第31話 皆の力
午前中は師匠との訓練。
午後からはモンスターと戦いにやって来ていた。
今日は師匠が同伴してくれている。
他の子供たちが心配のようだ。
「他の奴らが心配だからって、お前を心配していないわけじゃない。お前も気を付けろよ」
「分かってます。死なないように頑張りますよ」
「でも、この間死にかけたろ?」
「う……そうなんですけど、あれはイレギュラーですよ」
オークと戦った時のことを師匠は言っているのだろう。
草原の中で跳ねるスライムを眺めながら師匠は続ける。
「イレギュラーは常にあると頭に入れておけ、いつでも死なないように、生き残れるように逃げる手段も考えておくんだ」
「逃げる手段か……確かに、それも必要ですよね」
もし最初から逃げる算段がついていればオークと戦う必要は無かった。
あの戦いは意味があった戦いだったとは思うけれど、そうか、命をもっと大事にしなければいけないな。
今日からはもう少しその辺りのことも考えて行動することにしよう。
「よし。じゃあモンスターと戦って来い。レインがいれば大丈夫だ」
「お、おー……」
リオラとエッジ、そしてアルバートはスライムに怯えているようだった。
ずっとモンスターは危険だと聞いてきて、怯えているのだろう。
でもスライムを倒せないようじゃ、この先はない。
三人の最初の試練ってことだな。
「僕がフォローするから行こう」
僕は前進し、手の中に魔力を作り出す。
これは皆の訓練ではあるが、僕とウェイブにしても同じこと。
魔術の練習のために、格下のモンスターと戦うことにしたのだ。
「【エナジーボール】!」
黒い魔力が弾丸となり、スライムの肉体を貫く。
威力はやはりまだ低い……でも丁度いい感じに敵を弱体化させることができた。
「よし。今ならいけるぞ!」
「よ、よし!」
リオラが剣を構えてスライムに突撃する。
相手は動くこともままならない様子。
そのスライムにリオラが素早く接近する。
「えい!」
リオラの一撃でスライムは倒れる。
モンスターを倒せたことに驚き、そして歓喜するリオラ。
それを見たエッジとアルバートもやる気をみなぎらせていた。
「リオラにもできたんだ。俺らにもできるだろ」
「ああ。でも油断はするなよ」
「俺が油断するのは女だけ!」
「女にも油断するんじゃない」
エッジが弓で、アルバートが火の魔術でスライムを攻撃をする。
二人の攻撃はしっかりとスライムの命を奪い、ハイタッチで喜びを共有していた。
「意外といけるもんだな……これも師匠のおかげか」
「モンスターには絶対勝てないと思っていたけど、皆とならなんとかなりそうだな」
師匠が三人の活躍を見ながら、僕らに言う。
「いいか。本当の仲間ってのは財産であり、本物の力だ。自分の力だけに頼るんじゃなく、仲間の力を頼れ。俺にはそれができなかった……でも、お前たちならできるはずだ。個の力を一つにまとめ、大きな力を発揮するんだ。そうすりゃ貴族の連中にも負けない戦い方をできるはずだからな」
「皆の力を一つにか……」
「ああ。自分の力だけではなく、人との絆を大事にするんだ」
リオラたちの戦いを見て、僕は一人首を縦に振る。
個人の力では不可能だとしても、個人の力を合わせれば不可能を可能にできるってわけか……
今も目の前でスライムを倒したリオラたち。
確かに一人ではスライム一匹倒すことは叶わなかっただろう。
だけど力を合わせてモンスターを倒すことができた。
現在は最弱のモンスターを倒せたという程度のことかもしれないが、大きな相手をする時も問題は同じなのかもしれない。
自分を信じて、仲間を信じれば不可能なんて言葉は意味をなさない……
僕はぼんやりとそんな風に感じていた。
「なるほどな……やっぱり個人の力より集団の力か」
「……ウエイブ?」
僕の隣でウェイブがリオラたちを冷めたような視線で見つめているのに気づく。
だが、僕が声をかえると、いつも通りの温かい視線をこちらに向ける。
「なんでもないよ。ただ、一人で戦うより皆の力を合わせた方がいいって、そう思っただけさ」
ウェイブは僕の肩に手を置く。
「実際、これまで俺たちは二人で力を合わせてモンスターを倒してきたんだ。力を合わせることの重要さを再確認しただけさ」
「そう、だよな……うん。そうだな」
「ああ。これからもよろしくな、レイン」
ウェイブは僕に笑顔を見せ、そして魔術でスライムに攻撃を始める。
「【ウインドカッター】!」
僕と同じでウェイブもスライムを一撃で仕留めることはできない様子。
リオラが弱ったスライムを剣で止めを刺し、ウェイブは満足そうにまた笑った。
「…………」
皆少しずつだが自信を持ち始めていた。
それはとても素晴らしいことだとは思うが……ウェイブは何を考えているのだろうか。
不安のようなものがお腹の中でざわめき始める。
同じ道を歩いてはずなのに、徐々に道が逸れていくような……
ウェイブを見て、そんな感覚を得ていた。
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