21. 元執事、六階層へ

「来るぞっ!」

「ブォォォォォォォォォォォォォォォォォオオ!!!!!」


 魔鬼王が叫びながら突っ込んできた。


「ハクの殺気に危機感を覚えたのか。〈爆炎〉」


 とりあえず目隠しに爆発を起こす。煙が巻き起こる、が……


「ブォォォォォォオ!」

「チッ、ノーダメージか」


 その煙すら気にもとめずそのまま突っ込んでくる。


「私が」


 リリアナが腰に下げている剣に手をかける。そして……


「剣技〈白閃はくせん〉」


 抜刀すら見えない速度で一閃。

 だが……


 プシュッ。


「かすり傷か……っと」

「やっぱり皮膚硬いわね……はっ」

「ワンッ」


 俺たちはそのまま突っ込んできた魔鬼王を避ける。


 俺は真上に。

 リリアナは右に。

 ハクは左に。


「〈氷槍ひょうそう〉」

「グギャッ」


 俺が作り出した氷の槍が魔鬼王の頭を直撃する。


「剣技〈連閃れんせん〉」


 そこでリリアナが連続で剣を見舞うが硬い皮膚に阻まれて表面に傷をつけるだけにとどまる。

 だが、キングオーガはリリアナの剣が自分に傷をつけれることを知ってリリアナを敵として認定したようだった。


 リリアナに向かって手に持っていた棍棒を振り下ろす。と。


「そんなの当たらないわよっ」

「グルゥゥゥゥゥゥゥウ」

「ガッ!?」


 リリアナが余裕で避け、その隙にハクが思いっきり魔鬼王の足首を噛んだ。

 魔鬼王が呻き声を漏らす。


「いや、ハクの牙どうなってるんだ……」


 なんで血が吹き出てるの、皮膚硬いよね?


神狼フェンリルって色々すごい……」


 もうこれでいいよね、こうとしか言えないし。


「はあぁぁっ!」


 ハクが足首を抑えている間に、リリアナが剣を魔鬼王の肩の付け根に勢いよく振り下ろす。


「グゥゥゥゥゥゥゥゥウ!!!!!」


 綺麗に関節に入ったらしく、大きく血が噴き出した。


「今よっ!」

「わかってる!」


 魔法式展開。


「〈雷神弓らいしんきゅう〉!」


 手に現れた雷を纏う弓を力一杯引く。

 現れた雷の矢は凄まじい速さで魔鬼王に向かって飛来した。そして……


 バチバチバチバチッ。


「ギャァァァァァァァァァァァア!!!!!!」


 右目に突き刺さり眩いばかりの光を放つ。

 これは神と名がつく弓。その威力はたとえ魔鬼王といえど耐えられるものではない。

 苦しげに絶叫する。


 これで最後だ。俺は呟く。


「〈神剣生成〉」


 片手に金色に輝く剣が現れる。剣神ソルフェードが使っていたと言われる剣。真偽はどうかわからないが、威力は抜群だ。


「おしまいだ」


 俺は剣を心臓に突き立てた。


「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!!」


 魔鬼王が断末魔をあげる。


 ドスン。


 心臓から血を吹き出し、大きな音を立てて倒れた。

 そして……


 カラン。


 高い音が響く。気がつけば魔鬼王は消えて大きなコアが転がっていた。



 それを拾い上げると、リリアナが感慨深い目する。


「私たち……倒したのね」

「あぁ、お疲れ様」

「お疲れ様……」

「ワンッ!」

「ハクもお疲れ様」


 二人に労いの言葉をかける。倒したことで奥の転移陣が見えていた。


「これでようやく、帰れるわね」

「リリアナ」

「うん?」

「これ、やるよ」

「ちょっ、はっ!?」


 コアを投げ渡すとリリアナが唖然とした表情を浮かべる。


「私のものじゃないわ。あなたとハクがいなかったら私は……」

「お前だって一緒に倒しただろ?」

「でもそれなら換金して分けなきゃ……」

「俺たちはこれから下に向かう。だから持って行ってもらおうと思ってな」

「えっ……」


 リリアナが信じられない、という表情を浮かべる。


「今から下に行くですって!?」

「あぁ」


 頷く俺を見てリリアナが声を荒げる。


「五階層はセーフティゾーンになっているからこのままいったらすぐ六階層よ!? あそこはせめて準備をしなきゃ……!」

「ワンワン!」


 ハクも責めるように吠える。いや、お前もそっち側なのか……。

 若干落ち込みながら俺は口を開く。


「魔物が増えているのをお前も見ただろう?」


 俺の言葉にリリアナが不思議そうな表情をしながらも頷く。


「このままだと魔物大氾濫スタンピードが起きる」

「そんなっ……!?」


 怪我していた時のリリアナの言葉で確信した。魔物は明らかに増えているようだし、このまま行けば魔物大氾濫は免れられないだろう。


「だから、早く下に行ってその原因を突き止めなきゃいけないんだ」

「っ……で、でも、休まないと危険よ!」


 俺の言葉にリリアナはなおも休むよう主張する。だが……


「これくらいならどうってことない。もっと大変なことなんてたくさんあったからな」

「もっと大変なことって……」


 執事の仕事は倒れるまで走り回ること、らしいからなぁ。そんなことを繰り返してれば自然に魔力も体力も増えるものだ。


 そんなこと言えないけど。


「それは内緒だ。でもまぁ、俺は大丈夫だから。お前は上に……」

「嫌よ。それなら私も行くわ」

「はっ?」

「ワン?」


 俺の言葉を遮って発したリリアナの言葉に俺は唖然とした。ハクも心配そうな表情になる。


「一人より二人、よ。言っても聞かないでしょうし、それなら私も行くしかないじゃない。幸いここは一回攻略済みだから頼りになると思うわ。魔物が増えているから想定外なことも多いとは思うけど……」

「はぁ……」


 止めても聞かないのはこの短い付き合いでよくわかった。だから俺は好きにさせることにした。俺が守ればいいだけだしな。

 その代わり……


「わかったから。とりあえずこれを飲んでおけ」


 俺はアイテムボックスから薬屋で買った小瓶を差し出した。剣技は魔力を使う。実際枯渇しそうになっているのに気づいていた。


「魔力回復薬? すでに手持ちは無くなっていたから助かるわ」

「お前の戦闘スタイルは剣技みたいだからな。あれだけ使っていたらそりゃ魔力足りなくなるさ」

「しょうがないじゃない、剣技が一番効率いいんだもの」

「だからと言ってすべてで使っていたら魔力なんてあっという間だろうに……」


 俺の言葉を聞き流してリリアナは小瓶の中身を飲み干す。


「ふぅ、これで問題ないわ。行きましょうか」

「とりあえずコアは預かっておく。お前が持ってても邪魔だろうからな」

「ありがとう」


 コアをアイテムボックスに収納する。


「よし、行くか。時間はないから五階層は飛ばさせてもらうぞ」

「お好きにどうぞ」

「ワン!!」


 そうして俺たちは六階層に転移した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る