第15話〜元勇者、戻る〜
黒猫のクロを私の家族にした後、私達はバイトール王国へと戻る事にした。
クロは、娘のリアネの頭の上が気に入ったのか、そこから全く動く事無かった。
リアネも特に気にしていないようだったので、バイトール王国へと戻る。戻る途中、遭遇したのは、大きな鳥だった。
ワトリさんが言うには、あの鳥は「イナズドリ」と呼ばれる魔物で、魔力持ちだと言う事。
何でも翼で風を起こして攻撃して来たり、魔術「リトルボルト」と呼ばれる雷系の術を使ってくるのだと言う。リトルボルトは、黄色の魔術式が出現するので、リトルボルトを使う場合、一発で解るのだと言っていた。
雷系の術ね……結構危険な感じなのかもしれない。
「ここは、俺に任せてくれ」
ワトリさんがそう言うと、背中に背負っていた槍を取り出して、そのイナズドリに向かって、槍をぶん投げる。槍は真っ直ぐ飛んでいき、あっさりとイナズドリに貫通。イナズドリはもがき苦しんでいたけど、動かなくなり、光の粒となって、その場から消滅した。
すごいな……一撃だよ。このワトリさん……本当に何者?かな。強いんじゃない?
「討伐完了、お、ドロップアイテムがあるな、今回は落としていったか」
ワトリさんがそう言って、地面に落ちている黄色い結晶みたいな物を拾う。
私は、気になったので
「ワトリさん、その結晶って何なんです?」
「ああ、これはイナズドリを倒した時、たまに落としていくアイテムでな?イナズ結晶と言ったか。魔法薬の材料になったり、銀貨10枚程度で売れるんだ、まあ……なかなか現れない魔物ではあるのだがな」
「そうなんですか……」
銀貨10枚程度……なるほど、ちょっとはいいお金になるのか。
なんで落とし物が結晶なのだろうか?
けど、私は手に入れても、何所で売り捌けばいいか?全く解らない。まあ、倒したのはワトリさんだし、ワトリさんが持っていた方がいいと思う。イナズドリを倒した後、辺りを確認したけど、他に魔物やらいなかったので、移動する事にした。
バイトール王国に辿り着いた頃には、夕方になっていて、もうそろそろ夜の時刻へと突入しそうだった。
バイトール王国に辿り着くと、ワトリさんが
「何とか無事にバイトール王国に戻って来たな? では俺はバルバに会いに行くから、護衛はここまでだな? ナナさん、娘のタマコと仲良くな? それでは」
「あ、はい、色々ありがとうございました」
「ああ」
ワトリさんがそう言って、私達から離れる。
ワトリさんが離れた後、私はバイトール王国に入ったので、フードを被る事にした。
フードを被った後、リアネに
「それじゃあ、家に戻りましょうか? リアネ」
「うん、お母さん」
リアネにそう言った後、リアネと手を繋いで自宅へと戻る事にした。
バイトール王国の中を歩き、自宅に辿り着く。
そう言えば……行く時にバルバさんが、何か言いたそうな顔をしていたけど……何か言いたかったのだろうか?
まあ、気にしても仕方が無いので、私は
「リアネ? 服が随分汚れたでしょう? 新しい服を用意するから、一緒にお風呂に入りましょうか?」
「うん、解った、あ、お母さん……?クロも一緒にお風呂に入れちゃ駄目?」
「そうね……リアネがちゃんと面倒を見るなら、いいわよ?それじゃあお風呂の準備するわ」
私はそう言って、お風呂の準備に取り掛かる。お風呂の準備が出来た後、リアネと一緒にお風呂に入る事にした。
「クロ~私が洗ってあげるね?」
リアネがそう言って、クロを石鹸で洗っている。クロは、リアネに何をされても動じなく、時々「にゃー」とか気持ちよさそうに鳴いていた。
それにしても……この黒猫、一体何を食べさせればいいのだろう。
私が思い浮かべるのは、牛乳なのだが、生憎この世界に牛乳と呼ばれる品を今まで見た事が無い。というか……乳を使った食べ物や、飲み物をほとんどみかけていなくて、探せば何所かにあるのかと思うが……とりあえず、パンはあるので、パンを食べさせれば大丈夫か?……と、そう思う事にした。
お風呂から上がった後、食事にする事にした。用意したのは、アズの実を混ぜたアズパンと、肉パン、それにちょっとした味付けを施した我が家オリジナルのパンを用意して、リアネと一緒に食事する。
黒猫のクロにも、パンを与えてみたが、全く食べる様子が無かった。
「お母さん……クロ、食べないね……?」
「そうね……」
リアネがそう言うと、クロがパンをがっつくように食べだした。けど、表情が無理して食べているって感じに見えるんだけど……それは気のせいなのか?まあ……食べたんだし、気にしない事にしとこう。食事が終わった後、扉を叩く音が聞こえたので、扉を開けてみると
そこにいたのは、バルバさんだった。
「ワトリから聞いたのでな? 戻って来たんだな」
「はい」
「ところで……本当に大丈夫だったのか?ワトリがナナは、毒スライムに飲み込まれたと聞いたんだが?」
「あ、はい、それは大丈夫です」
「そうか……なら良かった」
「あの……そう言えば、行く時に戻るのか?って聞いてきましたけど、あれってなんだったんですか?」
「あ、ああ……実はな……ナナ、勇者殿は知っているか?」
勇者殿、勇者殿ってもしかして、あの勇者君か?バルバさん、会った事あるのかな?
「えっと……勇者殿って、もしかして……魔王を倒したあの勇者殿ですか?」
「ああ、その勇者殿が、銀髪の女性を探しているみたいなのだ、ナナ、勇者殿と会った事はあるのか?」
ここはどうしよう?素直に答えるべきか?
まあ……バルバさんは信用出来る男だし……とりあえず
「あの……バルバさんは、その勇者殿に私の所在を教えたりするんですか?」
「いや、しないな、する必要も無いと私は、少なくとも思っているし」
「成る程……解りました……はい、あの勇者殿とは会った事あります、ちょっと過去ですけど」
「ほう、それで?」
「まあ……簡単に言うと、あの勇者殿は私を求めているのだと思います。求婚されたので」
「そ、そうなのか……あ、じゃあ」
「はい、私は勇者殿の求婚を断りました。けどあの勇者……まだ諦めていないみたいですね……」
「成る程……何で求婚を受けなかったのだ? 勇者と言うのだから、それなりに優遇される存在だと思うのだが」
確かにそうだと思う。
けど、顔が嫌だったし、あの当時は結婚する気なんか全くないというか、今もあの勇者君と結婚しようって思ってないので
「そうですが、私は嫌でしたので、それに今は……リアネがいるので」
「そうか……解った、もしあの勇者殿が現れたら、適当にはぐらかすぞ?では私はこれで、あ、そうだ、明日、仕事場で良い物を渡すから、ちゃんと仕事場に来るようにな?それではな」
そう言って、バルバさんが立ち去る。
良い物?一体何なんだろうな……と、思いながら、今日は、もう寝る事にしたのであった……
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