第4話  ダンとエド 3

 いくつかの階段を上り、ようやく分水所に着く。

 大きなレンガの施設の横を通り抜けると、やがて、自然な川の流れにたどり着く。リンド川の果てがここで、ここからは、ルブープ川となる。

 本来の川である、ルブープ川は、ここから大きく南に曲がり、ヘルネ市よりも10キロメートルほど南の位置から海に流れ込んでいる。


 自然の河原は、大小の石が転がり、川の両岸は草木が生い茂っている。

 ダンは、黒い石を探しに、ここまで何往復もする苦行をしていた事を思い出す。


「じゃあ、エドは川藻とシジマレンゲの花を集めてきて。量は、川藻はこの瓶一杯分。シジマレンゲはこの袋一杯にだよ」

 そう言いながら、エドに袋と瓶を渡す。

「おう。任せとけ!!」

 そう言うと、エドはすぐに靴を脱いで川に入っていった。

「流れがあるから気を付けて!!」

 何度も来た事がある場所だったが、一応ダンは注意する。

「心配するな!」

 エドも心得たもので、慣れた様子で川の中を歩く。



 ダンはそれを確認すると、川の上流の斜面に向かう。途中でシジミレンゲソウも見つけたが、これはエドに任せる事にする。

 シジミレンゲソウは、ピンクの小さい花を咲かせる、この時期に咲く花で、よくポーションの材料として利用されている。

 

 ダンがまず探すのはトリカブトだ。

 秋になると紫色の小さな花を付けるが、今は葉っぱだけである。

 細かく枝分かれした葉っぱが、花びらのように広がって付いている。

 食用のニリンソウと似ているが、トリカブトは猛毒である。

 パインが額の目で教えてくれた知識では、この辺りに自生しているはずだ。根っこごと3本必要とのことだ。

 

 ついでにヤシラカサダケは白っぽいキノコで、カサが大きく、とてもおいしそうだけど、食べたら腹痛、幻覚、嘔吐、痙攣。最悪の場合は死に至る猛毒キノコだ。

 それは更に斜面を登って、木が生い茂っている所まで行かなければいけない。

「毒なんて、薬に使って大丈夫なのかな?」

 そう思ったが、薬の作り方なんてダンは微塵も知らない。それに、パインは魔具師だ。普通の作り方では無いのだろう。

 実際にも薬には毒はよく使われている。要は量と、処理と、組み合わせと、症状である。



 

 2人で分担したおかげで、1時間もしないうちに必要な4つの材料が手に入った。

 

 


「さあ、後はスズメバチの巣だよな・・・・・・」

 エドが息を飲んだ。

「エドはスズメバチに刺された事はあるかい?」

 ダンが尋ねる。

 スズメバチに刺されると、メチャクチャ痛いが、それだけでは無く人によっては毒液で死んでしまうと言う。

 人によらずとも、沢山刺されたらショックで死んでしまう。

 初夏の今は、まだそれほど攻撃的では無いが、巣に危害を加えようものなら、容赦ない攻撃が来るのは間違いない。

「刺された事なんて無いよ!」

 エドは首を振って答える。

「・・・・・・僕はある」

 手が倍に腫れ上がって、数日痛かった。だが、毒液で死ぬ体質では無さそうだ。

「手は考えているから、エドは離れたところで待機していて欲しい」

 ダンがそう言うと、エドが首を振る。

「ダメだ!俺が巣を採る!」

 エドの気持ちは受け取るが、もしエドが毒に合わない体質だったら、ここから病院まで急いで戻ったとしても間に合わない。


「まずは巣を見つけてからだよ」

「・・・・・・そうだな」

 2人でうなずき合って、ダンとエドは、手分けして斜面を探して回った。


 しばらくすると、エドの声が響く。

「ダーーンッ!!見つけたぞ!!」

 さすがに山野を走り回って遊んでいるエドは、見つけるのも上手だ。多分、飛んでいるスズメバチを追跡して見つけたのだろう。

 ダンは声のする方に急ぐ。

「こっちだ!」

 エドの姿が見える。斜面の上の方を指さしている。

 ダンは駆け寄って、エドの指し示す方を見ると、低い木の枝の下に、確かにまだ小さいがスズメバチの巣があった。

「良かった。地面の中の巣だったら大変だったから・・・・・・」

 そこにあった巣は、ダンたちが採るにはちょうど良い高さの枝にぶら下がっていた。

 とは言え、問題はどうやって採るまでに至るかである。


 ダンは、背負ってきたリュックから冬に着る長袖の上着と、長ズボンを取り出し、今着ている服の上から着込む。

 それから、麦わら帽子をかぶって、その上から目の細かい網をかぶって襟の中に端を押し込む。

 そして、革のぶかぶかの手袋を身に着けた。

「おい・・・・・・。そんなもので防げるのか?」

 エドが不安げに言う。

 防げるわけが無い。でも、多少はマシだろう。

「大丈夫だよ。それより、エドは袋を構えて離れていて。袋の口を大きく開いておいてくれよ」

 手渡された袋を見て、エドは頷く。

「それから、袋に巣を放り込んだら、一目散に逃げるから、荷物も持っていて」

「分かった」

 エドが頷いたので、ダンはトリカブトを採るついでに手に入れておいたヨモギの葉を取り出す。

 既にヨモギの葉は、乾いた小枝と一緒にグルグル巻きに縛って束にしている。

 その束は2つ。1つは上着のポケットに押し込んで、1つは右手に持つ。

 左手にはパインに貰った火付け棒を持つ。

 ダンが火付け棒のスイッチを押すと、筒の先から勢いよく火が出て、すぐにヨモギの束に火が付く。

「何だそれ?!すげぇな!」

 エドが目を丸くするが、今は説明しているだけの余裕は無い。

「エド。下がっていて」

 言われて、エドは慌てて巣から距離を取ると、退路を確認しながら、袋を大きく広げる。

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