7. 元執事、迷宮攻略へ
「これが
俺は入り口を見て呟く。迷宮は地下にあるからその巨大さは外からではわからない。
だが……
「威圧感というか、入ったら飲み込まれてしまいそうな、そんな場所だな……」
大きな口が開いていて、中は深い闇。一度入ったら出れなくなりそうな、そんな雰囲気さえ感じる。
だが、反対に魅力も感じていた。
「迷宮に魅せられる、ってこういうこと言うのか……」
よく聞く言葉。迷宮に入って、迷宮に魅せられて、迷宮に人生を捧げる奴が一定数いる。それは、迷宮が人を魅せる不思議な力があるからなのか、人の欲深で謎は明かさないと気が済まない性格のせいなのか。
「よし、行きますか」
魅せられてしまったら何かがダメな気がする。より慎重に、気を確かに、俺は一歩を踏み出した。
***
光球を自分の前に漂わせながら中を進む。一階層、すでに攻略済みと聞くが何が起こるかわからないここでは油断は禁物だ。
そんなことを考えていると。
「ギシャァァァア!」
「シャァァァァア!」
小さな角を二本生やした小さな鬼が二体現れた。
「
こいつらは弱い。だが繁殖力が強く、最底辺——Fランクに分類される魔物でありながら、集団になった時の脅威は高い。
「戦わない方法もあるが、こいつらは倒したほうがいいだろうな」
迷宮の仕組みがどうなっているかわからないが、もしこの中で増えすぎましたとかなったら最悪である。
魔法式を展開。
「〈風刃〉」
「「ギャァァァァア!!」」
魔法式を起動すると風の刃が小鬼を切り刻む。そして……
「こうやってドロップするのか」
小鬼が溶けるように消えてコア——魔物にとっての心臓のようなもの、核——が現れた。
迷宮内の魔物は倒すと跡形もなく消え去り、コアだけが残る。これは迷宮の外にいる魔物とは違う点で、なぜなのかはわかっていない。
コアは薬の材料になったり魔道具の材料になったりするため、ギルドで換金可能である。高ランクの魔物ほど換金額が高く、反対に低ランク——小鬼のコアなんて一個では何の価値もないが。
「こんなものか。とりあえず進まなければ」
俺はコアをアイテムボックスに仕舞うと一歩踏み……出そうとして大きく後ろに飛び退いた。
「あっぶねぇ!」
突如足元にあいた穴。真っ暗で穴の中がどうなってるかわからない。
「怖すぎだろ……全然気づかなかったんだが……」
若干の揺れを感じて何とか回避したが、危うく落ちるところだった。
踏んではいけないところ、だったのだろうがさすがにそれを察知する能力はない。
「き、気をつける方法すらわからないんだが」
体の芯が震える心地だった。
「と、とりあえず、浮いていけば大丈夫だったりしないか……?」
馬鹿げた発想かもしれない。罠を回避する方が魔力の効率もいいだろう。
だが……
「今すぐできるわけじゃないからな」
迷宮に入ってしまった以上、俺は進むしかない。戻るなんてことはしたくない。ただのエゴだけど。
階層の最後に転移陣があるらしい。そこまで行けば次の階層に進むことも地上に戻ることもできる。
「とりあえず今日は一回層を突破しなきゃだな」
俺は呟くと魔法式を展開する。
「〈浮遊〉」
起動すると体がふわりと浮く。
「とりあえずこれで進めば罠には引っかからないだろ」
絶対何か違う気もするが、安全第一である。
俺は床から数センチ浮いた状態で歩き始めた。
***
俺は昼頃には一階層を攻略して転移陣にたどり着いた。
浮遊は魔力消費が激しい。だが代わりに最後まで罠に引っかかることなく、早く攻略することができた。
「小鬼のコアはいっぱい手に入ったけどな」
一階層だからだろうか。小鬼にしか出くわさず、途中から掃除している気分だった。
「三十個か……銅貨十枚くらいかな」
金貨一枚が銀貨十枚、銀貨一枚が銅貨百枚である。
銅貨三十枚といえばだいたい一食分くらいだ。
「迷宮攻略はこのレベルだと食っていけないんだな」
冒険者の世界も世知辛いようだ。
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