第50話
「フィオナちゃん、大丈夫かしらぁ」
シャルロットは、何度目か分からないため息を吐いた。
「そんな心配するなよ。大丈夫だって、ってうわっ‼︎」
ブレソールが軽く笑って返すと、凄い形相で睨まれ、手にしていたパンがボォッ‼︎っと音を立て燃え灰になってしまった。
俺の昼飯が……。
ブレソールは、項垂れる。
「だって、仕方ないだろう。俺達がいたら、彼女ご飯食べれないんだからさ」
ブレソールはそれなりに、シャルロットはかなりフィオナとの距離は縮まり仲良くなったと思う。だが、彼女はヴィレーム以外の前では決して仮面を外す事はない。彼女にとっては仮面を外す事は、酷く勇気のいる行為だと理解しているつもりだ。周囲がどんなに同情や慰めた所で、結局辛さなど本人以外は理解出来ない。大概の人間は分かったフリをするが、ブレソールはそういった偽善が嫌いだ。だからこれからどんなに親密になろうとも、干渉はしない。
まあ正直、気にならないのかと聞かれたら、気にはなる。だが、それだけの話だ。仮面をつけているとか、仮面の下の素顔がどうとかで、彼女への評価は何も変わらない。きっとシャルロットも同じ気持ちだろう。
世の中は、実に下らない人間で溢れている。この学院に来て、フィオナの事を醜女だと蔑み嘲笑う人間達を幾人と見てきた。そんな彼等の魂は、薄汚れて穢い。見ていて気分が悪い。もっと言うなら、反吐が出る。
それに比べて、彼女は何処までも澄んでいて美しい。一緒にいると浄化される様な感覚を覚えて心地が良い。
「でも、でもぉ、だってぇ〜」
自分よりも年上の癖に、シャルロットは昔から何時もこうだ。確りしているかと思えば、こんな風に子供の様に駄々をこねる。ただそんな所も、ブレソールは嫌いではない。寧ろ自分に甘えてくれているのだと思えて可愛いし嬉しい……まあ、口が裂けても言わないが。多分、生涯言う事はない。これは意地だ。
「シャルロット、安心しろ。俺の
ムームは、ブレソールの使い魔だ。赤い小鳥で、昔からのブレソールの心強い相棒だ。その小柄な身体を生かし、偵察や見張りを得意としており、また俊敏な動きで敵を翻弄する事も出来る。
ブレソールが得意げにそう話すと、シャルロットは疑いの眼差しを向けてきた。
「寧ろ余計に心配ですわ……。ますます不安ですわぁ〜」
嫌味ったらしく言いながら、大袈裟にため息を吐く。
「ムームは、確りしたヤツだ。もっと信じてやってくれよ」
ピーピー、スースー、スーピー……スヤスヤ。
前言撤回だ。これは明らかに……。
「な〜に〜が、信じてやってくれぇ?寝てるじゃないの⁉︎」
余りにシャルロットが喚いて煩いので、早めにフィオナを迎えに裏庭へと行った。だがそこに彼女の姿はなく、代わりにいたのは木の枝に止まりながら寝息をかくムームの姿だった。
「ちょっと、起きなさい‼︎フィオナちゃんは、何処ですの⁉︎」
スーピー……ピ?ピーッ⁉︎
シャルロットはムームを鷲掴みにする。気持ちよさそうに眠っていたムームは一瞬にしてパニックになる。
「早く言いなさい!焼き鳥にされたいのかしらぁ?」
ピッ⁉︎ピー‼︎ピー‼︎
ムームは怯えてバタバタと暴れ、シャルロットの手から何とか脱出した。
「あ、お待ちなさい!このぉ、今直ぐ丸焼きにして差し上げますわ‼︎覚悟なさいませ!」
ピぃ〜ピぃ〜ピぃ〜……。
ムームは、涙を浮かべブレソールに縋りついてくる。ガタガタと震えている。
「お〜よしよし、ムーム大丈夫か。シャルロット、大人気ないぞ。ムームだって悪気があった訳じゃ……⁉︎」
ボォッ‼︎
次の瞬間、ブレソールはムームと仲良く一緒に、丸焼きにされかけた。
「あっつー‼︎シャルロット‼︎幾ら何でもやり過……スミマセンデシタ」
怖い程笑顔のシャルロットに、ブレソールは瞬時に屈服しムームを差し出す。
ピ〜⁉︎
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