2ー⑨

 鋼の巨神・キリンオーは全高30メートルほどのその巨体で辺りを見回す。 既にエゲ ツナーロボ達がその周りを囲む様に配置していた。


「撃てぇーーッッ!!」


 ベーターの一声でロボ達は一斉にエゲツニウム粒子のビームを発射する。


「ユリーナちゃん!」


「了解ですわ!!」


 ユリーナが操縦席の水晶玉に魔法力を込めると、キリンオーの周囲に光の壁が展開する。 魔法によるシールドだ。キリンオーに迫っていたエゲツニウムビームはシールドに防がれ、巨神の体に傷一つ与える事は 出来なかった。


「お返しですわー!」


 キリンオーの額に集中する魔力。 ドラガォンがレールガンとして使用していたユリーナの電撃魔法である。機体を横に回転させながら、放たれる電撃は瞬く間にキリンオーを囲んでいたエゲツナーロボ達を爆破させてゆく。


「密集してはいけません!散るのですよ!!」


 ベーターの合図でエゲツナーロボ達は散開してゆく。


「バラけて距離を取れば有利になると思ったかい?えつ子、遊んでやろうぜ!」


「ござる!!」


  キリンオーは腿のブースターと、肩のタービンをフル回転させると目にも留まらぬ速さで飛行する。 その速度はケツァールの飛行やライゲルの走行に比べれば劣るものの、機体の質量を考慮すればあり得ないほどの速さである。


「ちぇすとぉーー!!」


 えつ子が吠える。 キリンオーの両腕手甲と両足のつま先には、 ライゲルの四肢に生 えていた爪が装着されている。 切る、 裂く、薙ぐ、 突く 刺す、 あらゆる攻撃動作にえつ子の格闘能力が反映されている。

「そして、こんな事も出来るんだぜ!」


 シアが言うと、キリンオーの両手両足の爪が全部で12本、 あらゆる方向に射出された。 爪と四肢は長いワイヤーで繋がれており、その全てがエゲツナーロボの体に突き刺さる。


「『戦艦に突っ込め』!」


 シアは両眼を発光させながら命じる。 彼女の電脳からワイヤーを通じてエゲツナーロボへ信号を送っているのだ。 機能を支配されたロボ達はワイヤーの拘束から解放されるなり、母艦めがけて飛行してゆく。 そして、エゲツナー戦艦へと抱き付くように密着した12機のロボ達にシアは更に命じる。


「『爆ぜろ』!!」


 12基のエゲツニウム炉が戦艦の至近距離で爆発する。 1基だけでも凄まじい破壊力を持つ爆発が1ダース分ともなれば、巨大戦艦とて無傷であるはずがない。


「イェイ!」


「ござる!」


 見事なコンビネーションを見せたシアとえつ子は、両手でハイタッチを交わす。


「二人とも、まだ終わっちゃあいないぞ。気を抜くな!」


 英雄の声にシアとえつ子はモニターの向こうへと向き直る。 そこには煙を吹き出し、大破したエゲツナー戦艦の姿があった。


「おのれ・・・おのれぇー!下等人種どもがぁーー!!」


 外部スピーカー越しに聞こえるベーターの声は、先ほどまでの気取った様子が無く、余裕の無さが伺えた。


「まぁ。しぶといお方たちですわね」


 と、ユリーナ。その前に座る英雄はマイクのスイッチを入れた。


「エゲツナー戦艦の乗員達に告ぐ。このまま降伏し、撤退せよ。 そうすれば命までは取らない」


 英雄がエゲツナー戦艦に発した勧告に対し、 最初に異議を唱えたのはシアだった。


「甘くないかい おじさん?」


 それに対し英雄は答える。


「……戦争中の軍人としては、 な。でもよ、子どもの前で人を殺せるかよ。 お前たちと闘ってる時くらい、俺にも人間らしくいさせてくれ」


 その言葉を聞いて、娘達は無言で頷いた。 彼女たちの父も英雄と同じ行動に出ていたであろうからだ。


「……我々エゲツナー人に情けを掛けるだと……? 嘗めるなよ劣等種が!!」


 ベーターが叫ぶと、エゲツナー戦艦は主砲をキリンオーに向けた。その砲塔にはエゲツニウム粒子が集中するのが見える。


「敵艦、撃ってきます ! 」


「親父殿の優しさを何だと思ってるでござる!奴らは人ではござらぬ!畜生にも劣るでござる!!」


 セリカとえつ子の言葉を聞きながら、英雄は歯を噛みしめる。 エゲツナー帝国で最も誇り高き男であろうベーターならそう答える事も想定内だったが、いざその言葉を聞けば、怒りと悲しみが沸き上がるのだった。


「ビーム砲は、わたくしが魔法で・・・」


 呪文の詠唱を始めようとするユリーナを、 セリカが止める。


「ユリーナちゃん、 ここは私に任せて」


 セリカが深呼吸し、目を見開く。すると、無防備な状態のキリンオーに対し、エゲツニウム砲が火を噴いた。


「時元転移!」


 セリカの合図でキリンオーの正面に次元穴が口を開くと、 戦艦から発射されたビー ムは全て吸い込まれていった。


「………」


 鼬の最後っ屁であったビームを異空間に飛ばされ、ベーターは言葉を失う。


「『何もない空間』 に、ビームを転移させました。 そして、今度はこっちの番です!」


  セリカはキリンオーを、開いたままの次元穴に飛び込ませ、穴を閉じた。 そして……


「私達の…父の仇!!」


 エゲツナー戦艦の頭上に開いた次元穴から、 キリンオーが急降下する。 その手には巨大な矛状の武器が握られていた。 ライゲルの尾に幻舞の刀『ヤマカガシ』と、キリンオーの翼となっていたケツァールの5枚の刃が合体し、1本の武器となっていた。


光・龍・刃こう りゅう じん!!!!」


 キリンオーは落下の重力に身を任せ、光龍刃を振り下ろした。 戦艦は文字通り一刀両断され、キリンオーが海面に着水すると同時に大爆発を起こした。


「……こんダラズが…」


 降り注ぐ戦艦の残骸がキリンオーにぶつかる微々たる感触をコクピット内で感じながら、英雄は倒した敵への感情をつぶやいた。


「……おじ様は悪くも、甘くもありませんわ」


 ユリーナの慰めに、英雄はありがとうと一言だけ返した。 情けを掛けた相手に思いが伝わらなかった事、 戦争とはいえ15歳の少女に人の命を殺めさせた事、英雄の中で煮え切らない感情が複雑に絡まっていた。

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