2話 Sランク試験
〜ギルド総本部〜
Sランク試験はギルド総本部に受付がある。前日に街を案内して貰っているのでスムーズに行くことが出来た。レンガ造りの3階建になっておりその中には冒険者だけでなく依頼人らしき人や食堂や鍛冶場もあるのだろうか、料理人から職人まで様々だ。とりあえず、リュウガは受付を済ませるためにカウンターへ向かい受付嬢に、
「Sランク試験を受けたい」
と言ったら、受付嬢は驚いた表情を見せたがすぐに、
「担当の者を呼んできます。少々お待ちを」
と言い、カウンターの奥に姿を消した。
(あの驚いた表情から察するに珍しいんだろうな)
それもそのはずだ。彼は知らないだろうが5年前を最後に受ける者はいない。なんせ死人が出るばかりで誰も受からないのだから。しばらく待っていると奥から冒険者らしき人物が来た。
(強いな)
Sランク試験というだけあって試験官もSランクなのだろう。歳は50代といったところの白髪頭のガタイのいい男が出てきた。
「お主がSランク試験を受ける者だな?ワシはグランドマスターのガン・ドーガだ。よろしく」
グランドマスターとは、全てのギルドの頂点である総本部のトップだけが名乗れる称号で、その権限は貴族並みである。
「わざわざトップが試験官を?」
「今までは他のSランクの者に任せるのだが、5年振りの挑戦者なのでな。担当官に代わるよう頼んだのだ」
(暇なのか? グランドマスターってのは?)
もっともな疑問である。言っておくが暇ではない。部下に仕事を押し付けての行動である。
「それよりも、書類を書いてもらおうか。名前、職業、所属ギルド、ギルドに所属していないならフリーと記入してくれ。そして最後に死ぬのは自己責任という事の意味を込めてのサインもな」
書類を書き終わり提出すると、
「ほう、運命の宿木所属か」
「知ってるのか? 出来たてのギルドを?」
「なんだ知らんのか? お主のギルドマスターは魔法学院を過去最高の成績で卒業した天才児だぞ。知らん方が可笑しいだろう」
初耳である。確かにマイは魔法使いを名乗ってはいたがそれ程の人物とは思ってもいなかった。
(まぁ、帰ってから聞けば良いな)
死ぬかもしれない試験にも関わらず余裕そうだ。それを見てガンは、
「余裕そうだが、お主が討伐するのはクラッチ山のワイバーンだぞ。Aランクが5人いてようやく討伐可能でその上で1人は死ぬ可能性もある大物だぞ」
と注意を促すが、
「いや、たかだか空飛ぶトカゲに負ける気ねぇから」
この反応である。流石にこれには、
「強いのは雰囲気で分かるが舐め過ぎたぞ、小僧!」
とてつもない殺気だ。いきなりのことに何事かと冒険者達はこちらを見る。殺気を受けた本人は、
「舐めんな、ジジイ!」
同じ程の殺気を飛ばす。あまりの殺気に受付嬢の1人が倒れた。周りの人達がその様子を
「ワッハッハ、ワシの殺気に怯むどころか殺気を飛ばしてくるとは良い度胸だ、よし行くぞ、試験の始まりだ」
「いいのか、失礼な事したうえに受付嬢を気絶せちまったけど?」
「構わん。Sランクになるほどの男ならこれくらいしてもらわんと困る」
そう言うと、ガンはギルドを出る。その後にリュウガも続いて歩いて行く。
道中Sランク冒険者について聞いたところ現在いるのは総本部に3名、その内1人はグランドマスターのガンであるという。そして、フリーで2名、冒険者ギルド
暗闇の一等星というのは、冒険者憧れのNo. 1ギルドらしい。フリーの冒険者というのは、ギルドに所属せず依頼は総本部にある依頼掲示板から受ける人の事をいうらしい。
◇
「つーか、ワイバーンがなんでこんな街の近くにいるんだ? もっと険しい山奥や谷でそこを縄張りにしてるだろ?」
そうなのである。街を出て歩いて10分で木々が生い茂るクラッチ山へと着き、今はワイバーンを捜索するためどんどん奥へと進む。
「ほう、詳しいな。住処を追い出されたんだろうな、ドラゴン辺りに。だが縄張り意識が強いワイバーンは街に来ないとはいえSランクのモンスターがいるのは不味いという事で今回の試験だ」
「なるほどね。そんでもってご登場だな」
見上げると、そこにはワイバーンだ。その姿はオオトカゲの前脚が翼になっていて、頭から尻尾までで8mはある。
「それでは、見事討伐したらSランクと認める。頑張れよ、小僧」
そう言い、ガンは数m後ろに後退する。
それを見届けるために後ろを見た瞬間ワイバーンが襲いかかる。
「小僧! 敵から目を離すな!」
ガンが怒号を飛ばす。しかし、既にワイバーンは口を開けてリュウガの体を食い千切ろうとするが、そんな事にはならなかった。
シュッ、と刀を抜いた音がしたと思いきや、その後、ドサッ、と音がしてワイバーンの首が落ちる。リュウガがやった事は単純だ。ワイバーンの噛みつきを避ける、そして刀を抜き首を斬り落とす。ただそれだけのこと。
それでもあまりの早技にガンは驚きを隠せない。Sランクの自分はワイバーンを討伐する技量はある。それでも、死闘の末にようやくというものだ。本来Sランクのモンスターとはそういうものだ。だが目の前の男はそれを瞬殺したのだ。
(こいつは、もしかしたら剣聖にも勝つんじゃねぇか?)
現王国最強の男の事を考えてると、
「おい、これでSランクだろ? とっとと帰ってライセンス発行してくれ」
(本人は自分がやった事の凄さを理解してないようだが、今はそれで良いだろう)
「よし、リュウガ・レン。お主をSランクと認める」
こうして、また新しいSランク冒険者が生まれた。
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