Exー⑦

 エゲツナー帝国を退けた英雄えいゆうとして、英雄とリックは人々の賞賛に包まれながら帰還した。しかし、リックはすぐに軍を辞めたのだった。


「すみません。あなた一人にヒーロー役を押し付けてしまって……」


 喪服姿の英雄とリックはタクシーの後部シートに並びながら、空港を目指す。


「気にするな」


 通夜がまだ続いているかの様な空気が車内に流れる。二人は日本国防軍本部のある東京は新宿区市ヶ谷で行われた縁の葬儀に出席した後だった。その会場に縁の遺体は無かった。彼はこの世に何一つ遺さず消滅してしまったのだから。


「……強いですよ。ヒデオは」


 リックは葬儀の場で英雄が縁の母に何度も頭を下げ、大の男が泣きながら謝る様を見た。何もかもかなぐり捨てて逃げ出したい事だろう。


「クリス達に比べれば、僕達の損失はまだ安いですね……」


 義足となってしまった右足を押さえるリック。


「ああ……」

 

 そう返す英雄は、体こそ五体満足だが精神こころを酷く損傷してしまった。MMSのコクピットに乗る事を体と心が受け付けなくなったのだ。


「俺はMMSの整備兵として国防軍に残ろうと思う。エゲツナー帝国はいつかまた来るだろう。それまでに自分に出来る形で戦う人間を支えなければならん」


「僕は日本国防軍から外部嘱託員として参加の招聘を受けました」


 リックの報告に英雄は驚いた様に彼の顔を見る。


「エゲツニウムや次元穴の研究部門として各国から要請を受けましたが、フジヤマの研究所を選ぶ事にしましたよ」


 その研究所は英雄と浅からぬ関係があった。


「ナナさんの事は心配しないでください。ぼくがいる限りモルモットにはさせませんから」


「すまない……」


 暫くの沈黙の後、リックが再び口を開く。


「次はタイワン、その後はアメリカですね」


「ああ」


 二人は成田空港に着いたら台北、その後はワシントンに飛ばなければならない。台湾民主国ではタマの、アメリカではクリスの葬儀に参列する為だ。縁と同じく遺体の無い葬儀。そこでまた彼らの遺族や軍の関係者達に謝るのだ。


「行きたかったですね。烏山頭ダムも、マクダネルズも」


「ああ……みんなで行きたかったよ」


「ナナさんはぼくが治してみせますから、ヒデオはいつか彼女とオーストラリアに来てください。カモノハシもタスマニアデビルも見せてあげますよ」


「そうだな。そのためには世界を平和のままにしておかないとな」


「ヒデオもいつか家庭を持つかもしれませんから、お子さんも笑って過ごせる世界を作りましょう!」


 二人を乗せたタクシーは成田空港を目指し、進む。三年後に訪れる脅威を二人はまだ知らないが、その時に訪れるのは絶望だけではない。黒鼈タルタルーガ救星主メサイア、来満英雄はタクシーの中で暫しの眠りに就いた……


 

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