第11話 さらなる絶望へのカウントダウン 2・・・

その後、親との約束通り、家業の養成所に1年間入る事になった。


桜子とは結婚するつもりだった。


人生で一度しか言わないつもりのプロポーズの言葉を一生懸命考え桜子に伝えた。


「え、言っている意味わかんない。どういう事?」


変に奇をてらいすぎたからなのか、桜子に真意が伝わらなかったという体たらく。結局“ずっと一緒にいよう!”という、ジス・イズ・ア・ペン!みたいなオーソドックスな言葉で理解してくれた。


そして、私と同棲していた家は桜子の職場から離れていたので、引っ越しする事になった。私は養成所の準備の為、実家に帰ったりしていたので、桜子が物件を探して決めた。


引っ越し先は高級住宅街が多い世田谷区のマンション。


へ~桜子、金貯めてんだな~!こりゃ~妻として申し分ないやん!なんて呑気に考えていた。引っ越しも終わり、夜の10時くらいだった。


「ピンポーン!」


「誰やねん。こんな夜に。」


私は、その頃、プレステのダービースタリオンという競走馬を育成するゲームにハマっていた。引っ越しも終わり、早速ゲームをしていた私。インターホンのモニターも見ず、ゲームに夢中になっていた。


「あ、ちょっと待ってて!」


今になって思えば、桜子は慌てていたように記憶している。


「エレジーちゃん、ちょっと友達が来たから、行ってくる!」


「あ、そう。」


相変わらずテレビ画面から目を離さず、そっけなく答えた。私は桜子の事は信用しきっていて、他に男がいるなんてこれっぽっちも疑っていなかった。



あの時、何で・・・



ほんの20分くらいで、桜子は帰ってきた。そして、私は関西にある養成所に入った。東京の桜子、関西にいる私。


養成所は1年間で、無事に卒業すれば結婚しようと思っていた。


ボクサーとしてはダメだったけれど、桜子とは何の問題もなく順調に事が運んでいると思っていた。


あの出来事が起こるまでは・・・


養成所での暮らしは、起床、食事、風呂・・刑務所のように時間が決まっていた。そして、外部との連絡も制限されていた。1週間に1度、養成所にある1台の公衆電話で5分間だけ通話ができた。


勿論、私は桜子に電話をかけていた。


こんなに5分間って早かったっけ?って思えるくらい、時間は無常に過ぎていった。桜子ともっと話したかった。楽しみは本当に1週間に1度の5分しかないってくらい養成所での暮らしは苦痛だった。


そして、いつものように指が覚えている番号をプッシュする。


「この電話番号は、現在使われておりません。」


無機質な機械音の女性の声。


あれ?間違えたかな?


再度、試みる。


「この電話番号は、現在使われておりません。」


うそ・・


「この電話番号は・・」


いやいや・・


「この電・・・」


ちょ・・・


「この・・・」


・・・・・


結局、桜子とは話せなかった・・。


え、ウソやろ。番号使われてないって、どういう事?


一抹の不安がよぎる・・・

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