ウサギとワカメ

@musa9

第1話

カメとの勝負に敗れたウサギは荒れていた。

悪態のかぎりを尽くし、近づく者皆傷つけた。


ネズミさん、ネズミさん、さっき向こうでネコさんがキミのことを探していたよ。血眼で。と嘘を付き


キツネさん、キツネさん、実はいい難いのだけれど、キミ達がエキノコックスで皆に嫌われているのは僕達ウサギが持っている菌のせいなんだ、ごめんね。だからもうウサギは食べないで、とデタラメを。


カラスさん、カラスさん、ナナカマドより美味しい食べもの教えてあげる。街に行ったらゴミ箱っていうところに美味しい食べものが沢山あるよ、と人間達に嫌われるように仕向けた。


ウサギはこの山の天下を取った気分になり、山の頂きで下界を見下ろした。


あの海から太陽が登り、あの山に沈んで行く、あの山を越えると何があるのだろう、あの海の向こうには何があるのだろう。ワタシはいつかあの月のいつも餅をついているべっぴんさんと結婚するんだ!


ウサギは海にやってきた。

海を覗くとワカメが話かけてきた。


ウサギさん、ウサギさん僕と勝負しませんか?


ウサギはワカメごときが何を言っているのだろう、と思いました。


ワカメさん、ワカメさん勝負って何の勝負だい?キミはせいぜいその場でユラユラしていることしかできないんだろう?ワカメなんだから、


あの山の頂上まで競争しようじゃないか、とワカメは言いました。


ウサギは耳を疑いましたが、こんなにも長い耳です。耳を疑うということは、自分自身を否定することにもなり兼ねません。耳の短いウサギは既にウサギではないのです。


ウサギは聞き返したい気持ちを抑えワカメに言いました。


ワカメさん、ワカメさんキミは海から出たらカラカラに干からびてしまうんじゃないか?


ウサギさん、ウサギさんそんなことやってみないとわからないじゃないか、まさかカメさんに負けて、また負けるのが怖いんじゃない?


ウサギはムッとして言いました。


じゃあ勝負だ。何を賭けるんだい?


ウサギさんが勝ったらウサギさんの夢を叶えてあげるよ、僕が勝ったら僕の夢を叶えて。


夢ってなんだい?


それは勝ってからのお楽しみ。


ウサギは思いました。

勝って当然の勝負だ、まぁいいだろうと。


わかった、やろうじゃないか。

じゃあ行くよ!よーいどん!


ウサギは山の頂上目指して駆けて行きました。


ウサギは振り返りワカメの様子を伺った。


やっぱりワカメはユラユラしているだけ、カメさんとの勝負では昼寝をし油断して負けてしまったけれど、今回は冬眠したって勝てる気がする。はじめから勝負になんてならないんだ。


すると急に雨が降りはじめました。


ウサギは木の根元に空いた穴で雨宿りをすることにしました。


ワカメさんはまだあの場でユラユラしているだけ、雨が止むまでひと眠りしよう。


ウサギは寝てしまいました。


一方ワカメは、ユラユラー、ユラユラー。


そこに一匹のサカナさんが通りかかりました。


サカナさん、サカナさん僕をあの山の頂きまで連れて行ってくれないか?


サカナは言いました。


ごめん、オイラ、ワカメは食べないんだ。


ワカメはユラユラしながら言いました。


僕にはニシンの卵が付いてるよ、幻の子持ちワカメなんだ。


えっまぼろしー?

じゃあ遡上したらモテモテになるんじゃないかい?


そうだよ、上流階級でセレブでマリネになれるよ!


えっマリネー?何かいい響きだね!

その話乗ったよ。


サカナさんはワカメさんをパクッとしました。


ワカメさん準備はいいかい?

この川をのぼるよ!


サカナさんは凄い勢いで川を登って行きました。


上流まで来たところでサカナさん達が集まっています。産卵のはじまりです。


ワカメさん、ワカメさんオイラの役目は終わったよ、おかげでモテモテだったよ、頂上までは連れて行ってあげられないけどお礼にあそこにいるクマさんにお願いしてみるよ。


そう言ってサカナさんはクマさんの元へやってきました。


クマさん、クマさんお願いがあるんだ。


なんだいサカナさん、キミも食べて欲しいの?


うん、食べて下さい。そして僕の中にいるワカメさんをこの山の頂上まで連れて行ってあげてほしいんだ。


クマさんは言いました。そんなことは容易いことだよ。

だが断る。


どうしてだい?


冬眠前にサカナさんを沢山食べないといけないからね。オラは忙しいんだ。


そうか、それなら良いことを教えてあげるよ。


一方ウサギさん


雨が止みそろそろ出ようとワカメさんの様子を伺った。


ワカメさんがいない!?

どういうこと?


ウサギさんは耳だけでなく目も疑った。

ウサギから赤くて可愛いまんまるお目目を取ったらウサギどころでは無くなるじゃないか、自分ははじめからウサギでは無かったのか?

いやまだ、このピョンピョン跳ねる脚がある。これはウサギの代名詞だ。


そう自分に言い聞かせてとにかく頂上へ向かって全速力でピョンピョン走り出した。


ウサギはあっという間に頂上へ辿り着いた。


良かった。ワカメさんはまだ来てないじゃないか、いっときは自分を見失いかけたが、やっぱりワタシはウサギだ。ワカメごときに負けるはずがない。今頃ワカメさんはカラカラに干からびているだろう。


すると聞き覚えのある声が、


ウサギさん、ウサギさん遅かったね、どうやら僕の勝ち見たいだ。


ウサギはまたもや耳を疑い周りをキョロキョロと見回した。


ワカメさん、ワカメさんどこにいるの?どうして声だけ聞こえるの?


ここだよ、ここ。


ウサギはまたもや目を疑った。


声の主は地面に横たわる大きなクマのフン。


僕はこんなことになっちゃったけど勝ちは勝ちだよね。


じゃあ、僕の夢を叶えさせてもらうよ。


すると草むらから大きなクマが現れてウサギさんを食べてしまいました。


おしまい。

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