げきじょう

有栖川龍輝

第1話 相談

今月10日に丸山令佳さんが何者かに後ろから刃物を刺されて、死亡した事件で、住所不定無職の赤城賢一容疑者が殺人の容疑で逮捕されました。赤城容疑者は取調室で、「この女が俺を見下しているから殺した、この女が悪い」などと供述しており警察は容疑者と丸山さんとの間で_


テレビの音がいきなり消える。来見たえがテレビのリモコンを握っていた。

「恐いわね、日本は治安が良いと言われているけど本当かどうか疑いたくなってくるわね、全く」

「それを俺の前で言ったところで俺はそれにそうだなということはできないぞ、たえ」

「あら、ごめんなさいね」とたえは少し申し訳なさそうに言った。


二人はたえの家のリビングでコーヒーを飲みながら話していた。季節は11月。今日は風が強く、庭には色付いた葉っぱがカラカラと揺れていた。


「でさ、話し聞いてる?良子のやつ俺のことすっごいバカにしてくるわけ」

「聞いてるよ木戸くん。んーなるほど、それは酷いわね」

「でしょ?もう本当にさあ、…」


何度この話をするんだろう、と来見は思う。彼が言う良子さんのことは何度も聞いている。良子さんとは彼が今活動している演劇クラブの同僚のことだ。そしてその彼女が、バカにしてくるとか、陰ですごい罵詈雑言を吐かれるとかなんとかでいつもその話をする。正直同じ話ばかりで苦痛に感じることもある。しかし、彼は少し狂っているところがある。だから、私が話を聞いて、しっかり支えてやらなくては。彼女はそう思っていた。


木戸は過去に人を殺したことがある。彼が大学の頃入っていたフットサルサークルで、彼のことをずっと弄ってくる奴がいた。彼は何度もやめろと訴えたが弄りがなくなることはなかった。木戸は、1カ月後に控えている大会が終わったら、サークルをやめようと思っていた。しかし、不幸なことに大会3日前、河川敷で事件は起きた。その日彼らは河川敷で練習をしていたのだが、彼は遂に弄りに限界をむかえ、近くにあった石で思いっきり、弄ってくる奴の側頭部を殴った。

ほんの一発であったが、運悪く彼は死んでしまった。


来見は彼とは事件前から知り合いで、サークルのことについても相談を受けていた。しかし、彼を止めることはできなかった。だから、今度こそは彼を救ってみせようと彼女はしていた。


彼女は相談屋たるものをやっていた。人の話を聞いて、悩みを解決すると言うものであった。彼女は駅の近くで活動していた。心理カウンセラーが夢だった彼女にとっては、人の話を聞いて悩みを解決することは何よりの幸せだった。


彼女にとって、彼を救えず、激情に走らせてしまったことはとても悔しかった。


大抵の人は私のところに悩みを話しにくるともう来ない。一度で私が解決してあげられるからだ。しかし、彼は違う。人を殺してしまうほど、精神が弱い。だから、私が助けなければ。今度こそは救ってやるんだ。


彼女は本気でそう思っていた。彼のためなら、薬のお金だって厭わなかったし、こうやって家に招いて何度だって話を聞いた。


「ありがとう、落ち着いたよ、また来るよ」先程まで、文句を言っていた木戸だったが、コーヒーを飲み終えるとそう言って帰っていった。

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げきじょう 有栖川龍輝 @Arisu_gawa

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