霧の湖へ行きましょう2
叫ぶように二人に呼びかけた少女は、そこまで言って声を出さずに唇を動かした。その唇の動きは、方向的に双子にしか見ることができなかった。
「(連れて行って、クーフさんを……!)」
彼女の声のない呼びかけに、双子はハッとしたように顔を見合わせた。
「そうだべ、あそこに行かなきゃいけね―だ……!」
そう、今回の目的は王女を助け出すこと、そしてこの一つ目紳士――リタの仲間であるクーフ――を、霧の湖に連れ出すことだ。シンの言葉に、冷や汗を浮かべたままシンジが小さく頷く。
「リタさんは心配だけど……今は、こっちが先だね……!」
そして何を思ったのか、急に青髪の少年は大きな声で叫んだ。
「くそー、今は仕方ない、あの人の所に逃げよう!」
と、叫ぶやいなや、シンの手を引いて勢いよく回れ後ろして駆け出したのだ。
「なっ、待て、てめーら! アニマ!」
「わかってるわよ。クーフ、あの二人を捕まえてきて頂戴」
双子が駆け出した直後、背後ではそんな声が聞こえた。
しかし、現状を掴みきれていないのは赤髪のシンだ。
「ん、な、むん? 一体どうして急にあんなこと言って逃げ出すだ?」
走りながらも隣のシンジに首を傾げる。そんな兄にぺろりと舌を出して、シンジも走りながら答える。
「わざとだよ。ああやって大げさに逃げ出しとけば、嫌でもアイツら追いかけてくるでしょ。それに」
と、シンジは背後に視線を向けた。案の定、あの一つ目紳士の姿が今まさにこちらに向かってくる様子が見えた。
「やっぱりね! 一つ目紳士……おっと、クーフさんを仕向けてくると思ったよ」
「どうしてだべ?」
「リタさんの仲間ってわかった時点で、僕たちが攻撃できないって、あの女魔術師もわかっていたでしょ? であれば、クーフさんを向かわせた方が、捕まえやすいって踏んだんだよ」
「そういうことだっただべか!」
ここに来てようやく腑に落ちたシンがぽんと手を打つが、正直余裕はない。
「わっ、やっぱり速いな、あの人!」
「オラ飛ぶだべ! 『飛翔』!」
子どもと大人の身長差、足の長さも体力も明らかに相手が上手だ。魔法で飛んだ方が、シンは明らかに速い。
「追いつかれない様に邪魔しながら行くべさ!」
シンの提案にシンジは一瞬困った表情を浮かべた。
「邪魔って……どうする、攻撃するの⁉」
判断に迷ったシンジが叫ぶように問う。
握りしめたシンの手が汗ばんでいた。正直反撃を一切せずに逃げ切れるほどの相手ではないだろう。対峙したのは一度だったが、その動きからもあの一つ目紳士は相当腕が立つことは察していた。反撃しなければ、自分たちが逃げることも難しいだろう。しかし――相手は、助けなくてはならない人物なのだ。あのリタにとって、大切な人なのだから――
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