第30話 訓練開始
リオラが剣を振り、エッジが弓を師匠から教わっている。
僕とウェイブとアルバートは家の前で魔術の訓練をしていた。
体内にある魔力、【マナ】を操作して、手の中に納まる程度の球体を作る。
訓練と言っても、ただそれを維持するだけなのだけれど。
「ああ……上手くいかねー。女の心なら簡単に射抜く自身があるんだけどな」
「おいおい。いきなりどうしたんだ」
「いや、だって練習してもあんまり上手くなる様子ないし。これってやるだけ無駄じゃないの? どうせ俺たち、奴隷だし」
エッジが卑屈になり、矢を放つことなく弓を引いて遊び出した。
それを聞いたリオラとアルバートも訓練の手を止める。
確かに僕たちの成長は遅い。
その中でも僕は一番遅いと言えるだろう。
だって皆はそれなりの適性があるはずだから。
だからアドは彼らにそうしとろアドバイスをくれたのだ。
ウェイブはこの中では器用に色んなことをこなす、万能型。
僕はその下位互換と言ったところだろう。
そんな事実を再確認すると悲しくなるだけなので考えたくもないのだけれど。
だけど僕には【ジョブ】がある分、ウェイブと変わらないぐらいの成長率を誇っていた。
しかし、そんな僕らも貴族からすれば大したことないにも程があるレベルだと思う。
でも僕とウェイブは諦めない。
ゆっくりでも成長することを知っているからだ。
「お前らは下ばかり見て育ってきたからな」
「下ばかりって……どういう意味さ?」
師匠の言葉にエッジが聞き返す。
「そのままの意味だ。貴族や平民に虐げられ、自分たちは何もできないと俯いてばかり。でもそれは違うぞ。お前たちには可能性がある」
「可能性って……オレたちが強くなる可能性があるの?」
「強くなりたいから俺に師事を受けてんだろ?」
「まぁ、そうだけどさ……」
師匠はリオラたちに頷く。
「才能が無いなんて気にするな。才能以上に大事なこと、それはお前たちの中に眠る可能性だ。それを信じて、これからは上を向け! 困難な道は続くだろうが、きっとお前たちの道は開かれる。自分を信じろ。自分を信じる者にのみ、道は開かれるんだからな!」
「自分を信じるか……オレたち、自分のこと信じていいのかな?」
「お前以上にお前を信じてられる奴はいないんだぞ。俺も信じててやるから、お前も自分を信じてみろ」
「師匠……分かったよ!」
リオラは師匠の言葉に目を輝かせていた。
それはリオラだけではない。
エッジもアルバートも、リオラと同じように瞳に輝きを宿られていた。
そこから皆の集中力はすさまじいものであった。
人が変わったように訓練をする三人。
僕とウェイブは皆の様子を見ながら、同じく訓練を続ける。
「俺は風でアルバートは火……で、レインはなんで無属性なんだ?」
「さあ……? 僕は無属性を習得した方がいいってアドが言うんだよ」
「アドが言うなら仕方ないか。師匠ぐらい正しいことを言うからな」
「もしかしたら、師匠以上かも知れないけどね」
魔術には火、水、風、土の四属性があり、ウェイブとアルバートはその内の火と風をそれぞれ習得しようとしていた。
だが僕はその四属性に該当しない魔術、『無』の魔術を習得することになったのだ。
普通、無属性を選択する者などいない。
だって四属性ほど汎用性も無ければ威力もない、ただ存在するだけの魔術。
『無能』の『無』なんて揶揄されるような物だ。
好き好んで習得するような者はいないのだけれど……何故かアドは僕に無属性を習得するように指示してきた。
アドの言うことに間違いは無いのだろうけど……これ以上無能呼ばわりされるの勘弁していただきたい。
ただでさえ才能オールFなのに……
考えると悲しくなるから止めておこう。
とりあえずはアドの指示に従う。
彼女は僕に間違いを教えたりはしないはずだから。
「だけど、結構疲れるね、これ」
僕ら三人は手の中にある魔力の球体を浮かせながら会話をする。
「これで基本中の基本なんだろ? こんなところで躓くなんて、俺らは……って、ダメだ。自分を信じないと」
アルバートは火を操りながら頭をブンブン振るう。
自分を信じると決めたすぐ後なのに、卑屈なことを言ってしまった自分を頭の中から追い出そうとしたのだろう。
だがその時、アルバートは手の中にある火のコントロールを失ってしまった。
「「「あ」」」
僕たちの足元に落ちる炎。
炎は僕たちの靴を焦がし、消えることなくそこに存在した。
「あつつつつ! 熱い熱い!」
火が点いた瞬間は硬直していたのだが、熱を感じ始めた瞬間に僕たちは一斉に飛び上がる。
「ど、どどど、どうしたらいいレイン!? これどうしたらいい!?」
「ど、どうするって……これならどうだ!?」
僕とウェイブは同じタイミングで手の中にある魔力を火に当て、消化することに成功する。
大きくため息をついて安堵する僕らであったが……リオラとエッジが腹を抱えて僕らを見ていた。
「焦り過ぎだよ、アルバート」
「戸惑うアルバートも珍しいよな! あはははは!」
「わ、笑うなエッジ! お前だってミスはするだろ!」
喧嘩のような、じゃれあっているだけのような。
辛くもあり楽しくもある訓練は日々続いていく。
先に進めるように。
自分を信じて、道を切り開くために。
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