舞踏会へ行きましょう5

「上に居られたままだと誘導が難しいね……」

 双子はコソコソとそんなやり取りをする。彼らの目的の一つがあの白い紳士を霧の湖に誘導することだ。近くにフェイカーと女魔術師が居るのでは、その行動が難しい。それに頭を悩ませていると、双子の背後でリタが口を挟んだ。

「今はまだあそこに居るけど……きっと舞踏会が始まれば多少動き出すはずよ。焦らず様子を見ましょう」

 彼女の言葉に、双子は頷いた。

 しかし双子と少女の予想以上に、チャンスはすんなりやってきた。舞踏会が始まった途端、あの女魔術師は白い紳士を従えて、一階の会場に降りてきていたからだ。見れば女魔術師は、会場の男たちに声をかけ、気に入った男性と踊っているようだった。どうにも白い紳士は踊ることはできないと見え、不気味にうつむいて女魔術師をまるで見守るようにただ近くに立っているだけだった。

「……あの女魔術師が踊っている隙に、クーフさん引っ張っていけないかな?」

「近づいてみるだべか」

 双子はリタをその場に留めたまま、女魔術師が踊っている隙に、そっとテーブルから離れ白い紳士の近くに歩み寄った。白い紳士はうつむくように立って腕をだらんとしていた。その様子はまるで吊るされた操り人形のようだ。双子は恐る恐る紳士に近づき、その腕を引っ張ってみようとするが――

 不意に一つ目紳士が双子の腕を払うように両腕を薙ぎ払い、一回転した。その攻撃に、即座にシンはしゃがみ込み、シンジは距離を取って事なきを得る。急なことで、周りの人は何が起こったのかわからずに目を点にしていた。

「……ダメそうだべな」

「声かけても通じなさそうだしなぁ……」

 そんなやり取りを双子がコソコソしていると――

「あらぁ、ワタクシの従者が気になりまして?」

 双子に声をかけてくるものが居た。振り向けば、あの赤いドレスを着た妖艶な女が双子に微笑んでいた。女魔術師だ。双子は思わずギクリとした。

「あ、その……一つ目してて、変な人だなと思って」

 咄嗟にシンジがそう説明すると、シンもしゃがんだ体制から立ち上がって答える。

「こんな人そうそういないだべ、き、気になっただべよ」

「あら、あなたみたいに訛って話す人もそうそういないわよ。でも……」

と、女魔術師は立ち上がったシンを足元から顔まで流し目で見て、ふっと口元を歪めた。

「なかなか素敵な人ね。お名前は?」

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