2ー⑧
─???
「・・・・・・ 何だここは!?」
セリカと幻舞が開けた次元穴に飛び込んだ英雄達を待っていたのは、真っ暗な闇だった。無明、無音、無謬。幻舞のカメラを通して見るモニターには無限の闇が広がるばかりで、 英雄はカメラやモニターの故障を疑ったが、
「何が起こったでござるかー!」
と、中のえつ子が言いながら飛び回るケツァールの姿を見て、機体自体は正常である事を確認した。
「ここは、 『何もない空間』……光も、空気も、生物も、時の流れすら存在しない
と、セリカが答える。
「アレを使うのに、 その場でやっていたら隙だらけだから、こんな所まで来たってわけか。 現実の敵はアニメや漫画みたいに待っちゃあくれないからね」
と、シアが言う。 英雄はアレとやらの正体に薄々感付き始める。
「そうですわね。 そして、4つの力を一つに……でしたわね?」
英雄は確信した。 複数のロボットが揃って、隙だらけで行う事など、アレ以外に考えられない。
「な、なあセリカ……アレってのはやっぱりアレなのか?」
英雄はセリカの方を振り返る。 年甲斐もなくソワソワする彼の顔に微かに浮かぶ期待の笑みを見て、彼女は微笑んだ後で、言い放つ。
「
セリカの声に反応し、 幻舞は両腕を水平に広げ、 その体を十字に。 そして、他の3機はそれぞれのパーツが分離する。
「ござる!!?」
「ライゲルの足が!顔がぁ!」
「幻舞の元に集まっていきますわね?」
狼狽えるえつ子とシアとは対照的に、ユリーナは落ち着いている。英雄は幻舞の中で驚愕と期待に心を躍らせた。 その後ろでセリカに起こった変化には気付かぬまま……
「
セリカが呼んだその名こそ、その神々しく勇ましい機体の名であった。
—駿河湾
いつまで経っても姿を現さない敵に対し、ベーターはしびれを切らしていた。
「……もういいでしょう。 街を焼き払いなさい。 再び奴らが現れた時に後悔させてやるのです! 進軍始めぇ!!」
エゲツナー戦艦は無人機のエゲツナーロボ達を伴い、陸を目指して動き始めた。
「そうはさせねえぞ!!!」
突如響く英雄の声。 すると、 上空に次元穴が広がると、穴の内側から2本の巨大な鋼の柱が現れる。 いや、それは脚である。白と赤で構成されたそれは、よく見るとライゲルの後足とケツァールのブースターが合体していた。 やがて全体像を現したその姿は、鋼の巨人そのもの。ドラガォン、ライゲル、 ケツァールら3機のパーツが分離し幻舞に装着されるように合体しているのだ。
「キリンオーか……いい名前じゃないか」
麒麟。それは地球において『泰平の世に現れる生き物」 とされる空想上の神獣に 付けられた名である幻舞達を設計した主は平和への祈りを込めて命名したのだろう。
「コクピットが一つに纏まった!?科学も物理もヘッタクレも無いじゃないか!」
シアが英雄の隣で喚く。 4機のパイロット達はキリンオーの胸、ちょうどライゲルの顔部分に集められていた。 前列に英雄とシア、後列にセリカを挟む形でえつ子とユリーナが鎮座する。
「セ、セリカどの......?」
「そのお姿は······??」
いつも陽気なえつ子とマイペースなユリーナが、セリカを見て声を震わせている。これはただ事ではないと判断した英雄とシアは同時に後ろを振り返る。
「!!?」
「セリカ…なのか……?」
セリカのヘルメットからはみ出ていた黒いロングヘアは紫色に、英雄と同じ黒い瞳は 金色に変色していた。 それは先ほど目の当たりにしたベーター達エゲツナー人の特徴と合致している。
「黒いロボットに乗る娘よ! 名をセリカと言いましたか? エゲツニウムの力で次元を超 えるのは我々『エゲツニウムに選ばれし人類』のみが行える業!!貴様はエゲツナー 人か!?誇り高きエゲツナー帝国民が我々を裏切り愚かな下等人類に与するとは、 その所業、万死に値しますよ!!」
エゲツナー戦艦からの声に英雄達はただ唾を呑むばかりであった。
「違うわ」
セリカは続ける。
「確かに私にはエゲツナー人の血が流れてる。でも私はその血が優れてるとも劣ってるとも思わない!私はあなた達の仲間じゃないわ!私はエゲツナー人の母とメサイアの父との間に産まれたハーフであり、私は私以外の何者でもない!!」
セリカの告白に衝撃を受ける英雄達。しかし、今はそれよりも優先すべき事があった。
「みんな、セリカに聞きたい事は山ほどあるだろうが、今は目の前の敵を倒すのが先だ!準備はいいな?」
英雄の一喝に、娘達は再び心を一つにする。彼女らの機体が一つの力に纏まった様に。新たなる力、キリンオーはその眼で敵戦艦を睨み付けると、両手と、背中の翼を大きく広げた。
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