【竹オジ対決】自分の事をカグヤ姫だと信じて止まない一般おじさんを月に送る配信 その三


「ええい、こうなったら自棄じゃ自棄、何度落ちようと儂はこの洞窟を抜けきってみせるのじゃ! ゆくぞカツラ姫(男)!」


 VRホラーなんかしたらマジで死ぬ。

 そんな思いを胸に儂は不死鳥の如く立ち上がり洞窟を駆け上がっていく。

 なんか洞窟を下っている気がしなくもないが、これは月を目指すゲームなのできっとそれは気のせいだ。

 画面にはクワを使って先へと進むカツラを被った変態がいる。

 しかしこいつはもうここまで儂と道を共にした戦友であるので、今更格好は気にしない。


[カツラ姫とは]

[その通りだけどさぁ]

[(男)まで口に出さなくていいよ]

[きのせいだけど下ってない?]

[入り組んでるんだろ(適当)]


「よし、なんか洞窟の里みたいな所についたのじゃ。数多のゲームをやってきた儂の勘的にここにはきっとチェックポイントが……」


[ないぞ]

[このゲームにあるわけがない]

[あったらいいね]

[希望は捨てろ] 

 

 いや儂はそれを信じない。

 だってここまで来るのに三十分もかかっているんだぞ?

 今落ちたら、洞窟どころか何処に戻るか分からない。そんな事になったらマジでメンタルが死ぬだろうし、正気を保てる訳がない。


「……なかったのじゃ」


 マジでなかったよ。

 ほぼ横か上に進むだけのゲームだから探索するところも限られているし、戻るなんてもってのほか……つまり出来る限り探索して見つからないって事はマジでないって事なのだ。

 心なしかカツラ姫もなんかやつれているし、もしやこのゲームは儂の心情まで反映しているっていう素敵仕様なのか?

 いや、ないな。

 そんなハイテクなゲームだったらもっと話題になってるじゃろ。


「ッすぅー……ここ、どこじゃ?」


 先に進めばあったのは合流地点になっていると聞いたはずの神社ではなく、何処からどう見ても海の中……。

 上を見れば亀や魚が泳いでいて足元には少し荒いグラフィックの蛸や雲丹がいる。

 しかもなんか画面には今まで見たことのないゲージのような物が出現し、止まっている間にどんどん減っていた。


「なぁ、マヨイビト達よ……これってもしかしなくても酸素ゲージ的なものか?」


[違うよ]

[そうだよ]

[早く進もうぜ]

[気にしなくて良いからその場で待ってみよう]


「あ、鴉さんは海に着いたのね、抜かされちゃったわ」

「え、これって聞いてた神社より先なのか?」

「そうね、待ってたのだけどやるじゃない」


 そうなのか、という事は儂は勝ってる?

 セレネ様の配信を見ていた限り人を騙すような人間じゃなかったし、これは信じて良いだろう。でもそれだと合流するっていったのに悪いことしたな。戻った方がいい気もするのじゃ。


「それと戻らなくていいわよ、これは真剣勝負だもの」

「よいのか? なら儂は先に進ませて貰うじゃ!」


 そう言って貰ったのなら進まない訳にはいかないのじゃ。

 セレネ様はゲームというか、何をやるにも全力で他者を楽しませるという信条を持ってやっているといつかの雑談配信で言っていた。

 それは儂も掲げている信条だし、その気持ちは誰よりも分かる。

 だからここで手を抜く……ましてや戻るという選択なんて選べる訳がない。

 

「はやく進まないとやばいのう、このゲームの事じゃから実は何もなかった草みたいな事があるかもしれないが、こんな危なそうなゲージを無意味に設置する訳などないし、急いだ方がいいはずだからのう」


 そしてそのまま進んで行けば、亀を渡って進む場面や、蛸の足に引っかかって先に進んでいくという技術を要求してくる場面が増えてきて、かなり苦戦してしまったが、なんとか突破。

 時々酸素ゲージを回復出来るような場所もあり、そのおかげで酸素ゲージを維持しながら出来ていたが、ここでピンチが訪れてしまった。


「ッ――ゲージがヤバいのじゃ、泡は……泡はどこじゃ?」


 視点を動かし周りを見渡すも、助けてくれるシャボン玉は見つからない。

 そうしている間にもどんどんゲージは減っていき、遂には赤色になってしまった。

 さらに焦らせるように慌てさせるような音楽が流れてきて、儂の操作がおぼつかなくなってきた。


「そうだ鴉さん、私今富士山にいるの――この意味、分かるかしら?」

「富士山と言えばかぐや姫に関わる重要な山、まさかそこから行けるのか!?」

「察しが良いわね、じゃあ私は向かわせて貰うわ」

 

 やばい。

 何がヤバいって、儂どう考えても海の中だから月に行ける気がしないし、酸素ゲージないからゲームオーバーになる可能性があるのもやばい。

 VRホラーは絶対に嫌だしここまで頑張ったのだから勝ちたいという思いがあるので負けたくない。


「あ、酸素ゲージ切れたのじゃ」


 儂の画面が暗転し、やってくるのは古き良いわかりやすい死亡BGM……と思ったのだが、横から亀が現れてカツラ姫を乗せて何処かへ移動し始めた。

 そしてやってきたのは豪華な城。

 海の中に存在する御伽噺で見るような竜宮城だった。

 

「え、儂生きてるのか?」


[あ、レアイベだ]

[どんなイベントなの?]

[発生条件は?]

[亀の甲羅を全部一回で乗ることが出来ると起きる初見じゃ分からないイベントだよ]

[そういえば、やってたね鴉様]


「という事は儂にはまだ希望があるって事か?」


 これは運が良いのじゃ。

 助かったぞ見知らぬ亀よ。

 だけど一つ気になるのじゃが、なぜ止まってくれないんじゃ? このままだと竜宮城の壁に激突するような……。


「って、スピード落とすのじゃ! 海の交通ルールとか知らぬがこの加速はスピード違反じゃろ!?」


[気にしたら負けや]

[亀だからセーフ]

[車じゃないからね]


「そういう問題じゃないのじゃー!」


 スピードを落とすことのない亀はさらに加速を進め、壁をぶち抜きながら竜宮城の中に突撃し始めた。

 そして、それは竜宮城の上へと進んで行き誰かを轢いた後で煙突のような部分から飛びだした。 

 この状況をありのまま説明するとするのなら、亀の足にクワを引っかけたカツラを被った変態が、超高速で空へと向かっているというもの……何処からどう見てもカオスだし、状況が理解出来ない。

 そしてちょっと画面の横を見て見れば――。


「なぜこの時代設定でロケットがあるのじゃ!?」


 飛行するロケットが隣にあり併走して空へ向かっていた。

 時代設定は正直よく分かってないが、時々見えたモブキャラの服装や建物的にロケットがあるよう時代ではないはずだ。

 なのに横には近未来的なロケットがあって、中には少し竹の色が違う変態が乗っている。


「くっまさか追いつくとは思わなかったわ鴉さん、ここからが本当の勝負ね!」

「儂のテンションが置いていかれてるのじゃ……というか、この亀なんなのじゃ?」


 なんでロケットと平行して進めるんだとか、月目指すって事は大気圏を亀で突破するんだよねとか……だけど、今の言葉を聞く限りこれは終盤……操作できなくなってるが、ここが正念場となるだろう。

 ならば頑張るだけだ。


「大気圏を抜けるわ! 今は私の方が早いわよ!」

「行け名の知らぬ亀よ、主ならもっと早く飛べるはずじゃ! 万年生きるとされる種の矜持を見せとくれ!」


 儂の言葉に呼応してか、目をキランと光らせた亀からジャット機のようなものが生えてきて驚異的な加速を始めた。


[覚醒した!?]

[何が起こってるか分からないけど、熱いって事は分かった]

[もうツッコミ所しかないわ]

[これが最新のバカゲーか……]

[意☆味☆不☆明]


「行け、止まるな。主なら行けるぞ!」

「私のロケットを舐めて貰ったら困るわ、まだ諦めないわ!」

 

 そして見えてくる月面。

 大気圏を越えて何処から酸素を補給しているのか分からない状況でやってきたのは目的の地。

 僅差の勝負はどっちが勝つか分からない程に接戦となっており、後はもう天に祈るのみとなった。


「行くのじゃー!」

「届きなさい!」

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