4ー⑧

 幻舞とケツァールは次々と敵機を切り刻んでゆく。 香山と、その甲板からライゲルとドラガォンもキャノン砲やレールガンで援護するが、敵機の数は一向に減らない。


「英雄さん、アレを見て!」


 セリカがモニターを指差す。敵機の群れの奥、空中に穿たれた小さめの次元穴から、次々と大量のエゲツナーロボが現れる。


「まるで召喚魔法ですわね」


 ユリーナが喩える通り、その光景は天に浮かんだ魔法陣から怪物を呼び出す儀式の様だった。


「大元を叩かないとキリが無いって事!?あそこにブラックマンバを撃ち込むのはどうだろう?」


 シアの提案に対しセリカは、


「たぶん吸い込まれるだけで意味が無いと思うわ。 もっと大きな、吸い込めないほど質量のあるエネルギーをぶつけないと……」


 と、その意見を却下する。


「あの穴よりデカい物なんて…」


 英雄は辺りを見回す。


「......あるじゃねえか!」


 何かを発見すると、まずセリカに直接作戦内容を告げる。 それを聞いたセリカは一瞬驚くも、無線で


「ユリーナちゃん、 香山に掛けてる魔法はあとどのくらい持ちそう?」


 と聞き、


「あと10分が限界ですわ」


 と返ってくる。


「よし、 時間が無い。 えつ子、一旦香山まで退却して合体するぞ!」


「マジでござるか?」


  敵の群れの中を飛び回っていたケツァールは幻舞の元へと引き返す。


「艦長、今から幻舞とケツァールは一旦、香山に引き返します。 その間、敵がそちらに向かって来ると思いますが、何とか耐えてください!!」


 セリカからの通信に祥子は


「君たちの事だ。またろくでもない事を企んでいるのだろうが、ここはそのろくでもない作戦に賭けてやろう!戻ってこい。何とか耐えてやるさ!」


 そう言って了承する。すると幻舞はケツァールの背に、まるでボディボードで波乗りをするかの如く 「腹這い」の状態でしがみ付く。


「親父殿、セリカどの、しっかり掴まるでござるぞ!」


「えつ子ちゃんこそ、頼むわよ!」


 ケツァールのブースター『志尊奴しそんぬ』が火を噴くと、その場から急発進。更に幻舞の背中と足裏からエゲツニウム粒子が噴出し、加速する。

 猛スピードで後退するケツァールと幻舞をエゲツナーロボ達は追跡する。


「撃てーっ!敵を近付けるな!!」


 祥子の号令で香山は全砲門を開き、追ってくるエゲツナーロボ達を落とす。幻舞とケツァールが香山に近づくと、上空で待機していたドラガォンは下降、甲板からライゲルは垂直に跳ぶ。


「四獣…合神!!」


 ケツァールの背から離れた幻舞に分離したライゲル、ドラガォン、ケツァールが合体。


「キリンオーー!!!」


 合体を完了したキリンオーは額からプラズマを放ち、追ってくるエゲツナーロボ達を撃破。


「よし!作戦通りいくぜ!!」


 英雄が言うと、キリンオーは頭から海に飛び込んだ!


「なっ……!?おい来満大尉!何のつもりだ!!」


 突如として思い掛けない奇行に出たキリンオーに対し、祥子はたまらずそう叫んだ。



─海中


「キリンオーって水の中でも動けたんだな」

「今さらそれ!?」


 と、英雄とシアは言いながらキリンオーを香山の船底中央部に着かせると、両手を万歳の形に挙げ、そのまま船底を上へ押し上げ始める。


「ぬおぉぉぉぉぉぉっ」


 操縦桿を握りながら、腹の底から声を絞り出す英雄とえつ子。


「頑張って!えつ子ちゃん!英雄さん!」

「キリンオー、底力を見せるのですわー!」


 セリカとユリーナの声援を受け、キリンオーは浮かび上がる。



─香山・艦橋


「何事だ!?」


 突然の揺れに驚く祥子達。


『艦長!ちょっと揺れますよ?気を付けて下さい!』


「来満大尉か!?何が起こってる!!」


「艦長……浮いてませんか?空に」


 外を見ると、霞の言うとおり香山は徐々に宙に浮き始めていた。


「……キリンオーが下から香山を持ち上げているみたいです」


 と、藤原が無口な口を開く。


「何だとーーーッッ!???」 


 キリンオーは、まるで重量挙げか、星を支えるアトラス神の様に香山の巨体を持ち上げていた。


「一気に行くぞーー!」

「「「「おーーっ!」」」」」


 英雄に続き掛け声を上げる娘たち。


『おーっ!じゃあないッ!…まさか貴様ら、香山を敵にぶつける気じゃあないだろうな!?』


「そのまさかですよっ!!」


『貴様らーーーッ!!!』


 祥子の怒声を受け止めながら、キリンオーは香山を抱えたまま敵陣へ突っ込む。


「ユリーナ!バリアだ!!」


「了解ですわー!」


 魔力の壁を纏った香山は巨大な鈍器と化した。それに触れたエゲツナーロボ達は次々と爆発してゆく。その衝撃で艦内の乗組員達は絶叫する。


「よーし!食らえー!」


 キリンオーはエゲツナーロボを排出する次元穴に向かって香山をブン投げた。そして、飛んでゆく香山の看板に降りると肩と背中から魔力とエゲツニウム粒子を噴き出し加速させる。


「キリンオー・インフェルノ!!」


 まるでサーフボードに乗るかの如くキリンオーは香山を次元穴に突っ込ませた。香山の纏うエネルギーと衝突し、次元穴は消滅する。そして放物線を描く様に香山は海面へと落下。着水と共に巨大な波紋を巻き起こした。


「……副艦長、生きてるか?」


「はい…」


「早坂、生きてたら艦の損傷具合を確認してくれ」


「……問題無いようです」


 祥子、霞、早坂の三人は魂が抜けたかの如くその場に倒れていた。砲手の藤原は失神している。


『やり過ぎたかな?』


『いいんじゃないの?艦長だっておじさんに酷いことしたじゃん』


『おあいこって事で丸く収まるでござろう』


 無線越しにキリンオーのコクピットの会話が聞こえてきた。


「……全く、想像以上にとんでもない奴らを抱え込んでしまったな」


 エゲツナー帝国との初遭遇をメチャクチャな勝利で飾った香山。勝利の余韻とはどこへやら、祥子は英雄達にどんな仕置きをするか考えていた。

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