第8話ノーラの妄想大爆発

 タルタルとのスキル検証を終えたアラン

 アランは、自分の宿へ戻り着替えると冒険者ギルドへと向かっていた。

 ギルドへの用事は主に2つ宿屋でシーツ等をダメにしてしまう分の交換費用の請求とそれからノーラとの約束である夕食を共にする為に

 そんなアランがギルドへと辿り着く


「ノーラすまんが来てくれ」


 その声にノーラが凄い勢いで走って来た。

 顔を真っ赤にさせながら…


「な、何かごようですか? アランさん」

「あぁこの請求書と手紙をギルマスに渡してくれないか?」

「えっとこれ何の請求書です? 」

「書かれてると思うが、今日取った宿屋のベッドとかシーツがダメになるからそれの交換費用の請求書だ、ところでノーラあとどのくらいで仕事終わるんだ? 今日食事の約束してただろ? だから来てみたんだが少し早かったか?」


「……」

 ノーラはぼんやりして返事をしない


「ノーラどうしたんだ? ぼーっとして」


 ノーラはそれどころではなかった…

 今日取った宿屋のベッドとかシーツがダメになるというワードがノーラの頭の中をぐるぐると回る。

 今日一緒に食事→宿屋へ行く→ベッドとかシーツがダメになるまで♡

(あぁアランさんなんて大胆なの? でもでもアランさんに大人にして貰えるなら、それもいいかも♡)


「おい大丈夫か? ノーラ顔真っ赤だぞ? フラフラしてどこか悪いんじゃないのか?」


「え? あぁ、だ、大丈夫です、今日の食事が楽しみで楽しみ過ぎでその事を考えちゃってました~えへへへへ♪ 仕事は30分くらいで終わりますよ」


「そ、そうか時間は30分後くらいか、とりあえず請求書の方は急ぎで回してくれると助かる」


「ひ、ひゃい! きょ、【今日取った宿屋】の請求書をギルドマスターにわた、わた、わたたしてきましゅ」


 ノーラはその場を離れるのだったが、傍から見てるアランは余りのノーラの浮かれっぷりを訝し気に見ていた。

 たかが一緒に食事をするくらいなのに何であんなに喜んでるのかが分からなかった。

 いくら食事が楽しみだからと言っても度を越えていたからだ。

 女性の考えはわからんな…とアランは思った。


 そう…アランは女性の考えが全く分かっていなかった。

 事は【今日取った宿屋のベッドとかシーツがダメになるから】に起因する。

 本来はノーラとは全く関係がない出来事のはずだが、食事の約束のタイミングの所為でノーラは壮絶な勘違いを起こし、結果エッチな妄想大爆発状態になっていた。

 それが先程のノーラが浮かれている状態なのだがアランは何故そういう事態になっているのか微塵も気付く事はなかった。


 少し後の事、浮かれたノーラはギルドマスターの部屋へ行き手紙と請求書をギルドマスターに渡した後、ギルドマスターが何か話をしていた…話をしていたのだが、あまりに浮かれていてギルドマスターが何を言ったかも碌に聞いていない状態だった。

 その内容とは、アランとタルタルで少女を保護し宿屋へといった経緯が話されていた。

 そしてノーラはこの話をきちんと聞かなかったのだ…

 こうして壮大な勘違をしたまま、ノーラはアランと食事に行く事になる。


「…というわけで請求書はこちらで処理する、ノーラ…話を聞いてたか?」


「…え? はい聞いてました」


 少しぼんやりした様子のノーラに不安を覚えるも、持ってきた請求書の件はそこまで重要な事ではない為ギルドマスターは気にも留める事はなかった。


「もう受付へ戻っていいぞ」

「…」

「もう受付へ戻っていいぞ」

「はいっ! 大人になってきます!」


(ノーラの奴は何を言っておるのじゃ?)


 そんな、おかしな状態のノーラが二階から降りてくると下では先輩受付嬢が待っていた。


「ノーラ少し早いけど今日はもう上がっていいわよ。アランさんと食事の約束あったでしょ?」 

 先輩受付嬢は、ノーラの耳元で囁く

「上手くやんなさいよ?」


 その言葉にノーラは先程思いを巡らしていたエッチな妄想を再び暴走させる事になる。

 そんな先輩の言葉に「大人になりますね」と呟くとノーラはふらふらと覚束ない歩みで帰り支度をしてからアランの元へと向かうのだった。

(大丈夫かしら? …あの子)


 ―冒険者ギルドの前―


「アランさんお待たせしました」

「そこまで待ってないぞ」


「アランさん今日は何処へ食べに行くんですか?」

「う~ん特に決まってないんだがノーラは何か食べたい物あるか?」


「そうですね…パスタが食べたいかも」

「それならいい場所があるからそこにしよう」


「何処へ連れてってくれるんです?」

「つくまでの秘密という事で」


 こうしてノーラはアランについていくのだった。

 その場所は請求書で見た宿屋だった。

 ノーラはまた顔が真っ赤になる。


「ここのパスタは旨いんだ、夕方以降はお酒の提供もあるしここでいいか? 」

「はいっ! ここが良いです! ここ以外ダメでしゅ!」

「おぃおぃ凄い乗り気だな…でも喜んでくれたならここを選んだ甲斐があるというもんだ」


「とりあえず店に入ろうか」

「は、はい…」


 店に入り席に着くとウェイターがメニューを差し出す


「俺はクリームパスタと白ワインは辛口のをお任せで」

「私はトマトパスタで酸味の弱い赤ワインをお任せでお願いします」


 こうして二人は食事と会話を楽しんだ。

 楽しい時は瞬く間に過ぎ、食事も終わりアランは会計を済ませに行く

 ノーラはこの後の事を想像していた。

 しかしこの後ノーラはアランの言葉を聞いて絶望する…


「ノーラ今日は一緒に食事に来てくれてありがとうな楽しかった。また一緒に食べに行こうな、今日はもう夜も遅いし、とりあえず家まで送ってくよ」


「…え?」


 喜んでいた表情から、みるみる絶望の顔へと変わっていくノーラを見てアランは慌てふためく


「あぁ…まだ何処かの店へ行くか?」

「…」


 どんどんノーラが悲しそうな顔をしていく


「何処か悪くしたのか? 家まで送るぞ」

「…」


 ノーラの頭にはある事がよぎる

 宿屋への請求書は別の女の人では?…と

 そう思うとノーラは言わずにいられなかった。


「誰か好きな人がいるんですね!」


 アランは戸惑う、ノーラが急に怒り出したのも訳が分からなかった。


「え? 何のことだ? 好きな人っていってもお前くらいしか好きな奴はいないぞ?そもそもノーラお前とだから約束までして一緒に行ったんだからな」

「…え? え? 本当?アラン私の事?」

「何を勘違いしてたんだが…」


 少し落ち着いた様子のノーラの頭を撫でると、アランはノーラへと好きだと告げるとノーラもそれに応え二人は歩き出した。

 その後アランはノーラを家まで送り、ノーラは家の中へ招待し、二人はそのまま幸せな時間が流れ、そしてそのままベッドで一緒に夜を過ごした。



 形は違ったがノーラはアランと結ばれることが出来たのだった。

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