荷物

@mia

第1話

 家具も荷物を詰めた段ボール箱も運び出されていて、この家にはもう僕が住んでいたことが分かるものが何もない。

 妻子の物は何年も前に無くなっていたが、自分も同じになるとは思っていなかった。

 何もかも無くなった部屋にいると、死にたくなった。


 そんな気持ちになると突然、左の手のひらが裂け血が流れ落ちる。

 床についた血は、一本の筋となって壁に向かっていく。

 てのひら、床、壁へと続く赤い筋。

 床、息子がハイハイし始めたときにはゴミ一つ無いように妻と二人でやたらと神経質になっていた。


 壁に流れ着いた赤い筋が壁を上っていく。

 手のひら、床、壁、天井へと続く赤い筋。

 壁、息子がクレヨンで落書きをしたのを惜しみながら消した。撮影したデータはPCにある。何を描いたかは分からないが、色遣いは素晴らしかった。


 天井にたどり着いた赤い筋は天井を伝い、僕のいる方に向かってくる。

 そして、僕の目の前に垂れ下がってきた。

 手のひら、床、壁、天井、僕の目の前へと続く赤い筋。

 天井、プラネタリウムを映して三人で川の字になって見た。今は二人でみているのだろうか。


 目の前の赤い筋の先端が輪を作ったとき、自分が何をするべきか悟る。

 クビヲククレ。


 両手を伸ばすと突然、右の手のひらが裂け血が流れ落ちる。

 床についた血は、一本の筋となって別の壁に向かっていく。

 てのひら、床、壁へと続く赤い筋。

 壁に流れ着いた赤い筋が換気口を通り抜けていく。


 どこへ行き何をするのか、僕は知っている。

 僕たちをこんな目に合わせたあいつのところへ行くんだ。



 


 

 


 

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