それから異世界で~何も倒せぬ最強の男~
wen
第一章
第1話 プロローグ
人には向き不向きってものがあると思う。
でも「これは自分には向いてる」って言葉はあんまり聞かないが
逆に「これ自分には向いてないわ」というのは聞いた記憶が確かにある。
「あいつには向いてないわ」もあるな。
「僕は勉強なんかできないんだ!」と言い張ってた知人がいてできないんじゃなくてやりたくないだけだろうと言ってあげたら「勉強向いてない」とかなんとか言い始めた。
勉強全般向いてないらしい。そんなやついるかな?
いやぁ君のような健常な肉体をもった人間は通常そういう風に体ができてないことはないんですよ、と、返してもよかったがその時は相手にするのが面倒になってやめた。
やればできる、やればできるんですよ人間。
たぶん大抵の、金とか権力とか法が関係してこない部分であれば。
できないこと結構ある気もするがまあそれはさておき。
とにかく今、俺の目の前で狼みたいな生物を手のひらから黒い球を飛ばしたり、地面から黒い腕をはやして振り回したり、手にもった黒い槍をブン投げたりして虐待、いや、頑張って倒してる彼女はやればできる子だったんだな。
「この辺りの魔物はもういないみたいですね」
ひとしきり動物虐待を終えた後こちらに戻ってきた彼女はそう言った。
俺は動物虐待向いてないな。
彼女は向いてるってことかな。
「どうしましょうか?もっと森の奥に行ってみます?」
肩の前に垂れた金髪をサラっと後ろに手で流して首を少し傾げて尋ねる姿はふうまったく可愛いじゃないかあ。
この前プレゼントしたミニスカの魔導師用装備も正解だな。
魔法使うときなんであんなピラピラすんだろ気になって戦闘どころじゃないよ。
そのために買ったんだが。
「あの、ヴォルガーさん…?」
「俺のことはヴォルでいいって、本当、かなり切実にお願い」
「は、はい、そうでした、すみません」
名前を呼ばれたので即座に反応して返しておいた。
「あーそれで、アイシャ、今日はあんまり時間がないんだ」
この後は大事な用事があるからな。
森の奥に行ってる場合ではない。
「そうなんですか…」
うっ、あからさまにガッカリ感を出されている。
おかしいな昨日もその前も、というか今週ずっと狩りに付き合ったのに。
じゃあとアイシャが言いかけたので話題を変えなければ。
わかってる、じゃあの後は明日って続くに決まってる。
明日は困る絶対ダメだ。
「アイシャは闇魔法がかなり上手くなったねーいやーもうこの辺だと支援魔法なしでも楽勝でいけそうな」
「えっ、それは、その、ヴォル…さんがいてくれるから私も安心して戦えて、だから一人じゃまだ不安で」
そうかなーさっきすごい笑顔で暴力の嵐だったけどなー。
無傷だから回復魔法もいらないしなー。
「あの地面から腕生えるやつ、確か<イロウション>?いつのまに覚えたの?今日がはじめて使うよね?」
「あ、はい!あれなら広範囲の敵に攻撃できると思って覚えてみたんです!これでもっとたくさん殺せますよ!」
アイシャがさっき狼たちを薙ぎ払ってたのはやっぱ闇魔法の<イロウション>か。
結構グロい魔法だな。
しかし、たくさん殺せるって満面の笑顔で言うことかな。
見た目可愛い女の子だから違和感すげぇ。
「あっ、そうだ明日は遺跡のほうに行ってみませんか?他にも新しい魔法を覚えたので二人でも平気だと思うんです!」
しまった、明日とか言い始めた。これはまずい。
やんわりとお断りして諦めてもらわなければ。
「すまん明日は用事があってな、また今度時間があるときにじっくり」
「え、明日はいないんですか…じゃあ明後日は?」
明後日もちょっと。
「その、なんというか三日ほど無理だな」
「どこか出かけるんですか?」
食いつきすぎじゃない?淀みなく聞き返される。
「ああうん、まあちょっと遠くに出かける」
「………」
無言怖いな。
「帰ってきたら一日中でも付き合うって!」
「わかりました…」
今日はもうこれ以上追及される前に帰ろう。
「そろそろ俺は明日出かける準備とかするんで今日はこのくらいにして帰ろう」
そう言って俺は街がある方角に体を向けた。
「用事って…」
後ろでアイシャがつぶやく。
見てないからどんな表情をしてたかわからない。
ただハッキリと確かに俺に伝わるように言った。
「用事って、オフ会、ですか?」
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