episode11 第1話 第一章「犬と交わる」

第一章 「犬と交わる」




 その日は探偵長のオヤジが別件の依頼で、相棒のナナコは所用で外出。俺はコンビニの二階にある事務所で一人、留守番をしていた。

 今現在、抱えている依頼もなく、書くべき報告書もない、仕事が来るのを待っている、いわば開店休業状態。いつもは他に誰かがいるので、一人で部屋にいると何となく手持ち無沙汰になってしまう。

 開け放った窓から、「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ~」や「トリックオアトリート」なんて声が聞こえてくる。

 そう言えば、もうすぐハロウィンだったな。

 秋風が前髪を揺らし、秋の匂いをかいで時間を潰す。

 そんな気だるい午後を何とかやり過ごし、そろそろ業務時間も終了。相棒のナナコを迎えに行こうとしていた時、一本の電話がかかって来た。

 電話相手はコンビニ探偵を営む俺たちには馴染みの人物だった。話を聞くにつけ、電話を通してではどこか要領の得ない依頼者に、俺は直接話を聞くため現場に向かうことを告げた。



 ナナコに少し遅れる旨の連絡を済ませ、俺は先月購入したバイクにまたがる。

 頬に受ける風が冷たい。

 ジャンパーを着てきて正解だった。先週までは動いていればシャツだけで汗をかいていたくらいだが、急に寒くなったな。陽が落ちれば、なお更それを実感する。

 襟を立て空を見上げると、綺麗なまん丸お月さまが浮かんでいた。狼男が変身するならこんな夜だろう。そんなことを思いながら、俺は依頼者の元へと急いだ。

 そこに何が待ち受けているのかも知らずに……。



 目的地に着いた頃にはとっぷりと日が暮れていた。

 コンクリート造りの建物の脇にバイクを停め、俺は施設の自動ドアをくぐった。

「武蔵さん、お待ちしていました」

 迷い犬保護施設『わんピース』所長、大前田啓治(おおまえだ けいじ)が俺を迎えた。いつもは人懐っこい笑顔を向けて来る大前田だが、今日は表情が少し硬い感じがする。

「突然のご連絡、申し訳ございませんでした」

「いえいえ。お気になさらず、『わんピース』さんには、いつもお世話になっていますから」

 コンビニ探偵の依頼はその名の通り、安価な予算で解決出来るものが大半で、その多くを迷い犬や猫捜しが占めている。

 それ故、地元の犬猫保護施設と連携することが不可欠だ。こっちから情報を提供することもあれば、反対に情報を頂くこともある。持ちつ持たれつのいい関係を築いている。

 今日も迷い犬捜しの手伝いだろうか? だが、そんなことなら電話やメールで済む話だが……。

「大前田さん。それで急ぎの依頼とは? お電話では何か捜して欲しいものがあると言っていましたが」

 挨拶もそこそこに俺は用件を聞いた。

「ええ……。そのことなんですが、実は今回の依頼主は私ではなくて……」

「ああ。職員の方ですか?」

「いえ、そういう訳でもなくて、私もどう説明すればいいのか……」

 どこか言葉を濁す大前田。

 ただの犬猫捜しなら大前田もはっきりと告げるはずだ。もしかすると、捜索対象は、どこぞのヤバイ富豪や権力者が飼っている違法なペットとかなのだろうか?

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