第87話 ロークアットとの一騎打ち

 ソレルに続きイバーニを倒した諒太。ようやくロークアットとの一騎打ちに持ち込めると考えていた。

 しかし――――。


「リョウ、近衛兵に何をするんだ!?」

 そういえばアクラスフィア軍には面倒臭い人間がもう一人いた。

 戦争を終わらせることに同意したフレアであったものの、同胞が切り裂かれたとあっては黙っていられないようだ。


「フレアさん、全ては戦争を終わらせるためです。無能な坊ちゃんには退場してもらうだけ。貴方も大人しく見ていてください……」

 あとはロークアットと一騎打ちするだけであったはず。けれど、簡単には諒太が望む展開とはならなかった。


「マキシミリアン、剣を貸せ! この外道を僕は切らねばならない!」

 イバーニはふらつきながらも立ち上がり、フレアに剣を貸せと命じている。

 騎士道の真髄とは負けを認めないことかもしれない。力量差は明らかであったというのに、彼もまた諦めようとしなかった。


「イバーニ、お前は弱い。それを受け入れろ。兵が見る前で醜態を晒さぬよう配慮したんだぞ? 知ってるだろうが、俺の本領は魔法士。お前を輪廻に還すくらい造作もないことだ……」

「うるさい! 近衛兵として僕は引けない! 逆賊の首は必ず落とす!」

 フレアの剣を奪い取ると、イバーニは斬り掛かってきた。アクラスフィア王国では敵なしであった彼であるが、怒りに任せて攻撃を仕掛ける様は凡庸そのものだ。


「仕方ねぇ……。ならば自身の弱さを晒せよ、イバーニ!」

 余計な恥を掻かせることになった。無様に寝転がったとして知ったことではない。諒太は斬りかかるイバーニの動きに集中していた。

 自身も踏み込みながら、ギリギリのところで躱す。懐に飛び込むや、諒太は柄頭をみぞおちに打ち込んでいる。

 恐らくはカウンター判定となったに違いない。柄頭ではあったけれど、それだけでイバーニは瀕死に近いダメージを負ったはず。

 もう彼が立ち上がることなどないだろう。キャスティング外であるイバーニはこれにて退場となるはずだ。


「ぅ……ぁ…………」


 イバーニは静かに倒れ込む。やはり面倒な騎士は黙らせるに限る。意識があると彼らは死ぬまで剣を収めようとしないのだから。


 諒太がイバーニを返り討ちにしたことには両軍が面食らっていた。

 スバウメシア兵と戦うだけではなく、アクラスフィア兵とも戦うだなんてと。けれど、それはプラスに働いている。戦争を終わらせようとする諒太の意志を感じ取れたことだろう。


「アクラスフィア王国兵! 俺は勇者リョウ! ここから先は手出し無用! 俺はどちらの国にも与しないし、両国の誰も殺めない。ただ無益な争いを終わらせたいだけだ!」

 まずはアクラスフィア王国軍に。邪魔をすればイバーニのようになる。諒太に対して剣を抜けば、完膚なきまでに叩きのめされると分かったことだろう。


「次にスバウメシア聖王国兵! 俺は戦争を止めたい。死にたいのなら戦ってやるが、それは俺が望む結末じゃない。君たちはここで引き返してくれ。俺は如何なる種族の争いも許すつもりがない」

 一帯は静まり返っていた。誰もが諒太の話に聞き入っている。この場には一万という兵士がいたというのに、気味が悪いほどの静寂に包まれていた。


 沈黙を破ったのはロークアットだ。ここが計画遂行のタイミングであると判断したのだろう。

「わたくしたちはおいそれと帰るわけにはなりません。これでもわたくしは侵攻軍の大将を女王陛下より仰せつかっております。国へ戻るにも明確な理由が必要。貴方が戦争を止めたいのであれば、わたくしに勝利することが必須であります」

 流石はロークアットである。完全に一騎討ちの流れだ。ズレ始めていた計画を彼女は立ち所に修正してくれた。


「ならばロークアット・スバウメシア。俺と一騎打ちをしよう。君が勝てば好きにするがいい。だが、俺が君に勝てば、スバウメシア軍は撤退。それで構わないな?」

「セイクリッド神に誓って……。わたくしの敗北であれば貴方様に従い、我が軍は撤退いたしましょう」

 すんなりと一騎打ちが決定する。前座ともいえる二つの戦闘が兵たちに四の五の言わせなかった。

 アクラスフィア兵もスバウメシア兵も今やただの立会人だ。諒太とロークアットの一騎討ちを見届ける役目しか彼らにはない。


「いきますよ!」

 大盾を装備したロークアットから攻撃が始まった。杖を持っていないというのに、彼女は空弾を幾つも生み出し、それを一斉に撃ち放つ。

「切り裂け、エアァバレット!!」

 どうやら諒太はロークアットを甘く見ていたらしい。いきなりBランク魔法の無詠唱連打とか少しも考えていなかった。


「金剛の……」

 咄嗟に金剛の盾を発動しようと思うも、それは叶わない。

 諒太はロークアットの全力攻撃を一身に浴びることになってしまう。なぜなら想定外のコールが脳裏に鳴り響いたから。不意に届いた通信コールに驚いて、彼はスキルを発動できなかった。


【着信 九重夏美――――】

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