第5話 アドバイザー

「ちょっと疲れてるのかな……それとも、ヨワキムたちの暴力でおかしくなったのかな」


 僕は頭をトントンと叩きながらウェイブに言う。


「なんだ、ヨワキムにやられたのかよ。いずれあいつには借りを返したいな」


「本当だ」


「よし……お前はもう少し休んでろよ。俺、家の手伝いしてくるからさ」


「ああ」


 ウェイブは壁に備えれている階段を駆け下り、奴隷地域の方へと帰っていく。

 

 しかしさっきの声はなんだったんだろう。

 【ユニークスキル】とか言っていたけれど……聞き間違いだよな?


 この世界は能力至上主義が基本であり全て。

 【ユニークスキル】なんてものは、奴隷と認定された者が手に入れられるものではない。

 と言われている。


 平民の上位か、貴族が実力を磨き続けて手に入れられる代物。 

 それが【ユニークスキル】。


 まだ何も成し遂げていない僕が、努力を始めていない僕が手に入れられるわけがない。

 そもそも【ユニークスキル】に覚醒すれば、平民は貴族の仲間入りをさせてもらえるなんて聞いたことがある。

 実力が全ての世界で新たな力を得るということは、そういうことなんだ。

 力があればそれだけで人々に認められるのである。


 だがしかし、もし僕が実際に【ユニークスキル】に覚醒したとしたらどうなろうのだろうか……?

 これまで奴隷が覚醒した例など、一つとして無かったのだから。

 僕は平民の仲間入りをするのだろうか、はたまた、貴族になるのか……?


 まぁだけど覚醒したなんて幻聴だろうし、関係ないか。


 僕は大笑いし、その場に寝そべって空で気持ちよさそうに流れる雲を見上げる。


「幻聴よ幻聴よ。僕が何故覚醒したのか教えておくれー」


 もちろん、それは冗談のつもりであった。

 あれが幻聴であったのを確認するためか、はたまた何か淡い気持ちを抱いていたのか。

 自分でもよく分からないが、そんなことを口走った。


『あなたの『覚悟』がユニークスキルを覚醒させました』


「うええっ!?」


 ガバッと起き上がり、周囲を見渡す。

 だが誰もいない。

 誰の姿もない。


 声は僕の脳内に直接語りかけているようだった。

 そんなことは分かっている。

 だが、幻聴が幻聴で無かったことに僕は大量の汗をかいていた。


「え、えっと……あなたは誰でしょうか?」


『私は【アドバイザー】。あなたの【ユニークスキル】です」


「ア、【アドバイザー】……? 良く分からないのだけれど、それはどういった【ユニークスキル】なのですか?」


『あなたの人生の手助けをするためにアドバイスをするスキルです』


「僕の人生の手助け……?」


『はい』


 彼女とは会話が成立している。

 どうやら幻聴でないのは確定のようだ。


 しかし手助けって……アドバイスをくれるだけなんて能力、役に立つか?

 いや、無いよりはマシなのだろうけれど……役に立つ?


 覚醒した【ユニークスキル】に感動を覚えつつも、少しガッカリする僕。

 どうせなら、もっと派手なスキルが良かったなというのが本音である。

 

 アドバイスをもらったところで、何がどうなるって言うんだ?

 

「なら僕が強くなれる方法を教えてくれ。僕は才能という言葉を超えて、強くなりたいんだ」


 皮肉を交えて、僕はそんなことを【アドバイザー】に訊ねてみる。

 そんなアドバイス、くれるはずもないのに。

 アドバイスぐらいで人生が変わったら誰も苦労しないよ。


『では、ここより西に向かって下さい』


「に、西って……盗賊の住処がある場所じゃないか」


 盗賊の住処……

 奴隷の中には反旗を翻し、徒党を組んで世の中に対立する組織がある。

 それは貴族や平民を襲い、小金を稼ぐ悪党の集団、盗賊だ。

 

 結局人から金品を巻き上げることぐらいしかできないんだよな。

 それぐらいしかできることはない。


 僕らはそんなことを絶対にしたくない。

 だってそれは人の道に外れた行為だから。


 しかしそんな盗賊の住処の方に向かえって……まぁ奴隷だから多めに見てもらえるのだろうけれど、それでもあまり近づきたい場所ではない。


「……うん。止めておこう」


『強くなりたのではないのですか?』


「強くなりたいさ。でも、危険な場所にわざわざ出向く必要もないでしょ。道中モンスターもいるだろうし」


 この世界にはモンスターが存在する。

 人を無差別に襲う凶悪な存在。

 この辺りにはありがたいことに大したモンスターはうろついていはいないが……

 

 それでも子供の手には余る相手であろう。

 それも僕の能力値はFで……

 貴族の子供ならモンスターを倒せるかも知れないけれど、奴隷の僕じゃ話にならない。


 そんな危険ばかりの町の外。

 出て行けるわけがないじゃないか。


「どう考えても不可能だ。外に出たら僕じゃ対処できない」


『自分の可能性を信じるのではなかったのですか?』


「うっ……」


 確かにそうだ。

 僕は自分の可能性を信じようと思った。

 そう決断したから、【アドバイザー】も覚醒したと言っているし……


 これまでと同じように生活していたら、これまでと何も変わらない。

 なら、飛び込むしかないか……


 恐怖に飛び込み、可能性をつかみ取るしかない。


「……こ、これで何も無かったら恨むからな!」


『では問題ありません。きっとあなたは変わるはずですから』


「…………」

 

 疑い半分、そして希望半分。

 僕は複雑な心境の中、町の西に向かい始めるのであった。

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