第5話 英雄騎士様がやって来た 3
ノクサス様のお邸は一際大きかった。
大きな門に、広がる緑の芝生に美しく整えられた庭園。
噴水に、ガゼボまで見える。
邸は大豪邸で、玄関も圧倒されるほどのものだ。馬車の窓に手を当てて目が輝いてしまう。
「ノクサス様……すごいお邸ですね」
「戦の報奨らしい」
らしい……って、ノクサス様がもらったのでは?
この人は、本当にノクサス様なのだろうかと、不安になる。
「ダリア、手を……」
「はい」
馬車から降りるのに、手を差し出されて添えると、ノクサス様は少し嬉しそうだった。
そして、玄関の扉が開く。
執事が、主であるノクサス様を迎えたのだ。
執事もまだ若い。20歳代に見える。
「ノクサス様、お帰りなさいませ」
「今帰った」
威厳があるように、主らしく邸に入るノクサス様に続いて私も歩いた。
「アーベル。青の間に行く」
「かしこまりました」
どこに連れて行かれるのだろうと、ノクサス様を見上げると、視線に気づいたのか、ノクサスが振り向いてくれた。
「ダリア、青の間なら人は近づかない。そちらでゆっくりしよう」
「はい……」
なんだろうか……ノクサス様は優しい。
邸の中も豪華絢爛で、立派な調度品に目を奪われる。
絶対にマレット伯爵様よりも、立派な邸だ。
青い絨毯の敷かれた階段を上がると、三階の一番奥の部屋に案内された。
ここは、ノクサス様の私室で休憩などに使っている部屋らしい。
部屋に入るなり、フェルさんは扉を閉めた。
そして、ノクサス様は私の方を向く。
「ダリア、会えて良かった……」
「は、はい……」
これはなんでしょう? と、後ろにいるフェルさんを向くと、微笑ましく頷かれる。
絶対に私の心の声は届いてない。
「ノクサス様、座りましょう。ダリア様にお話を……」
「あぁ、そうだな」
「ダリア様、ご安心ください。この青の間は誰も近寄りませんから」
「は、はぁ……」
何の安心かは、私にはわからない。
人に聞かれたくない話とは一体なんなのだろうか?
お世話係を頼みに来たはずですよね??
そして、向かい合って座る。
「実は……」
フェルさんはそう始めた。
私は、緊張しながら、話に耳を傾けた。
その時、ノックの音がした。
ドアが開くと、執事の方がお茶を持って来たのだ。
「どうぞ。ダリア様」
「ありがとうございます」
香りの良い紅茶だった。
紅茶には、薔薇の花びらが2つ浮かんでおりお洒落だ。
ちょっと可愛い。
「アーベルもそのままいてください」
「かしこまりました」
フェルさんが、アーベルさんも引き留めると、ノクサス様の後ろに立った。
そして、またフェルさんが話を始めた。
「ダリア様、実は……」
「はい」
「ノクサス様のお世話をお願いしたいのです」
「あの……お世話のお仕事にはあがろうと思っておりますが……」
何か違和感がある。
ノクサス様がこちらを見つめているからかもしれない。
その後ろにいるフェルさんとアーベルさんは顔を見合わした。
「本当ですか!? あぁ! 本当に良かった! ダリア様、感謝いたします!」
フェルさんもアーベルさんもほっとしたように喜んだ。
「あの、ノクサス様はどうして私を?」
「……実はだな。……ないのだ」
「何をですか?」
「記憶がないのだ……」
衝撃の発言だった。
それが、私と一体なにが関係あるのだろうか。
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