第3話

「うぅ……」


 私は意識を取り戻しました。

 目を開けると、知らない天井でした。

 消毒のようなにおいがします。

 えっと……、私は今まで何をしていたのでしょうか……。

 記憶が曖昧です。


 私はどうやら現在、病院にいるようです。

 目覚めた私を見て、看護師たちが慌てていました。

 なんだかまだ、意識がぼうっとしたままです。

 今は、何も考えたくない気分でした。


 しばらく経って、自分の意志で歩けるようになった私は退院して、陛下のいる王宮へ呼ばれました。

 その頃には、どうして私がこんなことになっていたのか、今までのことを思い出していました。

 ただ、あれからどうなったのか、事の顛末はまだわかりません。


 私は陛下の部屋に入りました。

 そして、事の顛末を、陛下自らが説明してくれました。

 

 犯行の瞬間を、王宮の廊下にいたたくさんの兵たちが目撃していたこと、凶器のナイフは、リチャード殿下の部屋にあった、王家に伝わる宝具だったこと、そして、殺人未遂を主とした重罪の数々によって、処刑が決定されたこと。


 陛下は、そんなことを語りました。

 それらが現実に起きたことだと、私は未だに信じられなくて、夢でも見ているかのような気分でした。

 しかし、心の奥底ではわかっていました。

 それらは、決して夢ではなく、実際に起きたことだと。

 私はあの日起きたことを全部、はっきりと覚えているのですから。


 そして、ついに処刑の日がやってきました。


 私は、処刑台へと向かいました。

 処刑台の周りには、何人かの人が集まっています。

 私は、リチャード殿下と目があいました。

 そして、何とも言えない気持ちになりました。

 あの時はまさか、こんなことになるなんて、思ってもいなかったのです。


「それではこれより、刑を執行する」


 これで、リチャード殿下ともお別れです。

 これが最後ですが、私は彼に言葉をかけることもなく、刑は粛々と執行されました。

 目の前が、真っ暗になりました。


 ……私は閉じていた目を開けて、処刑台から歩き去りました。


 もう、ここにこれ以上いるつもりはありません。

 ここに来たのは、けじめをつけるためというか、私の新しい人生の第一歩を始めるためです。

 

 リチャード殿下は、処刑されました。


 彼は、報いを受けたのです。

 私は、これからどうしようかと思い悩んでいました。

 しかし、悩んでいられるのも、自分が生きているからこそです。

 今は、生きているだけで、充分だという気がしました。

 幸せなんて、大抵知らない間に訪れてくるものです。


 でも、しばらくはまだ、あの光景が夢に出てきそうですね。

 あれから私は毎日、あの日の、あの時の光景を夢で見るのです。


 そしていつも、ナイフを手に持って必死な形相をしているリチャード殿下が、私に迫ってくるところで、目がさめるのです。


 でも、いつかきっと、この夢を見なくなる日が来ることでしょう……。

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クズな王子に婚約破棄されたあと、「大変だ! 殿下が刺されている!」と兵が騒いでいました。どうしてこんなことになったのでしょうか? 下柳 @szmr

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