第6話  素材集め 5

 学校が終わると、ダンは仲間たちに声を掛けて、自宅の裏庭に集まった。

 集まったのは、エド、ブリュック、ネルケ、レオンハルト、リオ、アンナマリーだ。

「みんな。パインの為に頼みを聞いて欲しいんだけど」

 ダンがそう言うと、言葉をさえぎるようにエドが言う。

「それは聞いているよ。だからみんな集まったんだろ?!」

 みんながどっと笑う。

「つまり、素材集めを手伝えば良いんだよね?」

 レオンハルトが穏やかに言う。今日はクラスの女子とピクニックに行く約束をしていたはずなのに、断ってこっちを優先してくれた。そもそも、レオンハルトはピクニックには乗り気じゃ無かったようだ。

「そうなんだ。素材がちょっと多くて1人じゃ厳しいんだ」

 ダンが苦笑しながら言う。

「なんでもやるぜ!」

 エドは張り切っている。薬作りの材料集めで、怖い思いもしたのに、今となっては楽しい思い出になっているようだ。それは実際にハチに刺されたダンからして同じ気持ちだ。

 それで、必要な素材をみんなに知らせる。


 例の黒っぽい石。結構沢山。

 セワニナの幼虫。瓶にいっぱい。

 マムシ。1匹。

 竈の煤。バケツ2杯。

 石灰。と言うよりも貝殻バケツ5杯。

 アルコール度の高い酒。瓶一本。

 シトメイワナ。大きめの1尾。

 黄緑色の髪の毛。少し。

 キンモクセイの花。瓶にいっぱい。



「ダン。1つ良いかな?」

 レオンハルトが説明を受けた後、静かに手を挙げる。言われなくても分かっているし、とても言いにくい事だった。

「『黄緑色の髪の毛』って、つまり姉さんの髪が必要だって事だよね?」

「た、多分・・・・・・」

「少しって、長さ?量?」

 ダンは人差し指を伸ばして言う。

「この指くらいの長さと量・・・・・・かな」

 非常に言いにくい。テレーゼの髪を切って欲しいなんて、かなり酷い事を言っている気がする。

 それに、テレーゼの髪なら、ダンもお守り代わりに欲しい位だ。

「・・・・・・そっか」

 レオンハルトが静かに頷く。

「じゃあ、ボクは髪の毛と、シトメイワナでも釣りに行くよ」

 レオンハルトは怒るでもなく、柔らかく笑ってそう言った。


「じゃあ、俺はマムシだ!マムシ捕まえるのは得意だ!」

 エドが言う。一応言っておくが、マムシは毒蛇だ。咬まれたら中々大変だ。しかし、確かにエドなら適任だし、ダンもエドに頼むつもりでいた。


「あたしは!あたしは、ドワーフだから力仕事得意だし、石運びだね!」

 ネルケが張り切って言う。

「助かるよ。じゃあ、僕と一緒に石探しをお願いするよ」

 ダンの返事に、ネルケがニコニコ笑顔で頷く。


「ねえ、ダン。待ってよ!キンモクセイの花って、時期的にもう少し先にならないと咲かないんだよ!」

 さすがに花屋のアンナマリーは花に詳しい。キンモクセイの花は、この辺りでは6月後半から7月にかけて咲く花だ。

「普通はそうなんだけど、灯台の方に、『早咲きキンモクセイ』があるらしいんだ。僕も実際はどうなってるか知らないけどね」

 あくまでもパインが見せてくれたイメージでの話だ。

「じゃあ、あたしキンモクセイ探してくる!」

「1人で平気ですか?」

 リオが尋ねると、アンナマリーはハッとしてたじろぐ。

 まだ6歳のアンナマリーにとって、灯台付近に1人で行くのは怖い。

 途中までは表通り(世界の大街道「リア街道」なのだが)が通っているが、灯台付近に行くには、その表通りから道を逸れ、一気に家が無くなっていく丘の細道を行かなければならない。

「じゃあ、僕がセワニナを集めるから、一緒に行きましょう」

 リオが提案する。セワニナの幼虫は、細長く、沢山節が別れた気持ちの悪い幼虫で、成虫になると、金色の羽根の美しいカゲロウになる。

 ドラゴニュートはセワニナの幼虫を食べるのが好きだから、リオがやってくれるだろうとは思っていたので、ちょうど良かった。

「うん。でもあたしは幼虫触らないよ!」

 アンナマリーはそれだけは断固拒否した。


「じゃあ、竈の煤はボクかな?」

 ブリュックが言った。

「掃除が得意だから、お前にぴったりだな」

 エドは、誇らしげにブリュックの肩を叩く。


「後は、酒と貝殻だな」

 エドが言う。

「じゃあ、貝殻は俺が集めるよ。マムシを捕まえるのなんかどうせすぐ終わるからな!」

 エドが引き受ける。ダンだったら、マムシを探すところから苦戦していただろう。

「じゃあ、お酒は僕が持ってきます。神殿のお供えとしてもらっていますが、飲む人もいないので余っているんです」

 リオが手を上げて言う。

 

 分担すれば、何だか1日で素材が集まりそうだ。

 それぞれ一度家に帰り、準備をしてから素材集めに向かう事となった。




 ダンはネルケと坂道を歩いている。

 また川の上流に行くのだが、今回は階段は使わないで、遠回りとなる坂道をひたすら歩いている。

 なぜなら、石を沢山運ぶための台車があるからだ。

「軽い、軽~い!」

 台車を押すのはネルケだ。鼻歌交じりの上機嫌さで台車を押しながら登っている。

 一方でダンは、既に汗びっしょりでハアハアと荒い息をついている。


 ネルケが押している台車は、パインが作ってくれた車輪を取り付けた特別製で、改良されたブレーキもしっかり付いている。

 台車の持ち手にレバーが付いていて、指で軽く引くだけで、しっかりとブレーキが掛かる。勿論、ブレーキの掛かり具合も、指の力の強弱でコントロールできる様になっている。

 荷物を沢山運べるように、荷台部分の囲いも高い。

 荷台が重くなっても、この車輪は軽い回転と、地面からの衝撃を吸収してくれるので、かなり楽に坂道を登っていくことが出来る。


「ネ、ネルケ。君と・・・・・・一緒で、良かったよ。・・・・・・ちょうど、話が、あったんだ」

 息を切らしながらも、ダンはネルケに笑顔で伝える。

 すると、ネルケはニヤニヤして、既に限界が近いダンをヒョイと片手で持ち上げると、台車に乗せる。

「ちょ、ちょっと!?」

 ダンが叫んだが、ネルケは鼻歌を歌いながら台車を押して坂道を登っていく。

「ダン。これなら疲れないよ~!」

 ダンが乗ったくらいでは、ネルケが台車を押す負担にはならないようだ。

 ダンは確かに楽になったが、これはこれで何だか恥ずかしい。周りの人たちも、クスクス笑っている。

「それで、話って何?」

 ネルケは全く気にすること無くダンに問いかける。

「う、うん」

 ダンは諦めて話し始めた。

「ネルケはさ。とっても料理が上手だろ?」

 まだ9歳ながら、ネルケは料理が上手で、色んなレパートリーがある。

 言われたネルケの褐色の頬に朱が差す。今も、一瞬家に帰った時に、ダンとおやつとして食べるためのパンケーキを作って持ってきていた。

 そもそも、ネルケはダンが台車を使いたいから石探しをすると践んで、石探しに立候補したのだ。

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