霧の湖へ行きましょう1
会場に入った途端、双子は息を飲んだ。先程までの華やかな舞踏会の雰囲気は一変して、あちこちのテーブルがひっくり返り、床には食器や果物や花びらが散乱していた。しかし双子が息を飲んだのはそれが理由ではない。彼らの目に飛び込んできたもの――それは、黒髪の少女が一つ目紳士に首を捕らわれ、宙吊りにされていた姿だった。
「リタさん!」
「大丈夫だべか⁉」
思わず反射的に叫ぶ双子に、リタは苦しげに視線を向けることしかできない。
「あら、助っ人がいたのね」
代わりに答えたのは妖艶な女の声だった。その言葉に、双子が視線を向けると、あの女魔術師が白い一つ目紳士の背後で、意地悪な笑みを浮かべていた。
「あ……なっ! お前らは、あん時の!」
女魔術師の言葉に、勢いよく立ち上がったのは二階席にいる金髪の少年フェイカーだ。こちらは大臣のイオクロマの席の隣で、この様子をハラハラと見ていた様子だ。大臣はといえば、椅子に座ったまま食事も取らずに、青ざめた様子でテーブルクロスを握りしめている。
「あら、フェイカー。お知り合いかしら?」
フェイカーの反応に気がついて、意外そうに顔を向ける女魔術師に、金髪の少年はぶんぶんと頷いた。
「ああ、この俺様の邪魔をしてくるガキさ! さてはこの女を送り込んで、このスキに星魔球を奪いに来たんだな⁉」
しかしそんな少年の声は双子には聞こえなかった。
「リタさん!」
「今助けるだ!」
言うが早いが双子は一つ目紳士に向かって魔法の構えをとっていた。
「おっと、お止めなさい。この男が傷ついてもいいのかしら?」
双子に向き直り女魔術師が声を張り上げると、双子は思わずその動きを止めた。リタを助けたいが敵の言う通り、攻撃しては肝心の仲間であるクーフを傷つける。双子は判断に迷った。
そんな双子の様子を見て、満足そうに女魔術師が微笑んだ。
「フフ、やっぱり貴方たちもこの男のことを知っているのね……。まあ、このお嬢ちゃんのお仲間なら、当然でしょうけど」
「アニマ、そのガキ二人を捉えろ! 俺様が直々にぶっ潰してやる!」
勢いよく椅子を倒して階段を降りて近づいてくる金髪の少年に、双子はチラと目線だけで会話をした。
今捕まるわけにも行かないが、このままリタを放っておくこともできない。どうしようか思案していたのは一瞬だったが――
『……
その一瞬だった。リタが声を絞り出すように呪文を唱え、自分の首を掴んでいた紳士の腕を両手で引き剥がしたのだ。紳士の腕から逃れた少女は、そのまま床に崩れ落ちるように着地する。見れば紳士の手首はわずかに凍って見え、少女の手のひらは青白い光が放たれていた。氷魔法を発動したのだ。
「駄目、私はいいから、二人とも逃げて! そして……」
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