見ただけで技を盗んだのである。これには、


「大した才能だな」


 戦いの最中であるがリュウガは誉めていた。その態度にカゲトラは、


「その態度。まるで自分の方が上みたいだな」


 不満そうに言う。


「事実、俺がだからな」

 

 断言した。異世界だろうがなんだろうが自分は最強である確信がある。そこに揺らぎはない。そんなリュウガの自信を打ち砕くべくカゲトラは全魔力を身体に纏う。この世界の冒険者達は魔力を纏うことで五感や身体能力を上げて戦う。先程までは素の身体能力だけで戦っていたのだ。


「うっわ! 凄い魔力」


 魔法使いは人の魔力量を見ることが出来る。そのためマイはカゲトラの魔力量に驚く。街で見かけた時から分かってはいたが、いざ戦いで使うところを見るのは初めてだ。それでも、


(なんでだろう? 信じているというのもあるんだけど剣聖がリュウガに勝つビジョンが見えない)


 カゲトラがリュウガに殴りかかる。その速さはルイと戦っていた時よりも圧倒的に違う。その拳をリュウガは右手で払いのけた。速さも威力も申し分なかった。低ランクのモンスターなら余裕で殺せる拳を虫を払うかのように防がれた。動揺するカゲトラに、


「戦いの最中に動揺してんなよ」


 その言葉と共に拳が腹にめり込む。身体が宙に浮きそこを蹴り飛ばされた。ギリギリ左手のガードが間に合ったがおそらく骨は折れている。全く力が入らない。それでも


(強い! ここまで差があるなんて)


 圧倒的な実力差にカゲトラは笑った。初代剣聖に並ぶ強さを持った自分よりも強い人間がいる。それはカゲトラにとって喜びに他ならない。


(笑うか、よっぽど退屈してんだな)


 カゲトラの実力ならそうなるのも仕方ない。


「来いよ、お前が全力を尽くすに値する男がここにいるぞ」


 人差し指でクイックイッと挑発する。カゲトラが突っ込む。左手が痛むのか速さが落ちている。そんなカゲトラにカウンター狙いの拳が届く直前カゲトラは斜めに急転換し避ける。拳が空を切り、ガラ空きの鳩尾に拳が突き刺さるそう思えたが、


「今の急転換は見事だ。そしてこの拳も中々の威力だ」


 受け止められた。完璧に虚をついた一撃を当たり前のように。


「お前の強さは最上級だな。それでもには届かない」

「俺達ってのは?」


 その疑問には答えずリュウガは顔面に拳を叩き込む。カゲトラが壁に吹っ飛んでめり込む。そのままカゲトラが気絶してエキシビションマッチはリュウガの勝ちとなり剣聖カゲトラは人生初めての敗北を味わった。

 

 

「で? 結局俺達ってのは?」


 治療室から出て来たカゲトラは帰ろうとしていたリュウガを捕まえて再び疑問をぶつけた。


「お前頑丈だな。全力じゃねぇつっても俺の拳がモロに顔面に入ったろ」

「聖剣の効果には自動回復があってね。持ち主が怪我を負えばどんな怪我も治してくれるんだよ」


 こっちは質問に答えたんだから君も答えてと、リュウガに詰め寄る。


「俺達ってのは強さの限界の壁って奴を壊した、強さが理不尽とまで呼ばれる連中だよ」


 そう答える。


「俺もそこに行ける?」


 その疑問に対して、


「知らねぇ。少なくとも国内に留まってダラダラ過ごしてるようじゃ決して届かねぇよ」


 じゃあな、と帰って行くリュウガの背を見てカゲトラはある決意を固めた。



「剣聖が旅に出たって〜、国中その話題で持ちきりだよ〜」


 マイがギルドにて皆に話す。どうやらリュウガの言葉を受け剣聖カゲトラは旅を決めたようだ。


の領域に来れるかな? カゲトラは)


なんて事をリュウガは思いながら自分と同じ領域に立つを思い出す。



 


 


 



 


 




 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る