終ー③

─富士秘密研究所


 英雄達が飛び去った後、その場に残ったナナとリック、 そしてムスメサイア達はキリンオーとエゲツナーが別の次元へと転移する様を目の当たりにした。


「どがしよう!パパ達、どっか行っちゃった!?」


「落ち着けセリカ!」


「けど、セリカさんが心配する気持ちも解りますわ」


「拙者達は父上の力になる事が何一つ出来ぬでござるか……?」


 その時だった。


「!?」


 芹佳達の頭上で、空が裂けた。


「次元穴?いや、違いますね……振動も何もなかった」


 リックがその異様な裂け方をした空を見て言う。


「エゲツニウムによるものじゃないわ。だって、あんな本のページをめくるみたいな裂け方なんてしないもの」


 この場でエゲツニウムについて一番よく知るナナが説明する通り、その光景は異様であった。そして……


「やっほー」


 緊張感の無い声が響き渡ると同時に、次元の裂け目から現れたのは黄金の巨人。


「金ピカの……」


「キリンオー!?」


 芹佳とシアが例える通り、それはキリンオーによく似た巨大ロボットだった。


「よく見ると少しデザインが違いますわね」


「胸の所に獣の顔が無いでござる!」


 ユリーナとえつ子がそう言った直後、黄金の巨人は着地し、胸の辺りが大きく開く。そして、中から現れたのは一人の少女だった。ピンク色の髪をサイドテールに纏め、カッターシャツの上にオレンジ色のカーディガンを羽織り、水色のチェック柄ミニスカートにルーズソックス、ローファーという出で立ちであり、何より……


「あの子の顔、芹佳達そっくりじゃない?」


 ナナが言うよりも、 芹佳達は同じ存在であるが故にピンク髪をした少女が何者か、ほぼ感付いていた。


「第五のムスメサイア、ヒナコ・ライマン、華麗に登場~!!」


 ヒナコと名乗った少女は金色の巨人を屈ませると、その掌を胸元に移動させ、そこに跳び乗る。地上まで下ろされた鋼の掌から、ヒナコは降り立つ。


「やあセリカっち!久しぶり~」


 芹佳に対し、さも顔見知りであるかの様に手を振るヒナコ。


「誰よアンタ!?」


「えーっ?あたいの声に聞き覚えなーい?ホラ、 『行きなさい、セリカ。そして産まれなさい。愛する両親の元へ…』って」


 その言葉に芹佳は思い出す。


「ああ!ウチが消えとった時に聞こえた声!!口調が違うけん解らんかったわ!」


「あはは。あの時はそれっぽくキャラ作りしてただけだよ〜ホラ雰囲気って大事じゃん?」


 自分たちの知らない話題で話す芹佳とヒナコに対し、ユリーナ、シア、えつ子は困惑する。


「セリカ、その子と知り合いなのか……?」


 シアが芹佳達に尋ねる。


「そだよ。シアぽん」


「ぽん!?」


「ユリリンにえっちゃんもシクヨロー」


「しくよろ!?」


「初対面で何を勝手に変な渾名を付けてますの!?」


 いきなり現れた、更なる違う世界の自分に戸惑いつつもムスメサイア達は、彼女の話を聞く事にした。


「今、みんなのお父さん達は遠い別のところでラスボス相手に戦ってるワケじゃん?でも、もの凄い苦戦してるから、助けに行きたいよね?」


 ヒナコの正体は謎のままだが、彼女の言う事は事実である。 芹佳達は首を縦に振り、頷く。


「あたいのダディも一緒に戦ってるから、みんなで助けに行こうよ!この“タンジェロン”で!」


 ヒナコは背後で膝をつく巨人を指差した。


「タンジェロン?」


「そ!タンジェリン・シェンロンの略でタンジェロン!さっき来たみたいに、この子の力なら一瞬でダディ達の元へ行けるんだから!!」


 突如現れた、新たなるムスメサイアを名乗るヒナコに若干戸惑いつつも、芹佳達は互いに顔を見合わせ、各々の意思を確認する。そして、4人は右手の小指を立てた。


「あ、『ゲンマン』!あたいもやる~!」


「何で知ってるんだよ!?」


 シアの問いは無視し、ヒナコを加えた5人のムスメサイアは互いの小指を突き合わせる。


「ママ!」


 芹佳はナナの顔を見る。


「ちょっと、パパのお手伝いしてくる!!」


「あなたは止めたって、行くでしょうね……いいわ。行ってきなさい。そして、パパと世界を救ってきなさい!」


 芹佳の揺るがない決意に満ちた顔を見て、ナナは言った。


「ユリーナちゃん、シアちゃん、 えつ子ちゃん、ヒナちゃん、行こう!ウチらに出来る精一杯の親孝行をしに!」


5人のムスメサイア達は、 タンジェロンに乗り込む。


「機械仕掛けの鋼鉄を駆り!」


「星の危機を救う!」


「わたくし達は!」


「メサイアの娘!」


「機鋼救星~~っ」


「「「「「ムスメサイア!!」」」」」


 掛け声とともに、タンジェロンは飛ぶ。 そして再び空が本のページのごとく捲れると、 黄金の巨神は次元の彼方へと姿を消した。

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