元婚約者の男性は、私が何をやっても気に食わないようです。婚約破棄したのだから他人でしょう?

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 貴族令嬢として今まで恵まれた環境で育ってきた私には、一つ不満がある。

 それは婚約者だ。


 婚約者は目立ちたがり屋なので、私が目立つ事をすると、すぐに機嫌を悪くする。


 その時の対応が、面倒で面倒でしょうがない。


 あれこれねちねち嫌味をいってくるし、やつあたりするように用事をいいつけてくる。


 彼は、自分の家の格が高いという事実が全てだと考えている。家の格が高いなら、何をしてもいいと思っているのかもしれない。


 そして、自分より立場が低い人間が、いい気分を味わっているのが我慢ならないらしい。だから、格下の家の娘である私に、大人しくしていろと命令してくるのだ。


 何とか、この婚約者の性格をなおせないものだろうか。


 そんな物をなおすみたいに、と思うだろうが。


 こういう言い方をしたくなるくらい、彼はひどかった。


 私は、遺跡の多い地域で育ったことから歴史や考古学の研究を行っている。


 私の身分は貴族なのだが、だからといってのんびり生活しているだけで良いわけではないのだ。


 民達に色々な面で貢献するのが、上に立つ者の務めだろう。


 しかし、婚約者がうるさくいってくるので、その研究が思うようにすすまないでいた。


 いくつもの新発見の発表をしなければならないのに。

 

 それがまったくできない。








 そんな風に、悩みごとをかかえて鬱々とした日々を送っていると、彼から呼び出された。


 最近は、私を避けているようだったので、珍しい申し出だった。


 そういうわけで話があると呼び出されたので、馬車を走らせ婚約者の屋敷へと向かった。


 そうしたら一言目に、要件。


 前置きも、理由の説明もなしで「お前との婚約は破棄だ」と言われた。


 当然、いきなりの話なので驚いた。


「いったいどうしてですか?」


 すると彼は、私の想像外の言葉を吐いた。


「お前が目立ちすぎるせいだ。夫となる人間を立てないなんて、ふさわしくない。婚約者失格だ」


 と。


 何ですか、それ。


 どれだけ自分中心なのだろう。


 自分が良ければ、他の事はどうでもいいのだろうか。


「それにお前、商会の手伝いもしているだろう。あれはだめだ」


 ダメってなんですか。


 私は恥ずかしい事など何一つしていない。


 どうしてそんな事まで、夫でもない人に言われなければならないのだろう。








 私は、この付近の領地を盛り上げるために、商会の手伝いをしている。


 身分の高い者達(貴族や領主など)は定期的に集まって、様々な案を練らなければならない。

 問題が起こったら、原因を突き止め、改善策をおこなうのが当然の責務だ。


 そんな中で私は、私にできる事をやったにすぎない。


 最近の私は商売の方面で、他の人達と仕事を行っていた。


 遺跡がある以外、これといって特徴のないこのあたりの土地に人を呼び込むため、様々な地方の文化や特産品を研究してきていたから、その知識を活かすためだ。


 しかし、婚約者は私が何をしても気に食わないようだ。


 目立つのもダメ、活躍するのもダメ。


 この人は、誰かと婚約するのに向いていないのではないかと思った。


 一人で生きていく方が一番良いのではないだろうか。


「分かりました、婚約は破棄しましょう。これからは赤の他人としてそれぞれの人生を生きる。それでよろしいですか?」

「ああ、これでせいせいするさ! 夫よりでしゃばる女や、夫の相手もせず他の事ばかりしている女なんて願い下げだからな」


 私も同じ気持ちです。


 何をやっても、文句を言うような人とは一緒になりたくないですし。







 その後、私は歴史や考古学などの研究をおこないながら、商会の手伝いをすることにした。


 それに加えて、地域の野良猫や犬が増えすぎたらしいので、それの保護活動などもしていた。


 普通に、人々の為になればと頑張っていた。


 なのに、それも彼にとっては駄目な事だったらしい。


 一か月経った頃に、元婚約者が怒鳴り込んできた。


「馬鹿にするのもいい加減にしろよ!!」

「意味が分からないんですが、私達はもう赤の他人になったのではありませんか?」

「ああそうさ。だが、何も俺と婚約破棄してから目立たなくてもいいだろ。それじゃ、まるで俺の存在が足手まといみたいじゃないか!!」


 まるでも何も、その通りだからそうなったのですが。


 顔を真っ赤にした元婚約者は怒りがおさまらないようだ。


「地域の人から慕われていて、商会の人間からもちやほやされて、考古学では名をはせる! さぞかしいい気持ちなんだろうな」


 その通りです。


 貴方と他人になってから、多くの人と楽しくやってますが。


 それがどうかしたんですか。


 関係ない事で何をわめいているんだろう、この人は。


「俺はお前を許さないからな! 恥をかかせやがって!」


 婚約者は足音を立てて、出ていった。


 彼はプライドが高すぎるのだろう。


 私は冷めた目でその様子を眺めていた。


 いつもあんな調子では、人生が大変そうだった。








 その後、元婚約者は商会の者達に私の参加を拒否するように訴えたらしい。


 しかし、相手にはされなかった。


 逆に彼等は、元婚約者をつっぱねた。


 そして「私がいてくれた方が助かる」と言いながら、「これからも協力してほしい」と伝えてきた。


 元婚約者は地域動物の保護協会にも足を向けたそうだ。


 そこの職員たちを脅して、「私を働かせるな」と言った。


 しかし、彼等は「とんでもない事を言うな」と怒ったらしい。


「誰のおかげで地域で不幸になくなる動物達が減ったと思っているのだ」と、そう言って元婚約者を追い払った。


 元婚約者はそれで懲りればよかったのに。


 まだ何かやったらしい。


 後、彼は考古学研究会にもちょっかいをかけていた。


 そこで「私の発表なんて全てでたらめだ」と喚いたそうだ。


 しかし、様々な証拠をそえて発表した私の研究内容は、誰もが認めるものだった。


 彼は少しも相手をしてもらえなかったようだ。


 そんな経験をへて自暴自棄になった彼は、私をこれ以上活躍させまいと計画を立ててた。


 私を何かの悪事の犯人に仕立て上げようとしたらしいが、その途中で企みがばれて牢屋行きになった。






 私は何もしてない。


 全ては、彼が勝手に自爆したにすぎない。


 婚約した当初。かつてはそんなに間抜けではなかったはずだが、プライドとは人の目を曇らせるほどのものなのだろうか。


 彼は、牢屋の中で私への恨み言を吐きながら過ごしているそうだ。







「あの時は大変だったね。また商会を手伝っておくれよ。その代わり、困った事があったら何でも力になるからさ」

「あなたのおかげでたくさんの動物達が救われたわ。きっとみんなあなたを慕ってくれているわよ」

「きみのおかげでだいぶ研究が進んだよ。ありがとう。これで他の研究もはかどるな」


 まあ。


 元婚約者がどうなろうと私には関係ない事だ。


 だって、しょせんは赤の他人なのだから。


 私は私の人生をただあゆむだけだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元婚約者の男性は、私が何をやっても気に食わないようです。婚約破棄したのだから他人でしょう? 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ