第18話『香奈のアルバム』
それからは、アイスコーヒーや3種類の手作りクッキーを楽しみながら、香奈の本棚にある本のことを中心に談笑する。そんな中、
「そうだ。遥翔先輩、あたしのアルバムを見ませんか? 先日のお家デートでは先輩のアルバムを見ましたし」
と、香奈はアルバム鑑賞を提案してきた。
「見てみたいな。これまでの香奈がどんな感じなのか気になる。特に小さい頃は」
「そうですか! では、アルバムを見ましょう!」
俺が興味を示したことが嬉しいのか、香奈は元気よく言う。香奈はクッションから立ち上がって、本棚に向かった。
小さい頃の香奈ってどんな感じなんだろう? 香奈は可愛らしいタイプの女の子だから、顔については今とあまり変わりがないかもしれない。
香奈は本棚から厚めの桃色の冊子を取り出し、ローテーブルに置く。俺の家でのお家デートのときと同じように、香奈とは隣同士の形で座る。
「写真は小さい頃から概ね順番通りに貼ってあります」
「分かった。じゃあ、さっそく見ていこう」
俺はアルバムの表紙をめくる。
最初のページは……香奈が赤ちゃんの頃の写真が貼られているな。
「赤ちゃんのときから可愛いな」
「ありがとうございます」
えへへっ、と嬉しそうに笑う香奈。赤ちゃんの頃の姿でも、俺に可愛いと言われるのが嬉しいのだろう。
赤ちゃんの香奈はかなり可愛い。赤ちゃんの頃の千晴に匹敵するくらいに可愛い。
亜希子さんに抱かれ、浩史さんと家族3人で写る写真や、ベビーベッドで寝ている写真。あとは……親戚の方々だろうか。香奈を中心に、10人以上の人が一緒に写っている写真もある。どの写真も写っている人はみんな笑顔だ。きっと、香奈が生まれたことを喜んでいるんだな。
「いい写真だ。あと、15、6年前だから浩史さんと亜希子さんも若いな。玄関で亜希子さんと会ったとき、香奈に似ていると思ったけど、この写真に写る亜希子さんはより似てる」
「親戚の家に行ったり、両親の友人と会ったりすると、お母さんと雰囲気がそっくりってよく言われます。お母さんと2人で買い物をしているときは姉妹ですかって訊かれることもあって。お母さんは喜んで『そうです!』って返事しちゃうんですよね」
「ははっ、そうなんだ」
そういう光景が容易に思い浮かぶ。香奈と亜希子さんが並んで立っていたら……うん、姉妹って言われてもおかしくないな。亜希子さんは年の離れた香奈のお姉さんって感じだし。
「この写真を見ると、香奈は将来、写真に写る亜希子さんのようになるのかなって思うよ」
「そうかもしれませんね。こんな風に成長するかもしれませんよ。オススメですよ、遥翔先輩! お母さんのような大人になるなら、胸もEカップまで大きくなりますし!」
「そ、そうか」
こういう形で自分を売り込んでくるとは。香奈らしいというか。
あと、亜希子さんは……Eカップなのか。大きいと思っていたけど、あれがEカップなのか。娘の香奈も、あのくらいの大きさになるポテンシャルはあると。……何を考えているんだろうな、俺は。
「さあ、ページをめくるぞ。いいか?」
「いいですよ。遥翔先輩のペースで見ていきましょう」
「ありがとう」
それからも、香奈のアルバムを見ていく。隣から香奈の思い出話を聞きながら。
香奈一人で写っている写真はもちろんのこと、家族や友達と一緒に写っている写真も多いな。小さい頃から香奈は友達が多いんだなぁ。
概ね時系列で貼られているのもあって、ページをめくっていく度に写真に写る香奈の姿が成長していく。それでも、可愛らしさは変わらない。
「おっ、ここから中学時代の写真か」
『鏡原市立梨本第一中学校 入学式』と描かれた看板の横に立つ、紺色のセーラー服姿の香奈の写真が貼ってある。このセーラー服は香奈が卒業した中学の制服なのかな。香奈によく似合っている。
また、中学の頃からの親友である星崎が一緒に写る写真も出てきた。
「中学時代の写真になると最近って感じがしますね」
「そっか。このセーラー服が中学の制服かな。同じものを着ている星崎が写っている写真があるし」
「そうですよ」
「そうなんだ。香奈も星崎もよく似合ってる」
「ありがとうございます!」
嬉しそうにお礼を言う香奈。
制服ってことは、望月も中学時代はこの紺色のセーラー服を着ていたのか。どんな感じだったのかちょっと興味がある。香奈のようによく似合っていそう。
「中学時代の香奈も可愛いな。たくさん告白されたのも納得だ」
「何日も連続で告白されたこともありましたね。昨日話したように、告白絡みで嫌なこともありました。でも、写真に写っている彩実をはじめとした友人達のおかげで、中学の3年間も良かったと思えています」
「そうか。写真を見ると、本当に仲がいいって分かるよ。特に星崎は。彼女と2人で写っている写真もあるし」
「彩実は中学で出会った人の中で一番仲のいい親友ですから。中学時代から2人でオリオに行ったり、お互いの家で遊んだりしましたね」
「そっか」
学校外でもよく一緒にいたんだな。
星崎とは一緒に梨本高校に進学し、今でも仲良くしている。この先もずっと2人の関係は変わらずに続いていくのだろう。
「きっと、高校の3年間も良かったなって思えるんでしょうね。彩実と一緒に進学できましたし。同じ学校の遥翔先輩に初恋をして、告白して、付き合ってはいませんがこうして一緒にいられるんですから」
持ち前の明るくて可愛らしい笑みを浮かべ、香奈は俺を見つめながらそう言ってくれる。入学してから半月ほどしか経っていないのにそんなことを言えるなんて。俺に抱く好意の深さを改めて思い知る。
香奈の笑顔と今の言葉にドキッとして、体が温かくなっていく。彼女の真っ直ぐな視線に惹きつけられ、自然と彼女と目を合わせる形に。
「嬉しいことを言ってくれるな。俺は……2年近く高校生活が残っているから、香奈のようにはまだ言えない。でも、香奈に告白されてからのことを思い出したとき……楽しかったって思えそうだ」
「……嬉しいです」
そう言う香奈の笑顔はとても優しくて、温かさを感じられた。
それからもアルバム鑑賞を続けていく。
中学時代になり、親友の星崎とも出会ったから、彼女と一緒に写っている写真の割合が多いな。体育祭や合唱祭、修学旅行など、中学校の重大なイベントでも星崎とは必ず写っている。もちろん、楽しそうに。中学で出会った一番仲がいい親友と言うだけのことはある。
そして、写真に写る香奈の着る制服が梨本高校のものに変わる。
「今の香奈になったな。急に馴染みのある姿になった」
「ふふっ、ですね」
入学式の日に校門前で撮った写真や、星崎を含めた同中出身の友人の写真。同じ日に入学式があり、別の高校に進学した中学時代の友人との写真などが貼られている。
次のページをめくると、
「……おおっ」
そのページが写真の貼られている最後のページで、2枚の写真が貼られていた。栗林にこっそり撮られた俺にハンバーグを食べさせる香奈の写真と、俺のアルバムを見た後に香奈のスマホで撮影した俺とのツーショット自撮り写真だ。
「俺と写ってる写真が貼ってある」
「2枚とも気に入った写真なので。金曜の放課後に、オリオの中にある写真屋さんでプリントアウトしてもらいました」
「そうだったんだ」
「この後には、遥翔先輩と写った写真がたくさん貼られる予定です」
「……そうか」
さっき、俺と一緒にいるから、高校3年間も良かったと思えそうだと言っていた。実際にそう思ってもらえるように、香奈の高校生活に彩りを与えられたら嬉しい。
「これでアルバムは終わりか。楽しかったよ。ありがとう」
「いえいえ。あたしも思い出を先輩に話せて楽しかったです」
「それなら良かった。……赤ちゃんの頃からの写真を見たから、今の香奈が今までよりも大人っぽく見えるよ」
「ふふっ、そうですか。嬉しいですね」
そう言って上品に笑う姿も大人っぽくて。
実際に大人になったとき、香奈はどんな雰囲気の女性になるんだろう? よく似ている母親の亜希子さんのようになるのだろうか。今からそれが楽しみになるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます