第49話

昼休み、フィオナは一人で裏庭にいた。何時もならヴィレームと一緒だが、今日は当たり前だが、彼はいない。シャルロットは、一緒に食べたいとかなり粘っていたが、ブレソールに引き摺られて何処かへと連れて行かれた。

シャルロットやブレソールとも、大分仲良くはなったが、やはり素顔を晒すのは抵抗がある……。

フィオナは、一人もぐもぐと昼食を食べていた。


「美味しい、けど……」


味気ない。フワフワのパンに、野菜やハム、卵が挟まっており、今日はデザートに木苺のタルトまである。それなのにも関わらず、気分は沈んでいる。


ヴィレームと一緒だったら、もっと美味しくて、愉しくて、幸せなのに……。彼と出会う前まではこんな風に考える事は決して無かった。


一人って、こんなに寂しかったかしら……。


一人きりは慣れていた。誰もいないのが当たり前だった。ヨハンと食事だけは一緒に摂ってはいたが、何時も孤独だった。ヨハンといる時でも、フィオナは一人ぼっちだった。


だが今は、シャルロットがいてブレソールがいて、クルトやシビル、フリュイ……そして、ヴィレームがいる。フィオナから、自然と笑みが溢れた。


「そこで何をしている」


不意に背後から声を掛けられ、フィオナは身体をビクりとさせて、思わずパンを手から落としそうになった。そうしている間にも、足音がどんどんと近付いて来る。フィオナは慌てて仮面をつけた。


「お前は、あの時の仮面女か」


仮面女って……まんまですね。


捻りも何もない。フィオナは苦笑する。そして、身体を強張らせる。その理由は、現れたのが、いつかのダンスパーティーで出会した第二王子であるオリフェオだったからだ。


「こんな所で何をしているんだ」


「……昼食を頂いておりました」


お弁当箱を広げて、手には食べ掛けのパンを持っている。誰がどう見たってそれしか考えられない。分かりきった事を何故わざわざ訊ねてくるのだろうか。眉根を寄せた。


オリフェオから、凝視されている。何もしていないのに、まるで悪い事でもした様な気持ちになってくる。嫌な汗が身体を伝うのを感じた。

次は一体何を言われるのか……また、仮面の下の素顔を暴こうとでもいうのか。


「そうか……」


だが以外にも、それだけ返し何故かフィオナの隣にドカッと腰を下ろした。


「……」


「……」


異様な空気が流れている。彼は何を話すでもするでもなく、ただ座っていた。これは新手の嫌がらせなのだろうか……。


フィオナは困惑し俯きながら、早く立ち去ってくれるのを願った。





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