1ー③
「ボクの名前は
シアはライゲルの操縦席に座り、話しながら手先を器用に動かしてコンソールをタッチしてゆく。 英雄はライゲルのコクピット内をしげしげと見回す。
「このメカ、地球には無い技術で作られているな・・・」
英雄がそう言うと、シアは機体の設定を終えたのか両手を離し、頭の後ろで組みながら仰け反った。
「そりゃ、 ボク達はこことは別の世界から来たんだからね」
仰け反ると、座っていたシートも倒れ、シアの顔は立っていた英雄の肩辺りの位置に移動し、悪戯っぽい笑みで英雄の顔を見上げた。
「ボクと、 このライゲルは『ヘテロティス』という世界から、さっきいた他の3機もまたそれぞれ別の世界から来たのさ」
シアは続ける。 青い機体はドラガォン、赤い機体はケツァール、黒い機体は
「おっと、初対面の人にこんなベラベラ喋るなんてどうかしてるな。 そういや、おじさんの名前は?」
またもおじさんと呼ばれ、英雄は少しむッとしながら答える。
「俺は来満英雄、28歳。 まだお兄さんのつもりなんだがな」
英雄の自己紹介を聞いたシアの表情が笑顔から驚きへと変わった。 英雄は冗談混じりに言った挨拶で若い子を引かせてしまったかと思った。
「今、何て!?」
「え?まだお兄さんのつもりだって……」
「その前!」
「来満英雄、 28歳だ」
シアは拳を握り、両手を突き上げて歓声を上げた。
「ツイてないどころか何てラッキーなんだ! ボク達はあなたを探しにこの世界に来たんだぞ。そしてエゲツナー帝国をブッ潰すためにね!」
シアの言う事が呑み込めないまま、英雄は数秒固まってしまったが、 その刹那。
『シアさん!セリカさんが!!』
ライゲルのコクピット内に無線の音声が響いた。 先ほどの転移でシアとともに現れた機体の内、青い飛行船・ドラガォンに乗っていたユリーナという少女からだ。 シアは5つある画面の内、1つを拡大した。
そこには地面へと背中から落下してゆく黒い人型ロボット・幻舞の姿が映っていた。
『敵の攻撃を食らったようでござる!』
赤い戦闘機・ケツァールに乗っていた少女・えつ子が続ける。 画面の向こうで幻舞は地面に叩きつけられた。 ドラガォンとケツァールが救援に向かおうとするも、エゲツナー機達にそれを阻まれる。
「セリカ!聞こえるか!?応答しろ!!セリカっ!!!」
シアが無線で呼びかけるも、幻舞のパイロット・セリカからは反応が無い。 不時着の衝撃で脳震盪を起こしたか、 或いはもっと最悪な状況だと思われる。
「シア君、急ごう!」
英雄が言うと、シアは左手をコンソールにかざしながら答える。
「もちろんさ!……それとおじさん、ボクの事は『シア』でいいよ」
シアと英雄を乗せたライゲルは疾駆。幻舞の元へと急ぐ。
ドラガォンがミサイルとレールガンで、ケツァールが体当たりで応戦するも、敵軍の攻撃の手は一向に休まらない。
『ああもう!数が多すぎますわ!ミサイルももう残り僅かですのよ!?』
苛立つユリーナ。
『あっ!シア殿が来ましたぞ!!』
えつ子が上空から、林の木々を薙ぎ倒しながら四本の脚で駈けてくるライゲルを発見した。しかし、幻舞まで目と鼻の先という距離で、ドラガォン及びケツァールと交戦していたエゲツナー機達は標的をライゲルへと切り替え、一斉にビームの照準を合わせた。
「奴らの狙いは俺だ!シア、一旦九時の方向にある池に飛び込むんだ。水中はビームの威力が落ちる!」
英雄の指示に頷くとライゲルは進路を変え、ゴルフ場の大きな池へと走った。
「飛び込んだら攻撃が止むまで、池から出るんじゃあないぞ?」
そう言うと、英雄は掴んでいた梯子を登り、キューポラを開けた。
「ちょっと、おじさん!?」
シアが振り返る頃には英雄はライゲルの外へ出て、キューポラの蓋を閉めた。
「よっ」
ライゲルが着水する瞬間、英雄は跳躍し、岸近くの水辺に単身で飛び込んだ。地上で、時速100キロで走るライゲルから飛び降りればさすがの英雄も即死するだろう。そして水中でライゲルの蓋を開ければ水が入り込む。英雄だけが外へ出る瞬間はここしかなかったのだ。
エゲツナー機のビームが池の水面を蹂躙する。英雄はビームが降り注ぐ前に岸から上がり、駈けだしていた。エゲツナー機たちが英雄の動きに気付き、砲撃を止めた。林の中を進む英雄。仰向けに倒れた幻舞の姿が見えた。
何故だろう。あの機体に乗る少女を救わなければならない。そんな使命感が英雄を動かしていた。エゲツナー機達が英雄と幻舞めがけてビーム砲を構える。
『させるかよォ!』
シアの声が響くと、ライゲルが池の中から飛び出した。ライゲルの尾がエゲツナー機の内一機を突き刺すと、エゲツナー機は機能を停止した。
『オマエらが機械である以上、ボクとライゲルの敵じゃあないッ!くらえ!ライゲルキャノン!!』
ライゲルの両肩に備えられたカノン砲から発射された砲弾がエゲツナー機を二機爆発させる。
『拙者達も!』
『居ましてよ!』
シアの元へ駆け付けたケツァールとドラガォンもガトリング砲とレールガンで残りのエゲツナー機を撃墜させた。
「おじさん、セリカの所へ辿り着いてくれよ……?」
シアは祈る様に呟くと、一気に脱力した。
『シアどの!?』
『”マシンハック“を使いすぎたのですわ。そして私もそろそろ魔力切れですのよ……』
ユリーナもシア同様に脱力し、ドラガォンは地上に着陸した。
『うぅ…セリカどのの元へ行きたい所でござるが、拙者がこの場を離れてはお二人が危ういでござるぞー』
狼狽えるえつ子をシアが宥める。
『大丈夫さ。さっき助けたパイロットはこの世界の“
幻舞の元へ辿り着いた英雄は仰向けの機体によじ登り、コクピットの入り口と思われる胸部ハッチへと進んだ。
「しまったな。どうやって開けるかを考えてなかったぞ」
幻舞の黒いボディは鈍い輝きを放っている。まごうことなく異世界の機体であるはずなのに、その構造は地球のMMSと似ていた。
「ハッチの形が乙型と同じじゃないか…?」
英雄はポケットから乙型のリモコンキーを取り出し、解錠ボタンを押す。すると、キーに反応し幻舞のハッチが開いた。
「そんなバカな…」
異世界の技術で造られただろう機体が何故か英雄の持っていたMMSの鍵で開いたのだ。有り得ない話ではあるが、それ以上に英雄は中のセリカが気懸かりであった。
「君!大丈夫か!?」
声を掛けながら英雄はコクピットの中へ入る。その中には前後複座式のシートと、その後列側に座った状態で意識を失った少女の姿があった。パイロットスーツではなく高校の制服の様なベスト、カッターシャツ、スカート姿の少女。黒いロングヘアが色白の顔によく映える。
「しっかりしろ!今助けるぞ…」
セリカの手を握った瞬間、英雄の脳内に映像が流れ込んだ。荒廃した大地、空を埋め尽くすエゲツナー帝国の艦隊。逃げ惑う人々……
「何だ!?この子の記憶か!?」
英雄の推測は的中した。次の瞬間、映像の中で泣きじゃくるセリカの姿が映り、映像は途切れた。英雄は奥歯を噛みしめ、前列の席に座ると、操縦桿を握る。
「起きろ!幻舞!!」
英雄が呼びかけると、停止していた幻舞のメインコンピュータが再起動した。
【お名前を】
液晶パネルに表示されたのは何故か日本語だった。が、英雄はそれを気にする様子も無く答える。
「来満英雄だ!」
【お待ちしていました。来満大佐。】
「大佐じゃない、大尉だ。というか何で俺の名前を…?」
英雄の質問に答えたのは幻舞のOSではなかった。
「この子は、あなたの為に造られたんです」
声のした後方を振り返ると、セリカが目を覚ましていた。
「私はセリカ……セリカ・ライマン……」
英雄の顔を見たセリカの目には涙が溢れていた。
「私と……私と一緒に戦ってください!」
叫ぶように押し出された声に対し、英雄は立ち上がりセリカの頭に右掌を置いた。
「任せろ」
その一言を言うと、すぐさま英雄は向き直り、再度シートへと腰掛けた。シートベルトが自動で装着されると、英雄とセリカは同時に叫んだ。
「「幻舞!起動!!」」
【了解しました。来満大佐、芹佳様】
幻舞の目が発光すると、仰向けだった機体は再び立ち上がる。そして、背部のスラスターから紫色の粒子を噴き出して、空へと舞った。
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