20. 元執事、ボスに挑む
「さて、そろそろここから出ないとな」
「ボスに挑むの?」
俺の言葉にリリアナは笑みを浮かべて立ち上がろうとする。だが……
「あぁ、お前はまだ疲れているようだし、休んでろ」
明らかに疲れている表情。三時間休んだところで腕まで食いちぎられる戦闘の疲労は抜けるわけもない。
だが、リリアナはその言葉に声を荒げる。
「そんなっ……」
「今のお前がいたところで足手纏いだ。やばくなったらここまで戻ってきて作戦を立て直せばいい」
「でも……」
「もともと俺は一人、いや俺とハクの二人で挑戦するつもりだったんだ。問題ない」
俺の言葉にリリアナは俯く。
リリアナだって今の自分が足手纏いであることはわかっているはずだ。だが、今ここで一人だけ戦わないことはSランク冒険者としてのプライドが許さないのだろう。
「はぁ……」
俺はため息をつく。自分のお人好しさが恨めしい。
「わかったから。連れてってやるから足引っ張るなよ」
「っ!? もちろんよ!」
リリアナが満面の笑みを浮かべる。
単純なやつ。
だが悪い気はしなかった。いつも余裕そうなやつに余裕ない様子を見せられると不安になるからかもしれない。
「あの扉の向こうだよな」
「えぇ」
暗がりから先を覗く。そこで気づく。
「そういえば、俺が意識を失っている間魔物は来なかったのか?」
「あなたが倒したから……っておかしいわね。
リリアナも気づいたようで考え込む。
「もしかして……ハクか?」
「ワフッ?」
ずっとおすわりして俺らを見ていたハクが、急に視線を向けられたことで首をコテンと傾げる。
「そういえばその子、あなたが倒れてからずっと怖い雰囲気だったわね。子犬でもこんな殺気出せるんだ、って驚いたわよ」
「……殺気?」
え、ハク殺気出せるの? てか
俺はハクに生暖かい視線を向ける。それだけ想われていることに喜びたいが、こんな可愛らしいフォルムから殺気……複雑だ。
「何で一人で百面相してるのよ」
「いや、何でもない。魔物が近づかなくなった理由もわかったしそろそろ行くか」
「え、理由がわかったの? 教えてよ」
「内緒」
俺の返事に頬を膨らませる。
「ちょっ、何でよ! 教えてくれたって……って待って!」
「待たない。ダラダラしてると置いてくぞ〜」
「こいつ性格悪い」
「何を今更」
リリアナは自分の心の内をぶちまけたからだろうか、以前よりもずっと肩の力を抜いて話している気がする。
「お前はそっちの方がいいよ」
「ん? なんて言った?」
「何でもない。行くぞ!」
「もうっ、自分勝手なんだから……!」
ハクを抱きかかえてその場から走る。すぐ後ろにリリアナ。
扉までは一瞬だった。ハクをその場におろし、心を落ち着かせる。
「開けるぞ」
「ちょっと待って、
「体が硬くて大抵の魔法は届かない。武器で傷つけることもできない。だから心臓のど真ん中を狙え。弱点は鼻と目。だろ?」
リリアナの言葉を遮って言うと、むすっとした表情になる。
「……知ってたのね」
「あぁ、戦ったことあるからな」
「そうなの!?」
「山の奥に凶暴化した魔鬼王がいてな、街に降りてきそうで危ないから倒したことがあったんだよ」
俺の言葉にリリアナは唖然とした表情になる。
「私、ついてこなくてよかったじゃない……」
「だからそう言っただろう?」
「そこまでちゃんとは聞いてないわよ!」
「ギャオォォォォォォォオ!」
「やばっ」
「早く入って!」
「ワンッ」
後ろから聞こえてくる叫び声。魔物がこちらに向かって走ってきたのを見て俺らは慌てて部屋に入ったのだった。
そして……
「ブオォォォォォォォォォオ!」
「やっぱり魔鬼王は迫力があるな……」
「こいつ……私が戦った時より大きくなってる……」
俺たちの何十倍もでかい図体、射殺すような赤い瞳、頭から生えた二本のツノ。
魔鬼王は俺たちを脅威に感じないのか、座った状態で余裕そうに見下ろしてくる。と。
「グルゥゥゥゥゥゥ」
「ハク……っ!?」
ハクが唸り声とともに殺気を放つ。その濃厚な気配に俺は唾を飲む。
「神狼の殺気凄まじいな……」
「これはなに……!? さっきよりもずっと濃い……!」
「これがハクの本気ってことだろ」
「ただの子犬じゃなかったのね……」
俺たちがハクの殺気に気圧されていると魔鬼王が唐突に立ち上がる。
「……」
嫌な予感がよぎる。俺は思わず叫んでいた
「来るぞっ!」
「ブォォォォォォォォォォォォォォォォォオオ!!!!!」
魔鬼王が叫びながら突っ込んできた。
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