お城へ行きましょう7

 すると、女の子は突然顔をぱあっと輝かせて口を開いた。

「おみじゅ!」

「お、おみじゅ……? なんだべ、おみじゅ……あ、水だべか」

 女の子の発言の意味に気がついて、シンが尋ねると、女の子はこくんと頷いて缶に手を伸ばした。

「おみじゅ、おみじゅー!」

「よく気がついたね。中身見えないのに」

「もしかして、のどが渇いているんじゃないかしら、かわいそうに……」

 そうヨウサが同情すると、シンが足元の缶をひょいと持ち上げた。見れば階段を転がるうちに側面はベコベコにへこみ、缶の栓のコルクも歪んでしまっていた。それを見て、クスリと笑ったのはシンジだ。

「こんな状態じゃ、さすがに献上品としては出せないもんね」

「この水でいいならやるだべよ。ほれ、こっちに近づいて口開けるだ」

 シンがそう女の子に言うと、女の子は目をキラキラさせて言うとおりにした。あーんと大口を開けて女の子が待っている姿に、ヨウサが思わずキュンとしている。

「か、かわいい〜……! 連れて帰りたい‼」

 その間にも、シンは缶の栓を抜き、女の子より少し高い位置に缶を持ち上げ、斜めにした。

 缶からキラキラとこぼれ落ちる水は、まるで水色の宝石のよう。その宝石を小さな口で一生懸命受け止めると、女の子はコクコクと音を立てて水を飲み込んだ。その様子を確認して、シンが水を落とすのを止めると……

「もっと!もっと〜‼」

 女の子は泣きそうな顔をして、足をバタバタ踏み鳴らした。

「わわわ、わかっただべ、泣いちゃ駄目だべさ!」

 慌ててシンが缶を斜めにすると、また女の子は嬉しそうに大きく口を開けてそれを飲みだした。

 そんなやりとりをしていると、ようやくガイが三人に追いついた。

「はあ〜……こんなところまで缶が来てたなんて〜……ってうわー! 缶の水、勝手に人に上げてる〜!」

「しょうがないじゃない! こんな小さな女の子が、喉乾いてお水欲しいっていうんだもの、ほっとけないでしょ!」

 ヨウサがそうお怒り気味に言う隣で、シンジはシンと女の子の様子を見ながら感心していた。

「それにしても凄い飲みっぷり……。まだまだ飲むよ……」

 女の子のお水頂戴コールは止むことなく、シンは延々と水を上げ続けた。そして女の子は、なんとバケツ一杯はあるであろう缶の水を、たった一人で飲みきってしまったのだった。

「す、すげーだべな……。もう缶が空っぽだべ……!」

「この小さな体の何処に水が入るんだろう……?」

 驚異的な飲みっぷりに双子は二の句が出ずにいるが、当の本人は鉄格子越しに両足を開いて座り込み、満足そうに口を拭っている。

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