舞踏会へ行きましょう6
「オラだべか? オラ、シ……」
と言いかけて、シンジがシンに体当りするようにして口を挟んだ。
「こっちはえーっと、僕の親友のシ……シラスです! で、僕は……カ……カンタです!」
と即座に名乗った後、兄の首根っこを掴んで後ろを向かせると、不満を口にするシンに素早く耳うちした。
「な、なんだべシラスって……オラ食べ物じゃ……」
「アイツに名乗ったら、フェイカーにバレるかも知れないでしょ! 偽名使ってよ!」
「おっと、そういうことだべか……。でもシラスって……」
「いいから! ……あっと、すいません、きれいなお姉さん」
そう言ってシンジが作り笑いを浮かべて振り返ると、女魔術師は少々訝しげな表情を浮かべてはいたものの、シンジも舐めるように見て、妖艶な笑みを浮かべた。
「あら……お友達もなかなか素敵な方ね。お名前、えーっと……?」
「カンタです。すいません、あなたの従者だったんですね、この一つ目の人」
と、シンジがさり気なく紳士に手を伸ばすが、やはり一つ目紳士は腕を掴まれるとそれを薙ぎ払い、干渉を拒んでいた。その様子に女魔術師は目を細めて微笑んだ。
「ウフフ……。ワタクシ以外の命令を聞かない従順なシモベなの。だからワタクシ以外の人が触れると、こうやって拒絶するのよ。優秀でしょう?」
その言葉に双子はチラと視線を交わしていた。無言ではいたが、この状態では彼を誘導するのは難しいことを、二人は悟ったのだ。
「それにしても、お二人は踊りませんの? よろしかったら、ワタクシ、お相手しますわよ?」
そう言って女魔術師はシンの腕を取り、体を寄せて更に顔を寄せる。色っぽい動作に、寧ろ周りの男性客たちが喉をゴクリと鳴らすのだが――
「む、そんなくっつくと邪魔だべさ」
と、デリカシーゼロの中身少年の青年は、容赦なくその腕を払う。それにはさすがの女魔術師もあっけにとられ、当然周りの男性たちまでもがあっけにとられていた。
「しかたねーだべな……料理でも食うだべさ」
シンは頭をかきながら、またあのテーブルに戻ろうとする。その様子に同じくあっけにとられていたシンジだったが、兄の様子に気がついて女魔術師に頭を下げる。
「あ、えっと、すいません、ダンスは僕たち得意じゃないので……さよならっ」
と、双子は女魔術師から逃れるようにお食事テーブルに向かっていったのだった。
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