謎解きキッチンカー
西羽咲 花月
第1話
昔ながらの日本家屋に、大きな庭。
縁側から見る空は青く、大きな入道雲が浮かんでいる。
「おかあさ~んっ!」
立派な日本家屋の中に女の子の大きな声が響いた。
続いてドタドタと廊下を走る音。
素足で廊下を走ってキッチンへ続いている戸を行きおいよく開いたのでは川端香織。
この家の一人娘だった。
昨日から夏休みに入った香織はジーンズのショートパンツに、黄色いタンクトップ。
右手には赤いリボンのついた麦藁帽子を握り締めている。
「ちょっとなに? 宿題してたんじゃなかったの?」
昼ごはんの準備を進めていた香織の母親は騒々しさに目を丸くして振り向く。
香織の持っている麦藁帽子に目をとめて「出かけるの?」と、聞く。
「うん! そこの広間、今日キッチンカーが来てるんだって!」
香織はそう言いながら母親の横にたち、お皿に並んでいるカラアゲを一個つまんで口に入れた。
その熱さに目を白黒させ、そっと噛んでみると肉汁があふれ出した。
口の中がうまみで一杯になり、自然と笑顔になる。
「キッチンカーって。お昼はどうするの?」
「食べるよ。甘いものを食べに行きたいの!」
そう言ってその場で何度も飛び跳ねる。
そんな香織を見て母親は納得したような顔になり、エプロンのポケットから小銭射れを取り出した。
それを見た香織の目が輝く。
「なにを食べるのか知らないけど、これだけあったら十分でしょう?」
五百円玉を二枚、香織の手の平に乗せてくれる。
香織はそれを見てまた笑顔になった。
小さなお金の中でも、一番大きなお金だ。
小学校四年生の香織は、五百円玉二枚が一月のお小遣いより高額であるとすぐにわかった。
「こんなに沢山、いいの!?」
喜んだのもつかの間、こんな大金をもらっていいものか不安になり、そっと母親の顔を仰ぎ見た。
「キッチンカーってそんなに安いものじゃないでしょう? このくらい持っていかないと、何も食べられないわよ?」
そう言われて瞬間、自分がとんでもない場所へ行こうとしているのではないかと胸が高鳴った。
同時に不安が遅いかかってくる。
さっき自分の部屋で偶然見たチラシ。
そこには近所の広場でキッチンカーが集まってマルシェをすると書いてあった。
おいしそうなクレープやイチゴ飴、スムージーのキッチンカーの写真が沢山載っていたのだ。
いつも友達と遊んでいる広間が、今日はきっと様変わりしている。
それを見て見たいと思ったのだ。
「じゃあ、えっと……」
五百円玉二枚を握り締めてモジモジと床を見つめる。
このまま行ってしまっていいのかどうか、途端にわからなくなった。
だって、千円もくれるとは思っていなかったから。
「はい、行ってらっしゃい。そうだ。今日のキッチンカーのこと、夏休みの絵日記に書けるわね?」
母親にそう言われて香織は満面の笑みで顔を上げた。
一人で高価なものを買いに行くという行為が、宿題に繋がった。
これなら気兼ねなく広間へ行くことができる。
香織はさっきまでの元気を取り戻して、バタバタと足音を鳴らして玄関へと走った。
「ちゃんと帽子をかぶっていくのよ?」
「はぁい!」
キッチンから聞こえてきた母親の声に靴を履きながら返事をし、そのままの勢いで玄関を飛び出した。
太陽はまだ昇りきっていないけれど、日差しが眩しくて目を細める。
走りながら起用に麦わら帽子をかぶってアゴ紐をかけた。
広間は家を出て南に五分走ったところ。
徒歩なら十分。
それならもちろん、走った方が早い!
香織は今にも空に飛んでしまいそうな勢いで、足を前へと動かしたのだった。
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