episode9 第5話

「あぢぃぃぃぃ~」

 炎天下の中、足取りも重く電気屋へと急ぐ。隣に無口な少女を引き連れて。

「お前は家にいても良かったんじゃないか?」

「任務だ」

 涼しい顔をしてナナコが答える。

 扇風機を取りに行く任務ってなんだよ? しかも、こんな真昼間に。

 涼しくなる夕方にでも行くよと言ったのだが、オヤジが、「イクなら早くイキなさい」ということで部屋を叩きだされた。

「イキはヨイヨイ、帰りは怖いってね」

「ナニ?」

 俺の一人歌にナナコが反応する。

「ああ、わらべ歌だよ。夕方――逢魔が時に外出すると、死者の扉が開いて、魔物や死人が現れて、そこに引きずり込まれて帰ってこれなくなるっていう、ある種の民謡みたいなものだ」

 だから、オヤジは早く行って来いって言ってたが、そんなのあるわけないじゃないか。

「死者の扉?」

 小さな呟き声。キュッと口を結び、わずかに眉が動いたような気がする。

「なんだ? 怖いのか?」

「そうじゃないわ。ただ……」

「ただ……?」

 ナナコはそれ以上何も答えなかった。

 無言で、俺のTシャツの裾と、自分の服を握りしめていた。

 お化けが怖いなんて、やっぱりこいつも年相応に子供なんだなとほっこりしてしまう。

 こいうのも怪談の一種なのかな? そう言えば、寒気を感じる。少しでも、『涼』を感じてもらおうという、オヤジのイキな計らいってやつか?

 そう言えば、ナナコの服が家にいた時と違っているのに気が付く。初めて見る格好だ。

「よそ行きの服だと。むな志がくれた」

 ナナコの体のサイズに合った白いワンピース。胸に小さなピンクのリボンがついている。それから、熱中症対策にオヤジに持たされたのか、体に似つかわしくない大きな麦わら帽子を被っている。

 電気屋に行くのにおしゃれをさせる必要があるのかね? ったく、こいつは、着せ替え人形じゃないぞ。

「どうだ?」

 おもむろにナナコが両腕を水平に掲げ、カカシのポーズをする。

「どう? とは?」

「似合って……いるか……?」

 小首をかしげてガラス玉のような瞳をこちらに向ける。

 その質問を俺に答えろと?

 こいつは無表情な黒髪ロングヘアなので、白いワンピースがハイライトでセルフモノトーンになっている。加えて、ピンクのワンポイントが実に乙女趣味なオヤジっぽくって、女の子らしさを感じさせる。

 と、素直に言うのもちょっと気恥ずかしいので、

「にあって――イルカ――と言うよりも、まっ、馬子にも衣裳――だな」

「それは違うぞ」

 何故かない胸を張って自信満々に言うナナコ。

「わたしは『孫』ではない。むな志は、娘みたいなものだと言っていた」

「さいでっか」

 その孫じゃね~よと、適当に受け流すと、重い足取りで歩を進めた。



                    *



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