マイストジェネレイト

あさひ

第1話 勘違い

周りから楽しそうな声がせせら笑いかけられている

しかしそれは軽蔑を込めた悪意しか見えない一方的な

単なる口撃だった。

「あれぇ? プラァさん弱いなぁ」

相手がとてつもなく強いというわけじゃなく

単純に空腹で体が動かない。

そんな相手に容赦なく火炎の弾や風の塊が飛ばす

ニヤニヤした集団と後ろで微動だにしない年配の男性が

助けなど呼ばせずにそれに及んでいた。

「どうした! プラスっ! 遠慮しているのか?」

「おっ…… なっか…… すいた……」

届くか届かないくらいのか細い声で返答するが

一言で一蹴され、攻撃を増やすように指示する。

「な…… んで……」

その言葉を後に気を失ったプラスと呼ばれた少女

本名はプラスラープスフォンディエータ

略して【プラス】と呼ばれる

ラープス家の跡取りであり、階級は軍貴族という

偉い立場に成り得るほどの家柄だ。

そして先ほどの怒号を送った人こそが

現状のラープス家で

軍頼ぐんらいのラープス】

と呼ばれる筋骨隆々とした熊のような体格に

いかにも堅物そうな男性である

その男性こそがプラスの父親なのだが

教育方法があまりに残酷なため

軍の教育係をクビになった。

帰ってくるなり正しさの証明と

何週間の断食を行わせ

今に至る。

「私の教育は悪くはないのだがな……」

ボソボソ聞こえる恐怖の文言で

目を覚ますプラスは

ゾッとしすぎて気を失ったふりを続けた。

心の中で祈りながら叔母の帰りを待ち

ドアが開く音で安心しすぎて寝落ちする。

「おや? プラちゃん?」

叔母は優しくベッドに運び

起きるまで待つと【軍頼】を睨みつけた。

「もう我慢ならないな…… この子はお前の道具じゃないぞ?」

その一言に震えあがったのは

【軍頼】の方だったのは

必然だった。

最高指揮の女性上官に下手に口答えなど

骨が何本折れても許されないだろう

しかも非は【軍頼】にしかない。

部屋は静寂に染まり

広がるのは安心した寝息と

暖かな手が頭にそっと添えられる

そんな優しい情景だった。


傷が所々に危険を誇示する中で

目が覚めたプラスは

脇に置かれたスープとパンを見つけ

震える手でゆっくり食べ始める。

少し経ってからベッドから見える本棚で

座りながら眠る叔母が

ゆっくりと目を覚ましていた。

「うぅっんっ! プラス美味しいか?」

食べるのを少し止めて

ふんふんと首を縦に振りながら

笑って見せたプラスは食事に戻る。

叔母の名前はプラスプルート

軍王の唯一で【無双の家臣】と呼ばれた

女性初の指揮官だ。

「すまんな…… 遠征が長引いてしまってな……」

食事をしながら横にふるふるとプラスは

意思表示する。

「お前はあの娘にすごく似ているな」

あの娘とはプラスの母親であり

事故でもういない優しき軍神のことだ。

「プランもきっと見守っているはずなんだけどな……」

遠くに目を細めていた叔母に

微かな声で返す。

「かあ…… さんはがん…… ばれ」

「やはり聞こえるんだな」

心当たりがあるのは叔母とプラスぐらいで

あの【軍頼】にはまったく経験がない。

「なんて言ってた? 紙に後で書いてくれないか?」

おかしな事故だったと誰もが言っている

その事件に対する調査をしている身としては

ヒントはいくらでも欲しい。

プラスはこれまでに色々と暴いていた。

例えば

【軍の中に内通者がいる】や【武器庫から盗まれたかもしれない】

本当に見えない何かが教えなければ

わからないような事をズバリと当ててしまう。

そのためか命をよく狙われていることが多々あり

中でも疑いが掛かられているのが

【軍頼】であり

それも教員をクビになった要因でもあった。

食事もあらかた食べ終わり

紙に聞こえたことを書いていく。

そして叔母に渡し、指示を仰ぎながら

じっと叔母を見ていた。

「プラスに見つめられると顔が赤くなるのだがな?」

キョトンとした表情で疑問符を浮かべながら

ベッドの方に戻っていく。

「私を悶え殺すつもりか……」

心を落ち着かせて紙に書かれた文字を

読み込んでいき

全てを読み終わると疑問を口に出した。

「北に祠なんてあったか?」

それを聞いたプラスはハッと棚から取った

地図を広げて指をさす。

「ん? アラクシアの聖堂か?」

北に位置する廃墟で魔物たちの住処となっている

この頃は悪い噂しかないような禁足地と

認識されていた。

「そこには今、調査部隊が討伐任務に出て……」

一つおかしなことが書いてあったことに

気が付く。

「魔神が終わりを呼び起こす」


アラクシアに向かった調査隊は

順調に聖堂が見える丘まで到着していた。

「プルートが恐れるほどがあれか?」

目の前にはキレイで

見目麗しい銀髪の女性が

魔物を虐殺していた。

確かに魔物よりかは強そうだが

プルートはそんなものを一振りで消せる。

「あらひどいですね」

不意に後ろから声が囁き

振り返る頃には隊長と

そこらで休んでいた隊員はおらず

見下ろしたはずの女性しかいなかった。

「不味い」

苦虫を踏み潰したような顔で

何かを評価する銀髪の女性は残念そうにどこかへ

消えていった。


連絡が途絶えたと知らせられ

予感が的中したと地団駄を踏む叔母に

申し訳なさそうな顔でプラスが仕草だけで謝る。

「プラスは悪くないぞ? それよりあとで叔母さんとお風呂入ろう」

あまりに焦り過ぎて本音がスラっと出てしまい

訂正を必死に手振り身振りで説明した。

「別にいやらしい意味はなくてだなだな? 怪我がないかとかあるだろ?」

よくわからなかったプラスはふふっと笑った

その表情もたまらなかったのか悶絶しながら息が荒くなる。

「絶対にっ! お前を幸せにするっ! あぁぁあっ! 可愛いなぁっ!」

周りにいた人たちがドン引きしながら後退するも

お構いなしに挙式と

初めての旅行についてグイグイと迫った。

「プラスはどう思う? 子供はやはり二人以上は必須だよな」

この時の叔母はプラスがあまりに尊いのだろうか

昔からほぼおっさんにしか見えない。

「指揮殿? 聞いてますか?」

先ほどから何度も話しかけていた眼鏡の女性を

無視していたことに今になって気が付く。

「未来の展望に忙しいから後にしてくれないか?」

「この国の未来が今にも忙しいんですがね……」

眼鏡の女性はプラスに指示を送ると

叔母に話を聞くように促した。

「そっそうか…… この国がなければ愛の巣が崩れてしますものな」

もはや止まらない叔母は一人で解決するのが

時間の問題に思えたがあちらから来ていた。

「ほう? お前があいつの選びそうな器か?」

プラスの後ろで背中をそーっとなぞる

銀髪の女性は気に入ったのか

首筋を舐めとっていく。

声にならない悲鳴を出したプラスを

守るために剣を抜く叔母に銀髪の女性は

言い放った。

「お前の剣気はプランのものか?」

「なっ!」

「ではこの宝を頂こうかな?」

羽織るもので見えなかった胸部が

やんわり当たり懐かしくなるプラスは

そのまま空間に出現した暗闇の穴に引きづり込まれた。

手を伸ばしていた叔母は届かないまま倒れ込み

地に伏しながら地面に拳をぶつける。

「くそぉおおおおおおっ!」

プランの事故を頭が必死に再生する中で

苛立ちが暴発する。

その様子を木陰から覗く半透明の女性は

気配を感じるために目を閉じた後に

空の遠いどこかを見つめそっと呟く

「欲しい……」



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