第10話 藤原 蓮 SIDE

僕の名前は藤原 蓮。

正直に言って自分の顔が嫌いだ。

何故ならこの顔が切っ掛けでイジメられる様になったからだ。


小学、中学と学年が上がるにつれて僕に対するイジメは酷くなっていった。


始めは女みたいな顔だなってバカにされ、からかわれる程度だった。

しかし、クラスの女子と仲良くしてるのが気にくわないのか、徐々に男子からは無視をされ、気付けばカースト上位グループのパシリになっていた。


僕の居場所は何処にもなく、助けてくれる人も話しかけてくれる女の子も誰もいなくなった。


そんな僕は心を閉ざし、言われるがままの毎日。

こんな生活が嫌で、僕はすこし遠い高校を受験することにした。


僕は勉強が出来る方だったので、さらに猛勉強して偏差値60以上と言われる明星高校に受かった。


親も偏差値が高い高校だったので、何も反対はされなかった。


中学を卒業するころには、嫌いな自分の顔を隠すように髪は自然と長くなり、傍から見ると陰キャに見えるだろう。


そんなこともあり、高校入学してからも友達の一人も出来ない。


唯一の救いはイジメには合っていないことだ。

偏差値の高い高校だからか、暴力を振るわれることやパシリにされることはなかった。僕はそれだけでもこの高校に来たかいがあったと思う。


そして、一学期終了間際に事件は起こった。


学校から青蘭駅に向かう途中に不良に絡まれたのだ。

人に見られないように細い路地に連れていかれお金を要求された。


この日は新作のゲームと本を買うために財布の中には多めにお金を入れていた。


勇気を振り絞って断ったとたんに不良が近くのごみ箱を蹴り上げた。


僕は怖くて身がすくみ、恐る恐る財布をだそうとした時に声が聞こえた。


「お巡りさん、こっちです早く来て下さい」


その声を聞いた不良達は慌てて、


「チッ、お前らずらかるぞ」と行って走って逃げて行った。


僕はほっとして、財布をしまっていると一人の男の子が近づいて来て、僕の手をとって走りだした。


何がなんだか分からずに僕は一緒に走った。


しばらくして、立ち止まると彼は息を切らし、僕の顔を見て、

「あ~、ごめんごめん説明するね。お巡りさんを呼んだのは嘘なんだ。だから、不良共が戻ってきたら大変だからここまで逃げてきたってこと」


僕は納得した。彼の判断は正しく、そんな行動を咄嗟にできる彼が凄いと思い尊敬の眼差しでお礼を言った。

「あ、有り難うございます。おかげでお金をとられずにすみました。でも、何故助けてくれたのですか?」


彼の顔をマジマジ見ながら質問したら予想外の返答が返ってきた。


「もしかして、陰キャに助けられるとは思ってもみなかったって顔してるね」


「い、いえ、そんな…」


僕が咄嗟に返答したら、彼からは以外な言葉が飛んできた。


「理由が知りたいかい?別に気にならないならお礼の言葉も聞いたことだし帰るけど」


僕は彼のことが知りたくて、すぐさまに答えた。

「し、知りたいです」


「そうか、君の名前は?」


「藤原 蓮です」


「そうか、いい名前だね。俺の名前は加賀 卓斗。じゃあ駅前のカフェにでも行こうか…、まあ、陰キャな容姿の二人がカフェに行くのも変だがな」


そう言いながら彼は笑いながらカフェに向かって歩きだした。

僕はその後ろを不思議な気分でついていった。


カフェに入ると女性の店員は、僕達を外から見えない奥の席へと案内した。


その店員に彼がコーヒーを頼むと、

「なぁ~蓮、俺達がこの席に案内された理由は気付いてるか?」


蓮と言われビックリしたが、言われた内容に僕はハッと気づき、

「僕達の容姿のせいですか?」


「まあ、そうだな。それに気づいて蓮は何を思う?」


「ムカつきます。けど…。」


「けど?」


「今考えればいつものことなので、当然なのかなって思って。加賀さんはどう思うのですか?」


「何も。店員さんは店の売上を考えた結果当然の行動をしたまでだ。」


彼の言ってることは正しいのかもしれない、でも僕は我慢できずに、

「じゃあ、顔の悪い奴には当然って言うことですか?」


「世の中不平等だよな。でもな、お前見たいに頑張ってない奴が言うセリフでもないと思うんだが」


僕が頑張ってない?何も知らないでと怒りがこみ上げ、僕の声にはさらに感情がこもっていった。

「貴方が僕の何を知っているんですか?」


「何も?ただ、蓮は今まで容姿に気をつかったことはあるのか?」


いきなり容姿について聞かれて僕は唖然としながらも考えた。この顔のせいでイジメられ、この顔が大嫌いだった…。そんなことを思い浮かべていると、確かに僕は気をつかったことはなかったかもと思い返事をした。


「そんなこと、…、な、ないかも」


「そうだろうな。そう言うのを宝の持ち腐れって気付いてるか?まあ、それはいいや、すこし俺の話を聞いてくれるか?」


「は、はい」


そして加賀君は中学の時に初恋の女性を亡くしたこと、そこから塞ぎ込んだこと、そんな自分に変わる切っ掛けをくれた小説家の先生のことなどをタンタンと話してくれた。


僕は、悲しくて悲しくて涙が止まらず、自然と言葉がでていた。

「グスン。ご、ごめんなさい。グスン」


「何故蓮が泣くんだ?それに謝られる理由もないし」


僕は何も知らないのに声を荒げたこと、さらには助けてもらったのにごめんなさいと泣きながら何度も謝った。それと同時に彼みたいに僕も変わりたいと思った。

「ぼ、僕でも変われると思いますか?」


彼はニヤリと微笑みながら、

「蓮次第かな。それに俺も今から頑張る予定だし、答えなんて誰にもわからねぇよ」

「そうですよね。でも、僕も加賀君と一緒に変わりたい」


彼は嬉しそうに、

「タクトでいいよ。今日から蓮は俺の友達だ、宜しくな」


僕の心の鼓動は早くなった。と、友達って言った?僕のことを友達って。

たった一つの言葉が嬉しくてしょうがない。間違いだったら嫌だから、ついつい確認してしまう。そして、僕も加賀君と一緒に変わろうと決意した。


「僕なんかがいいのかな?あ、いや、変わらないと…。う、うん。宜しくねタクト君」

この後も僕達はカフェの奥で笑いながら今後のことを話した。






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