第9話  罪と山車 8

 ネルケはメグと一緒に川に行き、粘液回収。

 その間に、いくつものバケツに、濃淡数種類の赤系統の色を付けた水糊を用意する。

 ブリュックとジンジャーは、貼り付ける紙の用意をする。

 全体の指揮をダンが取る。


 水糊の準備が出来ると、すぐにそれぞれ張り子の作業を始める。

 低い所は、ブリュックとジンジャーと、粘液を絞り尽くしてきたメグが担当する。

 メグには、おやつの後、また粘液を絞り出して貰わなければいけない。

 中間は従業員のおじさんと、ネルケ。高い所はエドとダンが、ギイの触手に支えられて作業する。

 

 土台作りと、足場作りが無いだけで、かなり作業のペースは速く進んでいる。

 おまけに、竹で編んだ土台だと、かなり丁寧に紙を貼らなければいけないのに、すでに立体の貼り付けるべき面があるのだから、貼り付けるのも簡単にできる。


 最終的に、夕方までに、雑にではあるが一通り貼り付ける事が出来た。

「明日は、丁寧に仕上げで貼り付けよう」

 一部分は、メグの粘液を硬化させて、支柱としてみた。ハケで粘液を一直線に塗っていき、塗った所の一部をメグが触ると、一瞬で固まる。これを交差させて網状にしていけば、完全に骨組みとして機能する。

 ダンは確かな手応えを感じていた。

「それは良いけど、ギイ、明日までこのままでいられるのか?」

 エドは、表面をすっかり赤い紙で覆われたギイを、心配そうに見る。

「今日も少しも動かないで良い子だったよね」

 ジンジャーはアイにもギイにもすっかり慣れて、ダンの肩から垂れている、ギイの触手を、手を繋ぐように握る。

「おなか空かないんですか?」

「ウチはおなかペッコペコやわ~」

 ブリュックの言葉に、メグが自分のおなかを押さえて言う。

「ご飯はアイが食べるよ。それで2人に栄養がいくらしい」

 ダンが答えると、ギイが抗議するように、小さな口をショルダーアーマーの表面に出現させた。 

「じゃあ、3人で食べようか」

 ダンが苦笑する。

 ダンは今日はこの倉庫に泊まる事にしている。

 アイとギイを借りておいて、倉庫に置きっ放しには出来ないからである。

「じゃあ、後で食事を持ってこよう」

 従業員のおじさんが笑顔で言う。

「それはいいけど、みんな真っ赤で、カピカピになっているよ」

 ネルケが笑う。

 みんな、赤い染料で、手も顔も、服も、赤く汚れている。

「ああ~~!ダンに作って貰った服なのに!!落ちるやろうか?!」

 メグがショックを受けているので、ネルケが首を振る。

「洗っておいてあげるけど、多分無理じゃないかな」

「・・・・・・まあ、ええか。ダンは他にももう一つ服を作ってくれたから」

 メグの言葉に、ネルケはキッとダンを睨んだ。

「エド~。帰る前に手や顔を洗う水を持ってきておいてくれないかい?」

 ダンはそんなネルケの様子に気付かずに、情けない声を出す。





 翌日は学校がある。

 エドも、ネルケもブリュックも学校に行く。

 ジンジャーは、1人では手伝いに来させる訳にはいかない。 だから、メグと2人だけで午前中は作業をすることになる。

 従業員のおじさんも、今日は仕事が忙しいようだ。


「みんなおらんから、これでええやろ?」

 メグは倉庫に入ると、すぐに服を脱ぎだして、最初に出会った時のような恰好になる。

 今日はダンも何も言えない。何故なら、ダンも暑さのあまり、上着を脱いで上半身裸だったからだ。

「しかし、ここ暑いな~」

 メグが不思議そうに倉庫内を見回す。外との温度にかなり差がある。

「うん。ギイが体温を上げて、糊が早く乾かすようにしてくれたんだ」

 言われて、メグが貼り付けた紙の表面を触ってみたら、しっかり乾燥していた。

「すごいな~。これなら今日にでも完成しそうやん」

 メグの言う通り、今日中に完成するだろう。

 早速2人は作業を始める。

 今日は糊を濃くして、しっかり綺麗に貼り付ける様に気を付ける。色も考えながら貼っていく必要がある。

 ダンは、丁寧に指示しながら、下の方から貼っていった。 





 夕方になる頃には、ついに全て綺麗に貼り終え、メグの粘液を固めて、骨組みも完成した。

 赤い炎が吹き上げている様子の、大きな張り子が完成したのだ。

 後は、もう一晩、ギイに乾かして貰って、乾いたらギイを収納する。

 それから台車に乗せて固定したら完成である。

 後は当日、虎の張り子と合体させるのだ。

 ダンは、今日も倉庫に泊まり込む。

夜には、ルッツとマッシュが手伝いに来たが、すでに完成寸前の山車に驚いて、手を出すべきでは無いと判断して帰って行った。

 ダンはずっとショルダーアーマーを装備したままだったが、それにより疲れる事は無かった。むしろ、快適で、ずっと装着していたいくらいの気持ちになっていた。

 ただ、ダンがショルダーアーマーを持っているからには、その間、パインの護衛はいない事になる。それが気掛かりだった。

ギイは、身じろぎ一つせず、よく頑張っている。

 パインが山で暮らしていた時には、家の代わりをしていたので、動かない事は平気なのだそうだ。その頃にはアイはいなかったらしい。

 アイは、普段はパインの護衛とショルダーアーマー内の荷物の番。ギイは攻撃や、移動など、幅広く活躍しているそうだ。

 今回のアイは、時々顔を出して、ボンヤリ作業を眺めたり、アーマーの中で寝たり、ジンジャーと遊んだりしているだけだった。

「明日には、パインの元に帰してあげられるからね」

 ダンはアイとギイにそう言った。

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