吸血魔王と裸の筋肉
鴉様のノベルゲー配信@コラボのお誘い
ぐちゃりとそんな音が鳴っている。何処とも分からない暗く静かなその場所で絶え間なくその音は鳴っていた。
僕はどうしてここに居るのだろう?
なんで……こんな所にいるのだろう?
見渡しても何も見えない――だけど音だけは続いている。
ただただ同じ音を聞くことしか出来なかった。
一定間隔で近づいてくるようなその音を聞いていると、今にでも狂ってしまいそうだ。
「ミつケた――ヨ?」
ぬめりとした湿った感覚、それが触れたと同時にそんな声が耳元から聞こえてきた。
「これで――ズット、一緒だネ?」
BADEND 21 【共生】
BADEND……そんな文字が表示され、やってくるしばしの沈黙。
確認用の画面で見れるコメント欄には草ばかりが生え、それが余計に心を抉ってくる。
そして、
「だからなんでじゃー!」
儂の心の底からの叫びが部屋に響き、癖で机を叩いてしまった。
バンッという勢いのよい音と、再び聞こえる軽快なBGM……何度聞いたか分からないそれに、多少苛立ちながらも儂は再びタイトル画面に目を通す。
目に入るのはタイトル文字、数十回ほど訪れたこの画面。
これ以上ないタイトル画面&パッケージ詐欺に心をやられながらも、儂は再びデータをロードした。
流石にこれだけ繰り返せば心はなくなってくるが、一つだけ聞かせてほしいのだ。
「さてマヨイビト諸君、儂の何がダメだったと思う?」
切実なその問い。
画面の先に居るマヨイビト達は、きっとその問いに答えをくれるから――そんな考えで投げかけたのじゃが……返ってきたのは無情な反応だった。
[だからスライムは助けるなって言ったのに]
[このゲーム基本人助けしたら詰むからなぁ]
[続きどうぞ]
[学習しないぽん鴉]
[気持ちは分かるが、見て見ぬ振りしないとね]
[……スライムに負ける鴉様?]
[閃いた]
「閃かないで?」
意図せぬホラゲーのせいで闇に葬りたいロリ声が出てしまったが、今回のはホラーノベルだったからここは許してやるのじゃ。
というか、マヨイビトが閃くせいで母上が浮夜鴉を増やし、それに触発された他のマヨイビトが更に増やすという永久機関はいつ収まるのじゃ? こないだイラスト投稿サイトでタグ見たときとか、日中から変な声が出たのじゃ。
「でだ、マヨイビト達よ……すっごい今更じゃが、このゲームのジャンルを答えてくれぬか?」
[ラブコメギャルゲ]
[タイトル通りラブコメ]
[ラブコメありのハートフルゲームだぞ]
[なんでそのハートフルゲームで主人公が死んでいるのですか?]
[萌え死んだんじゃね?]
[鴉様に殺される俺らと同じ感覚だよきっと]
「確かにじゃ、儂は主らにやるゲームを募集し、最初は別の種族が出てくるハートフルラブコメと聞いたぞ? ……じゃがな、蓋を開けたらハートフルボッコ系ホラーノベルとか主らに人の心はないのか!?」
[草]
[妖怪に人の心がないかと聞かれても]
[涙目で草]
[このゲームの完全初見プレイはいつみても面白い]
[鴉様無限に死んでそう]
[耐久配信になりそうな予感]
タイトルは少し違和感がある物の、よくあるノベルゲーム風のモノで【僕の不思議な日常ラブコメ】だった。
だけどどうだ? 蓋を開ければ某運命のゲームの主人公以上に命が軽く、そこら辺に死が詰まってる世界とかどうなっているのだ。
まだマシな怪異系のホラーや人間の闇、挙げ句の果てに修羅場からの殺し合い。
なんなのだろうかこの悪意の玉手箱は……。
ここに来るまでに既に主人公が何人亡くなったのかはもう分からず、多分今頃墓場には数十個もの死体が埋まっているだろう。それも変死体ばっか……。
「まああれじゃな、流石にそろそろこのゲームにも慣れてきたし……攻略予定じゃった巫女の子をさくっとハッピーエンドにでも連れて行くのじゃ!」
顔を一度叩いて気合いを入れて切り替える。
深呼吸してからマウスカーソルを続きからに合わせてクリックし、一番最新のデータをロードした。
とりあえず、桜の木の下の選択肢に戻った儂は、物音を無視してヒロインの子と下校する。
[学習する鴉]
[鴉は賢いからね]
[なお初見の時]
[「こういう時の物音はきっといいフラグなのじゃ! 猫とか出てきて!」]
[しかもこのゲームの猫は基本的にやばいと学んだばかりでやったから本当に吹いた]
[一個前は飼い猫に飼われるENDだったねトオイメ]
「猫可愛いから仕方ないじゃろ、そもそもがさがさっていう物音でスライム出てくるとは思わないのじゃ……」
普通なら物音がするとかなら猫とか犬とか猫とかじゃろう。
どんな思考回路だったらスライム娘が倒れているという発想に至れるのじゃ、罠じゃろあれ……。
「とりあえず今日はエンディングまでやっていくが、引き続きネタバレは無しで頼むぞ」
[はーい]
[任せろ鴉様]
[雪椿:任せて。あともうスライムに襲わせてるからあとでFAチェックだよ]
[仕事が速すぎる]
[もうそういう妖怪じゃん……]
[先生ぇ]
「相変わらず母上は速すぎるのじゃ……」
本人曰く大学生らしいが夏休みの課題とか大丈夫なのだろうか?
儂の配信の時は毎回いてくれていて、凄く嬉しいのだがそこが心配だ。
昨日も妄想が爆発しそうって呟きながら数枚ほどの絵を投稿していたが、あのペースでいつ休んでいるのだろう?
儂の絵に加えて、自分のオリジナルの作品のキャラ達その他の漫画の仕事など……人間のはずじゃが本当に凄い体力だよな。
「よし……今日は絶対にハッピーエンドまでいくのじゃ!」
ゲームを進めながらエモい展開を目にした儂は改めてそう決意しながら、テキストを進めていった。
─────20XX年8月17日─────
10:25 日祀社 突然ですがコラボのお話持ってきましたよ浮世鴉さん
10:29 浮世鴉 突然ですね……自分は大丈夫ですよ
10:30 日祀社 話が早くて助かります。それで今回のコラボなんですが、なんと箱外……
つまり、他の事務所とのコラボなんですよね
10:32 浮世鴉 別の箱とのコラボですか、楽しそうですね
結構ありますが、どの事務所とのコラボなんですか?
10:34 日祀社 異世界バーチャルズですね、そこの魔王であるシュヴァルツさんとのコラボです
10:37 浮世鴉 また大手ですね、何やるかは決まってるんですか?
10:40 日祀社 そこは当人達で決めたほうが面白くなりそう……と社長が
10:42 浮世鴉 あはは、了解です
10:45 日祀社 あとはこっちで打ち合わせの機会を設けますが、特に質問はありませんか?
10:47 浮世鴉 特にないですね、頑張らせて貰います。
そんな事があって、初めての箱外コラボが決まった翌日。
緊張もあるが、今回のコラボは相手側からの依頼という事もあり大半を嬉しさが占めている。
でもまだやはり緊張は取れないので、少しでもそれをほぐすために先日箱外コラボをした糀の奴に相談することにした。
「やっほ糀……先日のコラボお疲れ様ー」
「あざます盟友、大変でしたが楽しかったですよ」
通話をかけてから数秒で繋がり第一声としてそう言えば、糀の奴は上機嫌でそう返してきた。
先日というか三日ほど前の八月十五日に糀は、俺がコラボする予定の異世界バーチャルズの勇者枠であるブランというVTuberとコラボしていたのだ。
やった内容といえば、全世界の遊びが51種類も詰め込まれた最新のゲームで野球をしたりタコ焼きというカードゲームをやったりしていたのは記憶に新しい。
野球では糀の奴が数回ほどホームランを食らったり、タコ焼きで何故か無双する大妖怪の姿が見れたりと非常に満足する動画となっていたのを覚えている。
「それで盟友、何の用ですか?」
「そうだそうだ今度俺も、箱外コラボする事になったんだよ」
「いいじゃないですか! 何処とやるとか決まってるんですか?」
「お前と同じ異世界バーチャルズだな、魔王様とコラボする事になったぞ」
「…………まじですか、流石盟友」
「それで今日は緊張がやばいから、かけたんだが……この後ゲームでもしないか?」
緊張を解すならゲームが一番。
それにこいつとなら気楽に出来るし、何より楽しい。
それに今日は今度配信でやる予定の鬼ごっこゲームの練習をしたかったし、ゲームが上手い糀と一緒にやれば上手くなれるという算段だ。
「そういえば、魔王様の配信って見たことありますか?」
「元々見てたが、昨日から過去の配信を見てる感じだな。どういう人か気になるし」
「そうなんですね、それならおすすめの動画ありますよ?」
「まじか、なら後で送ってくれ」
「任せてくだ――――盟友待って! そっちに仮面の殺人鬼が!」
「えっちょまひゃぁ!」
話に集中していたら曲がり角からマイケルに襲われるという事件が発生し、最早染みついてきたロリ声を配信外で出してしまうという痴態を晒してしまった。
そういえば、魔王様の配信ってホラーゲームが多いけど……まさかコラボでもホラーやるとかないよな……毎回ガチで怖いホラーをやる人だから、普通にホラーを持ってくる可能性があるが……儂、ロリにならずにすむかなぁ。
仮面の殺人鬼に即死攻撃を決められながらも、俺はそんな事を考えて、次のマッチへと向かう事にした。
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